リリィとの出会い。
この世界の俺、
マホガニーはフリーの芸能マネージャーだった。
特定の貴族につくわけじゃなく、雇い主があらわれたら、その歌姫をお世話する。
そういう仕事だった。
そんな俺のところに、依頼が飛びこんでくる。
中級貴族の令嬢リリィのマネジメントだ。
俺はさっそく屋敷に向かう。
マネジメント対象を確認し、マネジメントできるかどうかを判断する目的と、
あとは貴族側が俺を雇用するかどうかのテストという目的もある。
なんせ。歌姫バトルに勝って頂点を極めると、家柄が上がるわけだから、ある意味、良い投資案件ともいえるからだ。
そういえば、転生して別人になってはいたが、
なぜか昔に知り合いに貰った健康御守りだけは持っていた。
『崎守神社』って、どこの神社なのだろう?
まぁいい。俺は気にせず、ポケットにいれた。
俺は屋敷につき、さっそく依頼主に面会を求めた。
やってきたのは、18歳の令嬢。名前をリリィと言った。
執事が率先して話を進める。
リリィは終始こちらを目踏みするような態度を取っている。
ちょっと……。
性格きつそうだ。
執事の話によると、これまで3か月の間に、10人のマネージャーを解雇した。もしくはやめていったそうだ。
おいおいおい。3か月で10人のマネージャーが去るなんて、尋常じゃないだろう。
俺はリリィを観察した。
色白ではあるが、容姿は平均的だった。
俺はリリィに課題曲を歌ってもらう。
これも平均的だった。
性格がキツメ
容姿は普通
歌唱力も普通
おいおいおい。これでどう売るっていうんだ。
俺は頭を抱えた。
リリィはそんな俺をまだ睨みつけている。
あぁこれもう終わったやつだな。
「どうせあんたも、お前にはムリだって思っているんでしょ」
リリィはそう言ってきた。
あっこれどう返したらいい奴?
そんなことないなら、嘘つかないでって切れられるよな。
あぁそう思っているよなら、たぶん殴られるよな。
どうしよ。
まぁいい。
「ムリかどうかは、現時点でなんとも言えない。
ただ俺はマネジメントのプロだ。
仕事を受けるなら、全力でやる。
あとはお嬢さん、あなたしだいだ」
と言った。
まぁこれくらいしか言えないもんな。
「なっ……。
なによ。私はがんばるわ。あんたも頑張りなさいね」
そう言ってきた。
あれなんだ。
こいつ意外と性格いいんじゃないか?
そう思った。
帰り際、執事がこういった。
「リリィ様は、孤独な方なのです。家からの期待の重圧を一心に背負われて……。
歌姫になれるのは、たったおひとり。難しいのはわかっております。ですが、リリィ様が誇りに思えるような結果を引き出して差し上げてください。
私ども使用人で、できることであれば、なんでもいたします。
どうかよろしくお願いいたします」
深く頭を下げて頼まれた。
使用人に好かれる性格の悪いお嬢さんか……。
おもしろいな。
遠くにリリィが見える。
──リリィの横顔を見ていたら、ふと、あのときのましろを思い出した。
……
3年前
俺は久しぶりに実家に帰ってきた。
公団だ。
あちこちのコンクリートから錆びが浮き上がっている。
ここを出てから、
ずいぶんになるな。
あれ……。
だれか歌っている。
良い声だ。
頭に染みつくような美しさだ。
この曲は?
ブルーハーツの to match pain
か……。
ずいぶん懐かしい曲だな。
誰だ?
あれ女の子。
「あの……。君」
「えっなに?おじさん。変質者」
とあからさまに警戒する女の子。
「いや……。そうじゃなくって
一応芸能マネージャーなんだけど、実家がこの団地でさ。
久しぶりに戻ってきたら、キレイな声だったから、思わず声かけてしまった。
ごめん職業病だよ」
「なんだ。そうか……。
芸能マネージャーって、アイドルとかの?」
多少興味があるらしい。
「あぁそうなんだ。さっきの曲、あれはブルーハーツ to match painだよね。
あぁいう曲をよく歌うの?」
「あれは父さんの形見のテープにあった曲。
もうカセットデッキがつぶれたから、聞けないから、たまに歌ってるんだ」
「他はどんな曲歌えるの?
アイドルとかの曲歌えたりする?」
「うん。歌えるよ。聴きたい?」
「聴きたい。聴きたい。ちょっと録画させてもらうな」
「いいよ。かわいくとってね」
それから、彼女は3曲ほど披露してくれた。
「事務所に持ち帰らないとわからないけど、もし上手く行くようなら、デビューしてみないか?アイドルとして」
「私でもできるなら、やってみるよ」
彼女はそう言った。
連絡先を交換し、その場は別れた。
事務所に報告すると、採用が決まった。
ただ売り出しの予算はあまりかけられないと言われた。
よくある事だ。
確実性の高いアイドルには、どんと投下するが、ちょっと色物には、ほとんど宣伝費用を投下しない。
彼女は歌は上手いが、アイドル性は低いとの判断から、予算はかけれない。デビューはさせてやる。
でも自分らでなんとかしろという方針だった。
よし俺がなんとかしてやる。