転生?
目覚めたとき、暗闇の中に光の粒子があった。まばゆく、そしてどこか懐かしい。
「おい、聞こえるか。おい、君。……」
「……うん。ここ、どこだ。あんたは……」
「私かい? 私は神様だよ。なんだか、ずいぶん不本意な死に方だったようだね」
辺りを見渡しても一面の闇。静寂の中にただ光の粒子と、神様の声が響く。
「それでね。目覚めてすぐでわるいんだけど、君…転生者リストに載っているんだ」
「転生者リスト?」
「そう。転生者リスト」
「と…いうことは、ハーレム展開とか、無双展開とかですね。俺苦労したし」
「あ~君もか…。そういう転生はね。神様の中でも上位のものにしか与えられないんだ。私クラスの神には到底ムリ」
「じゃあ転生先とか選べるんですか?」
「それも無理だね。今回の場合の転生は、本来死ぬ運命だった人物の人生を引き継ぐ、という形式。つまり依り代だね」
「依り代って……」
「つまり、誰かの人生に途中から乗っかるってことさ」
「……俺、前世もハードモードだったんだけど」
「まぁ楽しんでおいでよ。あれ君……。うわ。また厄介な奴きたわ」
「なんですか?」
「いや、なんでもない。で、何か欲しい能力ある?」
俺は真剣に考えた。
「……モテたい」
「それはムリ。じゃ、よろしく」
そう言って光は消えた。
もっと別の条件を出したほうがよかったのか――。
気が付くと、俺は知らないベッドに横たわっていた。
雰囲気からして、中世ヨーロッパっぽい。どうやら転生は本当にしたらしい。
ズキン……
頭が痛い。記憶が、流れ込んでくる。
これは依り代だったマホガニーという人物の記憶だ。
あまりにも気持ち悪くて、何度も吐いた。
自分の中に他人の記憶が入ってくる――これは、二日酔いの5倍は不快だった。
どうやら俺の依り代マホガニーは芸能マネージャーで、28歳になってすぐ、食中毒で亡くなったようだ。
芸能マネージャー!? いや中世だよな? どんな国だよコレ!
頭の中に流れ込んでくる情報を整理する。
なるほど。そういうことか。
どうもこの王国は芸術と芸能の都を標榜しており、国策として、芸能に力を入れているようだ。
歌姫は、ほぼ例外なく貴族出身。
そして貴族同士の歌姫バトルが3年に一度開催される。
頂点に登り詰めると、家柄の格アップにつながる。
このバトルに勝つようにマネジメントするのが、マネージャーの役目だと。
しかし、マホガニー……。
こいつ、マネージャーを真剣にしていたのか?
あまりにも育成ノウハウやマネジメントの知識が少ないかもしれないな。
あれ……。
こいつスケジュール管理も、金銭管理、イベント管理、ファン管理すらできてねぇ。
ヤバくないか。
まぁいい。
一応情報を整理しておこう。
歌姫バトルには、
・貴族票
・庶民票
・外国からの招待客票
などがある。
こんな感じだ。
―歌姫バトルの票構成―
・貴族票:一家に300票。家長が家族・使用人に配分
・庶民票:全成人に1票。職業制限なし
・外国票:同盟国に対し1国あたり300票
・王族:票は持たないが、発言が影響力を持つ
意外なのは、王族の票がないこと。
これは王族が投票すると、派閥争いになるからという配慮らしい。
まぁ上手く考えてある。
貴族票と庶民票があるということから、ちょっと日本の選挙制度と似ている気もする。
与党の代表を決める際には、国会議員票と、党員票という仕組みがあったからな。
貴族票の配分基準は、当初家格ごとに重みづけが変わっていた。
しかしそれでは特定貴族に有利すぎるということで、一家に対して300票分のポイントを配分するということに決まった。
家長は、その300票を家族と使用人に対して配分しなければならない。
しかも使用人一人に対して最低1票は与えないといけないとされたのだった。
これはなかなか厳しい措置で、使用人が多いところほど、家長や家族の歌姫バトルへの影響力が、そがれることを意味していた。
次に庶民票の投票資格は、全成人で職業制限もなかった。一人1票だ。
当初職業制限がないことに反対があったが、
「職業で制限があるのは、王族だけで十分」
との一言で、皆沈黙した。
外国票に関しては、基本的に同盟国にのみ与えれれることになっている。
審査基準は特に決まっておらず、一つの国に300票与えられた。
王族は投票はしないが「演説」などで影響力を持つこともあった。
たとえば三期前の歌姫バトルでは、王妃がある歌姫を『絶賛』したことから、その歌姫に人気が集中して歌姫バトルを勝ち取った。
ただその後、いろいろ揉めたことから、絶賛などはしないようにという通知が国王より王族になされた。
これだったら、実力があるものが上に行くんじゃないか。
俺はそう思っていた。