表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界開拓戦記~幻影政治と叛逆の翼~  作者: ファイアス
滅ぼすべきは全ての悪にあらず

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/114

87話:無人政治構想

 翌日、俺たちは再びチェイの元に向かった。

 今日彼女の元へ向かう目的はゾンビ化対策への議論ではなく、彼女自身の思想、目指す社会構想について聞くためだ。

 ゾンビ化への対策は既に結論が出ている。

 後は俺が実験に協力するかどうかだけだ。

 その状態で別の道を探るべく対話をするなら、別のことを聞いたほうが有意義だ。

 その話を通じて、信頼できる人物に値するか評価すればいい。


「今日も来てくれたようだね。歓迎するよ」


 彼女は昨日と同じように俺たちを席に案内する。


「今日は貴方の目的、行動指針について訊ねたい」

「へぇ、ところでファーシルくんは何で昨日と口調が違うんだい?」

「……」


 昨日はまだチェイの正体がクサリだとは知らずに、途中までどこの馬の骨とも分からない自称専門家の少女Aという認識でいた。

 その結果、正体が分かってからも崩した口調のまま話していたのだ。


「ファーシルくんの評価は今更言葉を取り繕ったところで何も変わらないよ」

「……」


 崩した口調のままで構わないという意図での発言だと思うが、表現が刺々し過ぎる。

 その上、反論のしようがない。


「君が私に聞きたがってることは、私への不信感を拭うために必要な行動の意図を教えてくれと解釈して構わないね?」

「ああ……」


 相変わらず驚異的な洞察力だ。

 上位騎士らから俺たちの行動に関するフィードバックを得ているのだろうが、それでも瞬時にこの判断ができることは尊敬に値する。


「まず私の作った洗脳システムの目的について説明しよう」


 どうやら彼女にとって現在の洗脳システムは既に完成している認識らしい。

 そのため、より精密な指示を与えたり、効果対象の範囲を広げるつもりもないらしい。


「広げることはできるのか」

「洗脳システムはゾンビ化と同じ原理なんだ。それを踏まえれば対象範囲を拡大できることは君たちだって分かるだろう?」


 それもそうか。

 洗脳対象がイルシオン城内で仕事している人たちだけに限定されていることから、ニアソウルコアの拡散手法は異なるだろうが、その気になれば範囲を拡大することは容易か。


「私が洗脳システムの範囲をイルシオン城内に限定しているのは、お人形遊びをしたいわけじゃないからね」

「どういうことだ?」

「人間の心をコントロールできなければ、私の目指す社会の実現に繋がらない」


 なるほど、彼女の発言はリプサリスのいた孤児院での教育方針と照らし合わせると辻褄があう。

 あの孤児院では洗脳システムによる強制コントロールではなく、教育による洗脳教育を行っていたからだ。

 洗脳システムで全てを管理するつもりならば、わざわざ孤児へ偏った教育をする必要がない。


「結局何が目的なんだ?」


 人の心をコントロールするだけなら、わざわざ国ごと支配する必要がない。


「私は人が直接介さない秩序を作り上げるために、日々試行錯誤しているんだよ」


 まるで彼女の支配構想はAIによる社会統治だ。

 サキュバスクイーンからも聞いていたが、まさか本当にそんなことを考えていたのか。


「だから君のように私を知り、接触してこようとする者は云わばバグであり、発生しないようにしなければならない」

「他人をプログラムのように考えているんだな」

「なにしろ私は元プログラマーだからね。プログラミングをしている人間なら、一度は自分の住む世界が完成したプログラムのように安定した動作をしてくれればいいのにって考えるものさ」

「……それがお前の思想か」

「ああ、そうさ。私は独裁政治よりも民主主義のほうが優れていると考えているが、それは最悪の政治が横行したときに民主主義のほうがマシだからに他ならない。私の政治構想に明るい未来を感じることはないかもしれないが、リスクを抑える統治としては極めて優れていると思わないかい?」

