スペシャルドリンク
乗り合い馬車の乗り場へ着いた。
隣国に向かう旅人は多いから、馬車も定時に出ていた。
国境の町は、なぜか宿が多いらしい。
見送りにそこまでくる人もいるのか?
食堂と宿とお土産店のある町。
そこへは、馬車で半日。
これから向かえば、着くのは夜。
翌朝に歩いて国境を越えて、隣国に入る。
国境警備隊の事務所で身元の確認がある。
出るのは簡単だけれど、入るのはしっかり確認される。
身分証明書などは平民には無いから。
なぜ、国を出てどこに行って何をするのか?
証明書みたいなものを、役所なり職場なりで発行して
もらわないといけない。
私は、孤児院の院長先生に書類を書いてもらった。
孤児ではあるが、名前はある。
アミルだ。その当時の院長先生が付けてくださったと聞いている。
どこで何をするかは、未定だらけのためパンチが無いけれど一応、どこか商家の下働きが希望と記載されている。貴族のお屋敷は孤児だから厳しいだろうと。
隣国は、言語が違うのだけれど
私の憧れが本気になった頃から、独学で勉強した。
孤児院に下請けを頼んでいる支援の貴族家、
担当者が隣国出身者とわかってからは
院に訪れた時に、異国語で話しかけて驚かれ
そこから勉強のために隣国語でやりとりさせてもらっていた。発音をきちんと学ばせてくれたことは感謝してもしきれない。
落ち着いたら、また別の国の言葉を学んでみたい。
世界は広いと知りたい。
乗り合い馬車に乗った。
簡単な幌のかかった二頭立ての馬車。
八人乗りで、四人が向き合っている。
商売人、冒険者?、子供を連れたお母さん、おじいさん
中年のご夫婦と私。
揺れるから、出きることはおしゃべりか寝ることくらい。
途中で時間を持て余し始めた男の子に、冒険者の青年が
冒険の話をし始めた。
目をキラキラして聞き入る男の子と私。
まわりも目をつむっているけれど、きっと聞いている。
休憩を挟みながら隣国を目指す中、お昼になった。
乗り合い馬車の乗り場近くで、お昼用のサンドイッチを買っていたので休憩の時に、馬車で食べた。
皆それぞれ何かを口にしていた。
食べなきゃ、いくら馬車に座っているだけでも体力とお腹は減るのだ。
その時、何も口にしていなかった冒険者の青年がふらっとしたと思うと
私に倒れかかってきた。男性たちがあわてて腰かける場所に横に寝かせた。
意識はある。聞けば二日程何も食べてないそうだ。
冒険して手に入れた素材とともに、うっかりうたた寝していた最中に失くしてしまったらしい。
動物に持っていかれたか?盗られたか?
命まで獲られず済んで良かったのでは?
頑張って故郷の隣国に戻ろうと、持ってたお金は
馬車代で底をついたらしい。
かなりの冒険者?チャレンジャーとも言う?
私は、持っていたあのスペシャルドリンクを青年にあげた。
「げふっ!」って変な声だしつつも全部飲んでくれた。
味はわからんが、想像は出きる。
効果はたぶん、絶大だろう。
旦那さんの料理の腕は最高だったから。
身体にいいものが、ぎゅーっと濃縮よ。
サンドイッチの残りもあげた。
男の子が、クッキーをあげていた。
段々と顔色が戻り、耳から煙が出た?「ふんす!」と
音が聞こえたような気がするほど
元気になった。さすがスペシャルドリンク。
日が沈むころ、国境の町に着いた。
冒険者がおすすめの宿を手配してくれて
商売人とおじいさん以外、みんな同じ宿に泊まった。
隣国に入る前で緊張も高まっていたのか
全くお腹が空かなかったので、そのまま部屋に行った。
その時、冒険者に呼び止められた。
「今日はありがとな!あの…スペシャルな…ごふっ!
ドリンクがなければどうなっていたか。」
(思い出したんだな?あの味を)
「これ、もらってくれないか?いつだったか冒険中に手に入れたものだけど、おまえにやるよ!」
キラキラと光に反射する貨幣くらいの小さな石がそこにあった。水晶は見たことあったけど、これは虹色だ。
引き込まれそうなきらめきに、心まで乗っ取られそう。
女の子って宝石が好きっていうけれど、
まさしく私も、女の子だったわ?
「こんな高価なものはもらえませんよ?お気持ちだけで
十分です!」
言うより先に手のひらに乗せられて、姿を消した。
さすが冒険者、瞬発力?がすごい。
いや、どうするこれ?もらえないよさすがに。
明日帰そう!そう思いながら
虹色の見たこともない美しい石を今夜だけと眺めながら眠りについた。