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お宿でゆっくり

慌ただしく立ち去ったお嬢様のあと、

刺繍糸と裁縫道具を買ってお店を出ようとしたら

女性店員さんが

「これ、荷物になるけど持って行って。刺繍の参考になるといいんだけど。」

と、図案集をくれた。


「もし、あなたのハンカチが無かったらお嬢様は満足してなかったと思うの。あのハンカチは本当に素晴らしい品物だったわ!王都でもなかなか見ない生地ね。ありがとう!」


そこまで聞いて、あの体格のいい偉い騎士さまは

王都で名のある方なのだと思わずにはいられなかった。

今となっては、会うこともないだろうけれど。

思い出の中に、あのハンカチはしまっておこう。


なんやかんやでお昼になっていたので、

今夜の宿を早く決めて、そこでゆっくり刺繍をしようと思った。刺繍は好きだ。見たことのない図案もある。

早く刺したくてそわそわしてきた。

店員さんにおすすめの宿を聞いた。

双子のかわいい娘さんたちがいる夫婦のお宿らしい。

ちょっと別れた孤児院の子供たちを思い出しそうで

もしかしたら、泣けてくるかもしれない。

ホームシックにしてはまだ二日目だけど、やっぱりひとりはさみしい。


お世話になった店員さんにいいことがありますようにと祈りながら宿へ向かった。


宿に入ると、食堂もあるようでお昼だけ一般向けに営業してるそうだ。

日替わり定食しかないけれど、何が食べられるのか楽しみなので大満足。宿にも泊まりたい旨を伝えてから食堂に腰を下ろす。

出てきたランチは、メンチカツ定食…

牛肉と玉ねぎの甘みと、肉汁がぐっとくる美味しさ。

昨日の牛さんではないだろうけれど、心から頂きます!と祈りと感謝を捧げて食べた。

デザートのミルクプリンも美味しかった。


お腹の大きい奥さんが給仕で、厨房は旦那さん。

双子の娘さんたちはどこにいるのかな?

食べ終わった頃、ニコニコした奥さんが宿の案内をしてくれて、いざ部屋へ!となった時に

どこからかかわいい女の子二人が現れた!


「「お客様、ご案内しま~す!」」

か、かわいい!10歳くらいのおんなじ顔の双子ちゃん!

奥さんは、身重で階段のあがりおりがきついからお手伝いなんだそう。

えらいね!いい子たち。

宿が賑わう頃は、夜がふけた頃なので時間がある。

「遊んでおいで!」と言われていた双子ちゃんに

興味があるなら、刺繍をするからお話しながら見る?

と聞くと

「「見る~!!」」って返ってきたので奥さんに許可もらったらおいでと伝えた。


しばらくすると、お茶とお菓子を持った旦那さんと

双子ちゃんたちが部屋にやってきた。

奥さんは臨月が近いため休み休みだから、子供たちの

面倒をみてくれて助かると伝言をもらった。

おやつまで頂いて、なんだか幸せ。


せっかくだから、白いハンカチが三枚。

上等な生地だけど、双子ちゃんたちには初めての刺繍だとツルッとしててちょっと難しいだろうけど、

これも縁だわ。楽しもうか。


刺したいお花を聞いて、簡単な図案を描いて、

針に糸を通すことから始めて、刺していった。

10歳ともなると、慎重ではあるけれど呑み込みが早い。

ガタガタな縫い目でも、出来上がったものは

初心者ながら、味わいがあり素晴らしい。

ピンク色の小さなお花の刺繍と、黄色が鮮やかなお花の刺繍。出来上がったハンカチはどうするの?と聞くと

「「はい!!」」

とお互いに渡し合った。

さすが双子!息がピッタリ。


聞くと、相方が好きなお花を刺繍したらしい。

はずかしそうに笑う顔も、ふたりおんなじ。

どうか、永遠に仲良しで幸せでありますように!


私のは、図案を難しいものに挑戦したのと

教えながらだったため、夕食までには完成しなかった。

寝る前にゆっくり刺すつもり。


宿と食堂は、夜になると大にぎわい。

双子ちゃんたちもお手伝い。食堂も満席で

賄いを後でもらえるならと、手伝わせてもらった。

お腹の大きい奥さんを見てると、私が生まれる前の

見たことない母もきっと、大変だったんだろうと思ったから。平民は、働かないと生きていけないから。


賄い、お肉たっぷりのクリームシチューだった。

豚肉だった。牛肉はしばらく気まずい。

お腹いっぱい食べてしまい寝苦しかった。


翌朝、深夜まで刺繍をしていたからか早くに起きれず

ゆっくり朝食を食べて宿を後にした。

図案集から、隣国の国花をメインにしたものがあり

白いハンカチに、光沢のある白の糸で立体的に刺繍した。差し色には隣国の国旗の色を入れてみた。

我ながら上出来。この先の希望を込めたので、お守りのような大切なものになった。

何もないところから、美しいものが生まれる感動。

隣国の絵画や音楽、街の風景早く観たいな。


見送ってくれた双子ちゃん一家。

旦那さんがスペシャルドリンクをくれた。

今日からは、乗り合い馬車で移動する予定だから

道中の体調のためにと。

どす黒い緑色?味は?ちょっとこわいけど嬉しい。

また会えるかな?

無事に元気な赤ちゃんが生まれますように!


今日もいいお天気。

乗り合い馬車の乗り場へと急いだ。

隣国の国境の町までは、もうすぐ。










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