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異世界開拓戦記~幻影政治と叛逆の翼~  作者: ファイアス
滅ぼすべきは全ての悪にあらず

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77話:新たなノースリアの指導者

 俺がリプサリスと結婚をしてから、チキュウ時間で約二ヶ月が経過した。

 その間、特に何か大きな変化や出来事はない。

 俺はミウルスにクサリへの妨害目的を聞きたいと思っていたが、普段から竜に乗っている彼女に俺から接触することはできなかった。

 さらにサキュバスクイーンから聞いた洗脳計画への対策は、具体的に何をどうすればいいか分からない。

 洗脳計画を行っているクサリを討てば止まると思われるが、そもそも俺はクサリの姿を見たことすらない。

 一度出会って真意を問いたい一方、彼に真意を見透かされればその場で始末されかねない。

 結果として、俺たちにできることは来るべき時に備えて戦闘訓練を行うだけだった。


 そんなある日、グラトニアにセレディアが訪れる。


「グラトニアもだいぶ大きくなったね」

「ほとんどお前の手で発展していったのは癪だけどな」


 グラトニアの地盤は間違いなく、俺が主導となって築き上げたものだ。

 しかし、人口の増加と急速な発展は、セレディアが派遣した人々が勝手に開拓を進めていったことによるものが大きい。

 今でこそ彼女が送り込んだ人々とのトラブルが起きていないが、当初の問題と勝手な判断で強制的な発展をさせられたことは良い思い出とは言えない。


「ファーシルはまだ気にしてたの?」

「当たり前だ」


 結果良ければ全て良しなどというが、危うい過程を招いた本人が言う言葉ではない。

 彼女はそんな言葉を直接口にしたわけではないが、言動からそれが明らかだ。


「それはともかく、今日は何しに来たんだ?」

「ノースリアの問題も片付いたから、またファーシルと行動しようかなって」

「リギシアはどうするんだ?」

「適当なやつに代表を移譲してきたよ」

「適当なやつってお前なぁ……」


 彼女の運営は雑だと思ったが、代表から退くときも雑だな。

 それに彼女が片づけてきたノースリアの問題とは何だ?