「一理あるかもしれないな」


 俺はチェイの政治思想をこの時初めて心から理解した。

 そして安定を第一とするその理念に強く共感した。

 だが、永続的な安定を目的とした人を介さない統治方針は、現実的には不可能に近い。

 それは変化に対応できないからだ。

 世代によって価値観が違うように、永続的な統治システムは老害による統治と不満が叫ばれることは容易に想像できる。

 特に文明の発展が起これば、その新しい文明によって起こりうる新たな問題に対応できないことは間違いない。


「永続的な統治体制は、社会の変化に対応できずに廃れる。お前が生きている間は変化への対応もできるだろうが、その対応を続ける以上、結局人の統治になるのではないか?」

「耳の痛い話だね。ただ、その解決プランがどれだけ滑稽なものだろうと、君の問題にはならないはずだ」


 確かにその通りだ。

 彼女の政治構想がどれだけ非現実的な夢物語であっても、この問題の失敗が俺たちに悪影響を及ぼすことはそうそうない。

 彼女の作り上げるシステムが古くなったがゆえに支障が出るのは遠い未来の話であり、イルシオンの首都に限定された問題だ。

 時代遅れとなった社会システムが国を傾かせる頃には、俺たちはもうこの世にいないだろう。

 俺は彼女の指摘に頷き、洗脳システムを利用した社会構想の話は切り上げた。


「次にチキュウ人を積極的に召喚する理由を簡単に説明しよう」


 チキュウ人の召喚か。

 完璧と停滞を目指す彼女の政治構想と、異世界からチキュウ人を召喚するのはもはや思想的に真逆のように思う。

 そんな彼女がイルシオンで積極的にチキュウ人を召喚するのは確かに気になる問題だ。


「実はチキュウ人の召喚は自然現象であり、人為的に行っているものではない」

「……何を言ってるんだ?」


 俺が召喚されたときには6人の召喚者がいて、いずれも召喚した自覚があった。

 これが人為的な召喚ではないと言われて納得できるはずがない。


「私たちが一般的に召喚と呼んでいる行為は、既にこの世界のどこかで彷徨っている魂の核を引き寄せているだけに過ぎないんだ」

「彷徨っていたときの記憶などないぞ」

「それは私にだって分からないさ」


 チェイでさえ彷徨っていたときの記憶はないのか。


「ここまで話せばもう私が積極的にチキュウ人を召喚する理由は分かるだろう?」

「どうせどこかで召喚されるなら、自分たちの管理下に置いたほうが安全だからか」

「その通りさ。危険な野生動物は増えないほうがいい」


 どんな異能力を持ち、どんな風に使うかも分からないチキュウ人は確かに恐ろしい。

 だから俺が召喚されたときも、すぐさま『異能力を見せてみろ』と強く要求されたのか。

 しかし、彼女もまた同じチキュウ人だろうに、自分の管理下に置けていないチキュウ人を野生動物とまで言い放つのはいかがなものか。

 世代感覚の違いかもしれないが、彼女は差別的な表現をすることに躊躇いがない。


「あとは君たちも息苦しく感じているだろう法律や機密への認識も説明しておこうか」


 法律や機密事項が社会を息苦しくしてるのは、作った本人にも自覚があったのか。


「まず機密事項は、不都合の思想を拡散させないために作ってある」

「……」


 機密事項は思想統制のために作られたルールだったか。

 チキュウで一部の国がやっていたインターネットの情報統制と同じだ。


「法律は厳格に作っておきながら、取り締まりの基準は曖昧なことに意図はあるのか?」

「チキュウ人のファーシルくんなら、元いた世界のことを思い出せば理解できるだろう」

「……」


 都合の悪い人間に限定して捕まえるためか。


「法律ってことにしておくだけで罰則がなくても法令順守意識が働くんだ。それによって雰囲気による社会のコントロールができる」

「イデア人にはまるで効果がないように思うが……」


 俺は法律への認識から比較的真面目に守っている方だが、責任の所在が自分にさえなければ守る価値がないと判断する人々は非常に多く見られた。

 本当に意味があるのだろうか?

 むしろあってないような法律が増えれば、法律全体への順守意識が希薄にならないだろうかとさえ思う。


「いや、彼らにも良い影響が出ているよ。真面目なチキュウ人を横目にズルをして得をする快感は幸福度の向上に繋がる」


 真面目なチキュウ人が損していると感じさせる優越感で幸福感情を与えているつもりか。

 そしてチキュウ人にはリプサリスのような孤児を道具として与えて、孤児らは他人に使われることを幸福と抱かせる偏った教育で管理している。

 これで孤児を除くイルシオン人を最上位とした三段階の心理的な階級制度を作っているようだ。


 彼女のやり方が正しいかどうかはなんともいえない。

 だが、イルシオン人の法令順守意識の欠如が人心掌握手段として逆に利用されていたのだ。

 計算され尽くしていることは間違いない。


 俺はこの日、自身の魂の核を用いた実験に協力する方向へと心が揺れ動いていた。

 彼女は善人か悪人かでいえば、間違いなく悪人だ。

 何せ何の罪もないイルシオンの騎士らを操り人形にしているのだ。


 しかし、金銭欲に溺れて私欲を尽くす悪党でなければ、支配欲を満たすために暴力を振るうわけでもない。

 彼女はただ己の目指した支配構想を実現させるべく、日々己が道を切り開く求道者だ。

 だからゾンビ化ワクチンの存在が彼女の目指す社会構想に価値あるものならば、きちんと生み出そうとするはずだ。

 その点は信頼してもいいだろう。

 後は彼女が自らの魂の核を削る姿を見せてもらい、安全性の確認をできれば協力しても問題ないはずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