表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

春雨

 少女の瞳から弾かれるように涙がこぼれた。きっと春の迫力に耐えかねたのだろう。常緑樹は輝きを増し、風にはそのハリのあるまつ毛を根こそぎ抜くような力強さがある。ビル街で育った彼女には致死量の色彩があった。たった視界を3cm上げただけで、息苦しくなる春であった。

 涙は雨の如く零れ落つ。涙というのは実に不思議だ。その恐ろしく透き通った水分には、想像も絶する記憶が含まれているのだから。煮詰まった感情はひとたび外の世界に溢れだすと、こんなにも美しくなるのだから奇妙なものだ。

 少女は大切な人を失ったばかりだった。

(私はこんなに辛いのに、春はこんなにも美しい…。)

こんなにも悲しい春は初めてだった。彼女は自分をいわゆる薄情者、だと思っていた。しかし、失ってから痛感したのだ。

(私は薄情者ではないのかもしれない。私は思っていたよりも、人を愛せるのかもしれない。)

彼女は自分が惨めであった。自分を薄情者と思い込むことで、人を愛することを避けてきたのを知ってしまったから。そんなもの、ただの臆病者ではないか。ただ、人と別れるのが怖かっただけなのだ。

 少女は何も告げずに去ってしまった友達Tが、憎くてたまらなかった。Tが自分よりもずっとずっと薄情者に思えた。自分が見放されたように思えて、やはり惨め極まりなかった。

(なぜ私に何も言わずに行ってしまったの…。)

ありえないほど虚しく、悲しかった。こんな哀れみに強襲される今日くらい、雨を降らしてくれよ、と揺れる黒い眼が叫んでいる。一色の青に包まれた春を恨んだ。この世界ごと呪ってやりたかった。

「きれいな、春……。」

風が涙を散らす。まだ桜は蕾の中に潜んでいるが、他の花々が眩しく照っている。涙は太陽の光を受けてきらりと音を立てた。実に美しい春雨であった。


春先は、別れの季節ですものね。

わたくしにもある別れが訪れましたので、少しずつ、こちらに綴っていきたいと思います。

                   雨水ヒトミ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