 XXの後継者候補がいないままらしいが、代わりを誰か見つけてきたのだろうか。


「ノースリアで何をしてきたんだ?」

「王室派を一掃してきたよ」

「は?」


 XXの首領が亡くなったあとは王室派が国を掌握していたはずだ。

 その王室派を一掃したと言ってる彼女のやったことは軍事クーデターだ。


「お前、軍事クーデターを起こしたのか!」

「そうだよ」


 セレディアは俺の言葉を軽く受け流すが、まるでその行為の影響がどれだけ大きいかを分かっていない態度だ。

 そもそも軍事クーデターの首謀者が、また一人の傭兵として同行したいと言い出す時点で何も分かっていない。


「まあ、軍事クーデターって言ってもファーシルが考えてるより、ずっと平和的なものだよ」

「殴るだけで解決したのか?」

「それすらしてないよ」


 どうやら王室派の人々は軍事クーデターが起きたと気づいた途端、すぐさま自分たちの縄張りを放棄して逃げていったらしい。

 彼らは金の力に任せて、ほとんどが好き勝手に振る舞っていた貴族だったため、軍事クーデターを批判する声もほとんどなかったようだ。


「王族らも排除したのか?」

「うん、人望のない国王なんて飾っておく意味がないじゃん」


 地位や血筋による信仰がなければそんなものか。

 セレディアは王族らも殺さず追放したそうだが、それは彼らを殺す価値さえ残っていなかったのだろう。

 人望のない王族らが再び国を取り戻すと訴えても、彼らの元に人が集まらないと分かっているからだ。


「今はお前がノースリアの女王なのか」

「違うよ」


 軍事クーデターを起こし、国の指導者らも追放したなら、彼女が女王であるのが自然だ。

 だが、彼女は自分が女王であることを否定する。


「まさかと思うが、ノースリアの代表ですら適当に選出してこっちにきたとか言わないよな?」

「それはないから安心して」


 しかし、なぜ彼女はまた俺と行動を共にしようとしているのか。

 政治運営の適性があるとはいえないが、好き勝手に判断する彼女なら人の上に立ちたいと考えるほうが自然だ。


「どうして女王にならなかったんだ?」

「ノースリア国民は大半が亡くなった首領に心酔してるからさ、認められなかったアタシは最初から国民に無能の烙印を押されてるんだよ……」

「そうか……」


 XXの首領は亡くなった今でも絶大な影響力がある。

 その影響力は一部の人々の自我を希薄化させているクサリよりも上かもしれない。


「でも適任とされたやつは誰もいなかったんだろ?」

「そうだね。けれど、評価される機会がなかった人にならちょっとした期待を抱くでしょ?」

「俺に同意を求められても困る」


 俺はXXの元首領がどれだけのことをしてきたか分からない。

 だから彼の言葉一つで、本人の実績を無視して無能の烙印を押す人々の心情が俺には分からなかった。


「そういえば、ノースリアにはグランルーンやリプサリスみたいに自我の希薄な人間って結構いるのか?」

「全然いないよ」


 ノースリアにクサリの錬金術の影響を受けていると思われる人物はいないか。

 つまりXXの元首領は純粋な活動だけでそれだけ人々を沸き上がらせたことになる。

 新聞やテレビのないイデアでは、チキュウ人と比べて情報の印象操作への免疫に欠けるだろうが、それを加味しても恐ろしい存在だ。


「ところでお前をどんな人物をノースリアの代表に人選したんだ?」

「アタシが選んだのはイラちゃんだよ」

「は?」


 彼女は経営戦略に関する知識は並外れているが、政治戦略に詳しいわけではない。

 ましてやノースリアでの生活経験すらない。

 そんな彼女をいきなり国の指導者に人選するなんて無茶苦茶過ぎる。


「大丈夫なのか?」

「イラちゃんの手腕はファーシルだって知ってるじゃん」

「経営と国家運営は一緒じゃないだろ!」

「そう?」


 経営と国家運営は必要な才能が共通する部分が多い。

 しかし、国家運営は弱者支援や、インフラ整備など、利益にならないどころか赤字にしかならないことをやり続ける必要がある。

 さらにいえばイラは経営知識こそあるが、経験はリギシアに向かってからの短期間しかない。

 俺は到底上手くいくとは思えなかった。


「イラは女王に即位して間もないのか?」

「まだ10日前後だね」

「それなら俺は明日からノースリアに向かうことにする」


 即位して間もない頃は一番不安なはずだ。

 家臣との信頼関係も築けていないと容易に想像できる。

 そんな状態でセレディアが姿を消したのだから、彼女は気が気でないだろう。


「イラちゃん結構やる気だったから、無理やり引きずりおろそうとしたら恨まれると思うよ」

「別に引きずりおろす気はないさ」


 セレディアは俺が懸念している問題を想像すらできていない。

 孤独に駆られた者は心の隙に付け入られやすい。

 だから手遅れになる前に、イラの元に向かいたかった。

 それに女王になったイラに恩を売っておいて損はない。


 俺はセレディアの他にリプサリスとアナドールを誘い、明日からノースリアへ向かう旨を伝えた。


「え、何で私なんですか?」

「イラの傍には信頼できる商人がいるべきだ」

「私はあの子とほとんど話したことないんですけど……」

「あいつはお前が捕まったときの動機を知っている」

「……それ、私が弱みを握られているから扱いやすいってことじゃないですか」

「そういうつもりで言ったわけじゃないんだが……」


 右も左も分からない指導者の元には、地位や金のために利用しようとやってくる人物が絶えないと容易に想像できる。

 特に商人らは家臣らと違い、普段は離れた場所にいるため本心を探りにくい。

 だからこそイラにとって人物像のよく分かるアナドールを彼女の傍に置くべきだと考えていた。


「……」


 しかし、アナドールはどうにも嫌そうだ。


「何か行きたくない理由があるのか?」

「暑いんです……」

「は?」

「ノースリアって暑いんですよ!」


 どうやら彼女は暑いのが苦手で、ノースリアでの生活に耐えられないらしい。


「アナドールはノースリアに行ったことがあったのか」

「いえ、あまりの暑さに途中で引き返しました……」

「ふむ……」


 俺はセレディアやダスティナからノースリアの気候を聞いたことない。


「一応セレディアに確認しておくか」


 俺は再びセレディアの元へ向かいノースリアの気候環境を訊ねる。


「ここよりちょっと寒いかもね」

「え?」

「どうかしたの?」

「アナドールはノースリアの暑さに耐えられないと言ってたんだが……」

「多分その子、勘違いしてると思うよ」


 ノースリアを知らない俺が説得しても意味がない。

 そう考えた俺はセレディアにアナドールの説得をするよう頼んだ。


「ところでアナドールってどの子?」

「そういえばセレディアは知らなかったか」


 俺はセレディアをアナドールのところまで連れて行く。


「アナドールってのはあいつだ」

「りょーかい」


 俺はアナドールを指差し、セレディアにあいつだと教えると彼女はアナドールの説得に向かった。


「ファーシルから聞いたけど、あんたがアナドールだよね」

「あっ、はい」

「ノースリアまで行ったことないんだよね?」

「はい、道中あまりの暑さで……」

「そのときにさ、動く死体を見なかった?」

「いましたいました!いっぱいいました!」


 アナドールは気が動転したように早口で話し出す。


「あー、やっぱりねぇ」

「あの場所で倒れたら、私もああなると思ってほんとに怖かったんですよ」


 アナドールの怖がる様子から、動く死体とはおそらくゾンビのような存在だ。

 セレディアの話では動く死体が多数見られる砂漠地帯は、サグラード方面に進んだときに遭遇するものらしい。


「えーっと、じゃあ私は道を間違えて……」

「そういうこと」


 どうやらサグラードへ向かう道は寒暖差の激しい砂漠地帯であり、ノースリアの傭兵らも滅多に近づかないらしい。

 アナドールは道を間違えて迷い込んだときの体験がトラウマになっていたが、ノースリアに向かうルートでないことを理解すると同行を了承してくれた。


 セレディアがアナドールの説得してくれたことを確認した後、俺はオウボーンとタンゾウの二人に代表代理としての仕事をそれぞれ割り振った。

 オウボーンは事なかれ主義者であるため、一時的な代理を任せるにはちょうどいい。

 タンゾウには「またワシの仕事を増やすのか」と文句を言われたが、オウボーンに不向きな仕事は彼に任すしかなかった。


 その後、俺は家に戻る。

 今日はリプサリスだけでなく、セレディアも一緒だ。


「そういえばファーシルはリプサリスちゃんと結婚したんだったよね?」

「ああ」

「アタシともする?」

「え?」

「あっはは冗談だって」


 セレディアが色目を使うときは、本気か冗談か分からない。

 それは出会ったときから、今でも変わらなかった。


「明日から長旅になるんだ。早く寝るぞ」

「はーい」

「はい」


 彼女に会話のペースを握られては明日からの旅に余計な疲労を残す。

 そう考えた俺は早めに寝るよう指示し、俺も休むことにするのであった。

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