68話:調査は打ち切りに……
アナドールに鈴の素材の買い出しを頼んだ翌日、俺はリプサリスに何の仕掛けもない普通の鈴を作ってもらい、グランルーンに再び検証を行う。
すると、彼は再び気を失ってしまった。
やはり問題は鈴の仕掛けにあるのではなく、グランルーン自身にあるようだ。
俺が錬金術の話を切り出したときに、ジャーマスが裏にチキュウ人の仲間がいると証言したのはハッタリだったのだろうか?
しかし、今となっては確認しようがない。
「そういえばイデアでは錬金術が役に立たない異能力って扱いだったな」
「それがどうかしたんですか?」
「イルシオンで暗躍しているチキュウ人が錬金術の使い手ならば、自分の優位性を高めるために錬金術の存在を印象操作していたのかもしれないと思ったんだ」
リプサリスは簡単なものしか作れないが、錬金術一つで様々な物を作り出している。
それなのに役立たない異能力の代表格として周知されてしまっているのは、暗躍している人物が錬金術の技術を独占したいからではなかろうか?
果たしてジャーマスにチキュウ人の仲間がいたのか。
俺はそれすら分からない状況の中で、イルシオン側の思惑は何なのか。
「おーい、ファーシルさん」
「どうした?」
「鈴の件なんですけど、イルシオンで試さないんですか?」
「効果の範囲を調べるには確かに必要だが、国に検証のことを知られたら厄介だ」
グラトニアでは本人から許可を得れば問題ないが、イルシオンで鈴の検証を行えば本人から了承を得ても第三者が騒ぎ立てるだろう。
特に主となる対象は国に仕える騎士であることから、検証の話が国の上層部へと伝わる可能性が極めて高い。
「だったら俺に任せてもらっていいですか?」
「どうする気だ?」
「知ったら、ファーシルさんにも責任が降りかかりますよ」
「……」
自己責任の範囲で好き勝手にやるつもりか。
なんともリギシア流らしい発想だ。
……とはいえ、俺に許可を取っており、手順に問題はない。
彼に任せてみるか。
俺はリプサリスに作ってもらった模倣品の鈴を5つ彼に渡す。
程なくして、彼はイルシオンへと向かった。
検証の対象は城に仕える騎士はもちろんのこと、城にいるメイドや執事も含むこととした。
リプサリスに鈴の影響がなかったことから、原因を自我の希薄さではなく、城に何かあると推測したためだ。
調査に向かわせた二日後、グラトニアに報告へと戻ってきた。
「結果はどうだった?」
「想像以上に面白い結果が出ましたよ」
「……」
俺の求めた検証に想像以上のことなんてなさそうだが、この男何かしでかしたのか?
「まずファーシルさんの予想通り、騎士のみならずメイドの方も気絶しました」
「やはり城に何かあるのだな」
彼の報告は俺の想定の範囲だ。
想像以上のことなど何もない。
「それで面白いこととは何だ?」
「俺が向かったとき、たまたま王様が演説してたんですけど、王様も倒れたんですよ」
「おい、お前はバカか!王様が倒れたら、死に物狂いで捜査するだろ!」
「それは大丈夫ですよ、犯人は捕まってますから」
「……」
……彼の言葉から、彼がイルシオンで何をやったのか容易に想像できた。
冒険者ギルドの掲示板依頼を利用して、無関係の人間を巻き込み鈴を使わせたのだろう。
そして、この男自身は安全圏から様子を見ていたんだ。
この男は有能だが、無関係の一般人を平気で巻き込むとは恐ろしい人物だ。
だが、そんな人物を遠ざけずに上手く起用するのが俺の務めだ。
倫理に囚われて遠ざけることにデメリットしかない。
「今回の調査結果から、イルシオンは何者かに王様がコントロールされてるって考えましたけど、ファーシルさんはどう思います」
「同意見だ」
王様までもが鈴の音に反応して倒れたなら、城が鈴への免疫破壊装置になっていると見て間違いない。
問題は原因をほぼ特定したとはいえ、その問題を作り出したのは事実上イルシオンを好きにコントロールできる人物ということだ。
解決に乗り出そうとすれば、秘密主義を貫くイルシオン上層部から暗殺指令が下されるだろう。
「これ以上の調査はすべきでないな」
「では、証拠隠滅のために鈴は全部破壊しておきます?」
「いや、イルシオンからの侵略があった場合の防衛手段として残しておく」
ただし、グランルーンに何度も倒れられては困るので、鈴は主にリギシアで保存してもらう方針に決めた。
それから3日後……
「失礼する。ファーシル殿はおられるか?」
家でリプサリスが錬金術を行う様子を見ていると、外から俺を呼ぶ声が聞こえた。
俺は外に出ると、そこにいたのはイルシオンの若い騎士だった。
「あなたがファーシル殿か?」
「ああ、そうだがどうかしたか?」
「陛下からグラトニアは十分村としてできあがったので、次の村を作ってほしいという話が出ておりまして……」
このタイミングでそういう指示を出してきたか。
俺をグラトニアから追い出して、イルシオンの支配下に置くつもりだろう。
その要求に悪意を感じたため、俺は断る前提で話を進めた。
「拒否したらどうなる?」
「えっと、そういう話は聞いてないです」
続けて俺は要望に応えるメリットを尋ねるが、そういう話は何も聞いていないらしい。
王様の要望なら何でも動く前提でいたのだろうか?
しかし、彼は俺が拒否する方向の姿勢を示しても何か圧をかけてくることはない。
本当に裏のないただの要望だったのだろうか?
彼はそのまま特に何もせずにイルシオンへと帰っていった。
一体イルシオンは俺をどうしたいのだろうか?




