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異世界開拓戦記~幻影政治と叛逆の翼~  作者: ファイアス
滅ぼすべきは全ての悪にあらず

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82話:サグラードとゾンビの新説

「私は先日ある人からサグラードはゾンビに滅ぼされたと聞いたんです」

「何だと!?」

「あんな雑魚が国を滅ぼせるわけないでしょ」


 セレディアはイラの言葉を強く否定する。

 セレディアは幼い頃からゾンビ化現象はサグラードの仕業だと教えられてきた。

 だから彼女が強く否定するのも無理はなかった。


「私でも倒せるゾンビが国を滅ぼすわけないと思うのは当然ですよね」

「ならば何でサグラード滅亡説を単なる作り話だと思わなかった?」

「だよね、そんな話を信じるなんてわけが分からないんだけど」


 セレディアも俺の言葉に同調した。


「信じ切ってはいません。ただ、可能性の話として話す価値があると思ったんです」


 話を聞くだけならリスクはないはずだ。

 それに俺は作り話だろうと、その話に興味を惹かれた。


「話してくれ」

「はい」


 何よりサグラード滅亡説は十分有り得る。

 なぜなら今まで教えられてきたサグラードの脅威に何一つ実感が湧かなかったからだ。

 俺はサグラード人を見たこともなければ、侵略による具体的な被害報告を聞いたこともない。

 聞いていたのはゾンビ化がサグラードの仕業という話だけだった。


「まず一つ訂正させてください」

「何だ?」

「サグラードはゾンビに滅ぼされたと言いましたが、正確にはゾンビ化が原因です」

「生きたままゾンビ化する人の傾向をアタシに調べさせたのはそのため?」

「はい、国を滅ぼすほどの影響があるなら、対策を考えなければいけません」

「セレディアの報告を受けて、サグラード滅亡説を確信したのか?」

「いえ、まだです」


 どうやら彼女はこれから兵士たちに指示を出し、ゾンビ化の検証を行うらしい。

 検証方法は簡単だ。

 数人の囚人をゾンビのいる砂漠に連行し、魔法で眠らせるだけだ。


「眠るだけで生きたままゾンビ化すると考えたのか」

「はい、現時点の情報ではもっともあり得る原因だと思います」


 連行される囚人のことはこの際口に出すまい。

 なにせ俺だって本格的な調査をするなら、囚人貸出制度を利用するつもりだ。


「検証が時間がかかるので、10日後にまた集まってもらえますか?」

「分かった」


 俺たちは検証結果を待つため、事前に確保しておいた部屋で過ごすことになった。

 再び呼び出しがあるまでの約10日間、俺は城の兵士たちと話を重ね、イラとの信頼関係構築のサポートに回った。

 俺がノースリアに来た一番の理由はイラが暗殺される可能性を危惧したからだ。

 その過程で兵士たちからイラへの愚痴を聞かされることも多くなった。

 彼らがイラと信頼構築するには時間がかかりそうだが、俺との信頼関係は思ったよりスムーズに築けた。


 それから数日後。

 俺たちはイラの呼び出しに応じ、謁見の間へと足を運ぶ。


「結果はどうだった?」

「私の読み通り、被験者全員がゾンビ化しました」

「じゃあサグラードはやはり……」

「あの人の情報は正しかったとほぼ間違いないでしょう」


『あの人』か。

 イラはこの日も情報源をぼかすが、俺はもう誰からこの話を聞いたのか察しがついていた。

 眠ればゾンビと化す砂漠の先にある国の実態など普通は知りようがない。

 そう、空を飛べない限りは……


「あの人とはミウルスのことか?」

「えっ、何で分かるんですか?」


 やはり情報提供者はミウルスだった。

 だとすると、ゾンビの正体はクサリの錬金術と関係している可能性が高い。


「寝ている間にゾンビ化するのなら、ゾンビのいる砂漠を越えられる人物など限られている」

「そうですね」


 ドラゴンに乗り空を駆けるミウルスなら、ゾンビ化の危険があるエリアを回避することは容易だ。

 ゾンビのいる砂漠の先がどうなっているかも、彼女なら正確に知ることができる。


