断罪はお茶会で
異国から嫁いできた王女は、もともと王妃が相手にしなかったのでお茶会夜会に招待されることは少なかった。
王宮主催の夜会には、一度だけ参加したことがあるが公爵家に商会を呼んで作らせたドレスがあまりに高額で、
あらたに購入した宝飾品も桁違い。
最初の一セットだけはと許したが、二度目は持参金でと申し付けると同時に、御披露目したのだから夜会にはもう行く必要がないと言うとその最初の夜会で羽目を外しすぎた。
異国のマナーは知らないが、王女たるもの品格は維持しているものだと思っていたら下品な物腰と、身分を笠に着た見目の良い青年へとアプローチ。
既婚者だということも頭にないのか、それとも国の文化なのか?他国の貴賓達が眉を潜めていたから、この国の品位を落とす行動だったのだろう。
あまりにも目に余るので、早々に馬車に詰め込み帰宅してからは夜会には行かせていない。
そんな女とも、今日でお別れだ。
この国は、時には事件もあるが比較的平和な国だ。
王女が黒幕のあの事件は、余所者が首謀者としか考えられないほど、この国には悪意がない。
だから、引き起こしてしまった悲惨な出来事の落とし前は起こした首謀者とその実行者が引き受けないと話にならない。
平和なこの国のためには、必要がないのだ。
それ以上に憎しみを産み出してしまった。
悪を消したとしても、後悔しか残らないのかもしれない。大切なものを守れなかった後悔しか。
さあ、盛大なお茶会を開催しようではないか。
着飾ったあの女と、侍女たちまでも招待してもらった。
異国から来て、まともにお茶会も夜会にも参加出来ずに
可哀想だと、交流を深めるためにと
王妃が密やかなお茶会へと誘った。
離宮に足を運ぶ。今日は厳戒態勢を引いている。
もちろん王妃様がいることと、中で行うことを知られないために。近づけるのは関係者だけ。
大理石の広い大広間に、何も敷かず丸テーブルが置いてある。テーブルクロスもないけれど
取り壊す宮なので、簡素にしながら高級なお茶と菓子を楽しむ会という演出。
座る椅子もなく、立食なお茶会。
最後に現れた王妃様は、黒いドレスでやって来た。
騎士団長も、戦闘用の黒い制服。
元公爵と、騎士団長の父である侯爵も居るが黒っぽいジャケットスーツだ。
給仕の男性使用人は、もともとスーツだから黒。
近衛騎士たちは、白の制服を着ている。
モノクロの世界だと思いきや、派手に着飾った王女たちがそこに居た。目にうるさい色だ。
女性は、ターゲットと王妃様だけ。
一種の処刑だ。女性にはいくら憎しみがあっても堪らない。残される身の残る記憶に押し潰されない精神が必要だから。子供たちにも見せられない。
王妃様と賑やかに会話をする王女。
最高級のお茶が出されて味わっている。
手元には、最高クラスのお菓子たち。
もう二度と味わえまい。ゆっくりと噛み締めて
この世の至高の時を過ごせ。
「今日のお茶会は、至高を凝らして特別なお茶を用意してみましたの。ホワイトリリーと呼ばれる香りの高い百合の香料を葉にまぶして乾燥させた茶葉よ?
まずは、蜂蜜はあとからにして、最初はストレートで飲んでみてちょうだい」
王妃様の言葉に、ふん!とのけ反りながら存在感をアピールして手を伸ばす王女。
ここでも態度が悪いのか。
「わたくしの国では、蜂蜜にも階級がありますのよ?
王家にしか扱えない貴重なもので
この国の蜂蜜では到底及ばないですわ!味わい深く最高の黄金のしずくと呼ばれてますわ。」
王妃様が、四人のカップに蜂蜜を垂らした。
良く混ぜて飲むように、飲みきったあとに残る後味が知りたいからと飲むように言った。
キラキラと光る金粉のガナッシュや、一口で食べられる果実のパイなど、手の込んだお菓子がたくさん置かれている。
王女とその侍女たちが、蜂蜜入りのお茶を飲みきったあと。静かに王妃様が話し始めた。
それを合図に、人払いするかのように私達以外いなくなった。
広間の真ん中には、王女達しかいなくなった。
不自然に感じたであろうその瞬間、王妃様が言った。
「ギルバート クレイドル、この公爵の弟ね。あなたが横恋慕した相手。子煩悩で妻を愛し愛された幸せな夫婦だったわ!」
「残念ですわ。あれ程の方が身体を壊して亡くなられたなんて。」
「そして、その妻も亡くなったわ。生まれたばかりの子供と幼い子供たちを残してね。」
「…それが何か?義弟と義妹だったから悲しくて今でも思い出すと涙があふれるわ。」
「あなたが欲しかったものは何かしら?ここにいる公爵と別れて、ギルベルトだけが欲しかったのではないかしら?妻と子を殺めてね。」
「…な、なにを…」
「全部わかってるの。証拠も掴んでるわ。あなたが手引きしてギルベルトたちの乗った馬車を襲ったこともね。だからそれ相応の罪で裁かせてもらうわ。私の妹のオッドアイを悪魔の印だと言ったことの代償もね」
「あ…そ、そ…れは」
「死んだものは生き返らない。でも私たちの心の中で優しく生きている。生きていたら困る者には死を与えないといけないわ。残念だけど…」
「え?どういうこと?ま、まさか?」
「ええ、そのまさかよ。さっきの蜂蜜には毒が入っていたの。遅効性だからそのうち喉が苦しくなって息が出来なくなるわ。この離宮は取り壊すから好きなだけ暴れてちょうだい。あなたの取り巻きたちもいるからさみしくないわ。」
そう言いながら、王妃様は大広間を出ていった。
私も、それまで静かに成り行きを見ていた父と侯爵も足を揃えて出て行った。
後を追いかけてきたけれど、扉が閉まる方が早かった。
関貫をかけ、もう出ることは不可能。
窓は騎士達がいつの間にか外から封鎖してあった。
これでもう、篭の鳥。
鳥のエサは毒だった。
後の事は、王宮が始末してくれると言った。
数日後、私の妻は病死した。
亡骸は母国には帰らない。どこに埋葬したかも知らされなかった。最期に何を叫んだのだろうか。
一国の王女として生まれたにも関わらず、自分の利益だけしか考えない品のない王族。
足りなかったものは、愛なのかもしれない。
与えても減らないものを知らなかったのだ。
愛は与えても減らない。むしろ増えていくものだ。
その後、私は二人の息子たちに愛を注いだ。
厳しい中に、優しさを練り込んだ。
いつか絶対アルヴィーナをみつけたら、三人で愛を浴びせてむせび泣くだろう。
あきらめない!どうか、アルヴィーナが元気に過ごしていますように。