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私は捨てられていなかった①

王妃様と騎士団長様に姪?と言われて驚いた。

ハンカチの刺繍とは別に、ここに来たきっかけもあるみたいだ。何だろう?


ここからは、王妃様から聞かされたこと。

孤児院からほとんど出ることもなかった私がとんでもない事に巻き込まれ、沢山の人を悲しませていたなんて知らなかった。

でも、知らなきゃいけないと思った。明日を私で生きるために。


王妃様は、侯爵家の長女として生まれた。

翌年、騎士団長である弟が生まれた。

そして二年後に、私の母である侯爵家の次女アウラが生まれたのである。

姉は黒髪、兄は黒の混じった銀の髪、アウラは透き通るような銀髪だった。歳の近い三人はとても仲が良く兄と同じ歳の公爵家次男のギルベルトとも仲良くなった。


兄より先に、ギルベルトとアウラの婚約が整った。

二人が10歳と8歳の時だった。

兄は公爵家の嫡男だったのと生真面目が先に出て婚約を先延ばしにしていた。執務見習いが始まると遊びの輪から外れていった。


アウラの姉も、皇太子との婚約が幼い時に結ばれていた。妃教育で忙しくなり兄も騎士見習いの訓練が忙しくて遊びの輪から外れていった。

お互いに離れる時間が多くなっても姉妹、兄弟の仲が良かったのは周知の事実。安心出来る関係がそこにあった。


この国では、上級貴族が横のつながりを強固にしながら栄えた国を守り結び合うことが常であり、平和を愛する国の性質からか政略結婚でも愛が育まれて幸せな関係を築く方が多い。

例に漏れず、アウラとギルベルトは政略ではあるが恋愛結婚でもあった。


皇太子様はとても穏やかな性格で争い事を好まず。

二人は同じ歳だったので成人したあとすぐに結婚した。

子供も生まれ、跡継ぎの問題もなくなった。

平和な国なので、王と王妃は早々に避暑地の離宮に移り住み、皇太子が王にアウラの姉が王妃になった。


アウラもギルベルトと婚姻を結び、長男のハービットを生んだ。その一年後女の子が生まれた。名前はアルヴィーナとつけた。

その頃、ひとつ国を挟んだ異国の末っ子王女との縁談が公爵家嫡男にあった。広い農地改革の為の石灰石や鉱石を融通させるための政略結婚であった。

生真面目な嫡男は、相手が誰であろうと結婚に問題はないと言い、王女を受け入れることにした。


王女と同居は出来ないからと、結婚を機にギルベルト、アウラ夫婦は領地経営を任されることになり別宅に移動した。現公爵も嫡男に爵位を譲り領地の別宅離れに住み始めた。


公爵家に数人の使用人を連れて嫁いできた王女は、

とても傲慢で調和を知らない人だった。

生真面目で勤勉な夫に腹を立て、やりたいことをやり

感情的に行動した。

時々領地から報告書を持参する義弟となったギルベルトに横恋慕をした。何度か部屋に引き込まれてしまいそうになったこともあるが、ギルベルトは屈せず宿に泊まり邸に通った。アウラを裏切ることなど毛頭考えてはいなかった。


そんな中、アウラが身籠った。三人目の妊娠だった。

つわりが酷く、寝たきりになってしまったアウラを心配したギルベルトはアウラをしばらく一人にするために

長男と長女、使用人達を連れて首都の公爵家に滞在することにした。

まさか子供がいれば王女も関わって来るまいと。

そうは行かなかった。領地からの移動中に馬車が襲われた。狙いは子供たちだった。長男ハービットは護衛とギルベルトと一緒の馬車に乗っていた。

アルヴィーナは、侍女と別の馬車に乗っていたのだが乱闘騒ぎのあと姿を探したが侍女共々どこに居なかった。


襲撃してきたのは暗殺者と破落戸で、

ギルベルトはハービットを守るために肩を斬りつけられていた。ハービットは怪我もなく無事だった。

数人捕えられたが、口は割らなかった。

公爵家本邸に行くのは危険だと胸が騒いだので、早馬を飛ばしてアウラの実家にお世話になることにした。


アウラの兄、侯爵家の嫡男の騎士団長が準備を整えて待っていてくれた。怪我人もいるし事情聴取もある。

ギルベルトは毒が塗られた剣で斬られていたらしく、その晩高熱を出し生死の境を彷徨い、皆が祈るのも虚しく儚くなった。幼い子供たちを残して。まだ見ぬ三人目をアウラに託して。


悲劇は続いていた。アウラがみつからなかったのだ。

王家の怒りも凄まじく、秘密裏にいなくなった侍女とアウラを捜索したがどこにも見つからなかった。

隣国まで捜索範囲を広げたがわからなかった。

もうこの世にはいないのかと、関係者たちは肩を落としかけたがアウラの兄のハービットが

「あーらはいきてましゅ」と泣きながら乳母に抱きついて言った言葉に希望をつなげた。


そんな頃、捜索していた侯爵家の騎士が襲われた時に逃げた破落戸を酒場で見かけた。羽振りよい姿で気持ち良く酔っていた。こんなこともあろうかと持たされていた自白剤を酒場から出てふらふらしている所を路地裏に引き込んで打った。侯爵家の馬車を襲い、子供たちの命を狙ったのは誰かと聞く。


「詳しくは知らねぇんだ!本当だ。異国の高貴な姫だと聞いたが名前は知らねぇ、ゴフ…」

虫けら以下の命の灯は、暗い路地裏で消えた。


侯爵家嫡男の騎士団長のところへ報告があがった。

皆が予想していた通り異国の王女が首謀者だった。

子供たちを亡き者にしてギルベルトを手に入れたかったのか、それともアウラを傷つけたかったのかはわからない。


アウラは、夫の死を知らされなかった。

体調も悪く、妊娠初期だから夫のアウラへの想いを優先させた。夫からの手紙が届かないことも子供たちが戻ってこないことも不可思議に思っていた。

時々、普段明るい侍従の顔に影がさす。

アウラは良くないことも考えてしまうが、お腹の子供のことを思うと強くなければと耐えた。

上の子達にしていたように、お腹の子供のベビー服にも刺繍を入れた。元気で成長しますように。男の子でも女の子でも白い小花の刺繍は温かみが増してかわいいと思う。どっちが生まれてもいいように、おくるみもお布団も黄色にした。ベビー服もオレンジ色と黄色がメイン。

早く元気に生まれてきてねと願った。


ハービットもアルヴィーナも元気だろうか?

嫌な予感がぐるぐると心を彷徨うけれど、

大切な命を生み出す使命が一番大事だと強く思う。

一番会いたいのは、ギルベルトあなたなのに。




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