「ミウルスの情報なら、サグラード滅亡説は濃厚だろう。だが……」

「どうかしましたか?」

「あいつには注意しろ」

「え?」


 常識を覆す真実の提供は妄信の対象になりかねない。

 それを簡単にやってのける彼女は、他者をコントロールする手段として情報提供している可能性がある。

 エンドフォール家の親子もそうやって破滅への道を歩んだはずだ。

 だから俺はイラが彼らのような末路を歩まないためにも、ミウルスを信頼しないよう忠告した。


「……」

「俺もミウルスから正しい情報を提供されたが、あいつ自身の意図は全く読めない」

「ファーシルさんは何を聞いたんですか?」

「イルシオンで暗躍するチキュウ人、ヒゴシ・クサリのことだ」


 俺の言葉に真っ先に反応したのはイラではなくセレディアだった。


「もしかしてギシアを殺した真の黒幕がいたってこと?」

「いや、刺客を送っていたのはジャーマスの独断だ」


 俺はギシアを追い込んだ暗殺集団の黒幕はあくまでジャーマスだったと断言するが、クサリが真の黒幕だった可能性は否定できない。

 あえてジャーマスの独断だと決めつけたのは、セレディアの復讐心に火を付けたくなかったからだ。


「ミウルスさんが私たちに情報提供するのは、クサリさんへの復讐が目的なんですか?」

「何を考えているかは分からないが、復讐が目的だとは思えない」


 彼女は一人で国を滅ぼすだけの力がある。

 復讐が目的ならば、こんな回りくどいことはしないだろう。


「それよりも一つ提唱したい説がある」

「何でしょう?」

「ゾンビの正体についてだ」

「何か分かったの?」


 ゾンビについて分かったことがあるわけではない。

 ただ、ゾンビとサグラードの情報提供者がミウルスならば、クサリの錬金術が関連していると思ったからだ。


「その解釈はちょっと無理やり過ぎじゃない?」

「そうですね」


 彼女らの言うことはもっともだ。

 だが、俺は説として定着させたいわけではない。

 あくまで考察材料として共有したかっただけだ。


「それでファーシルは何でクサリがゾンビを発生させたと思ったの?」

「クサリは不老不死を目指していたと聞いている。その実現に向けた過程の実験でゾンビを発生させた可能性がある」

「サグラードを滅ぼした理由は?」

「実験、もしくは事故だ」

「……」


 セレディアは俺に質問をぶつけてきたものの、俺の返答に納得する様子がない。

 そもそも彼女は行動派で、体験に基づく勘で動くことが多いからか、散りばめられた情報から考察すること自体が合わないようだ。


「俺はサグラードが脅威とされてきた原因は、クサリがゾンビの正体を隠蔽するために流したデマだと考えているんだ」

「……」

「どうした?」

「ファーシルは一度ゾンビを見に行かない?」


 俺の考察は彼女にとって退屈だったらしく、俺をゾンビのいる場所へ連れ出そうとする。

 確かに対策を考えるなら、本物のゾンビを一度目にすべきだ。


「私からも調査のお願いをしていいですか?」

「分かった」

「あ、あの私はパスで……」


 ゾンビにトラウマを抱えるアナドールは案の定砂漠行きを拒んだ。

 まあ、彼女を連れてきた目的は商売においてイラのサポートをさせるためだ。

 何の問題もない。


「それからリプサリスもノースリアに待機していてくれ」

「分かりました」


 今のところゾンビ化の原因に自我の希薄さを指摘する声は上がっていない。

 しかし、ゾンビをなり損ないのプロトタイプだと考えると、リプサリスは生きたままゾンビ化するリスクが高い。

 そのため俺はリプサリスをゾンビ化リスクのある砂漠地帯には連れて行きたくなかった。


「イラ、ゾンビ化する前提で二人ほど囚人を連れて行って構わないか?」

「構いませんけど、まだ何か検証するんですか?」

「ゾンビ化の経過を観察したい」


 経過を観察すれば、ゾンビ化の原因が分かり、対策も立てられるはずだ。

 俺はリプサリスの感染リスクが高いと判断したからこそ、囚人を犠牲にしてでもゾンビ化への対策を進めなければならないと考えたのだった。

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