66話:共通の敵を討ち滅ぼせ!
俺は七色に輝く魔法の球を展開して、戦闘態勢に入った。
ジャーマスたちの背後にいるエンサのことを勘づかせぬよう、威力より派手さを重視した魔法だ。
護衛の二人は魔法を展開した俺を見て、即座に向かってきた。
その瞬間、エンサはどこで手に入れたか分からない長槍を手に、背後からジャーマスを襲った。
「ぐっ……」
鋭い長槍がジャーマスの背中をかすめ、浅い傷を負わせた。
彼は痛みに顔を歪める程度で、倒れる様子はない。
さすがに実戦経験がないであろうエンサでは、致命傷を与えることはできないか。
「なっ……」
「ジャーマスさん!」
俺に向かってきた二人はすぐさま振り返り、一人はエンサを体当たりで突き飛ばし、もう一人はジャーマスの傷を治療する。
エンサの不意打ちが俺に与えてくれたのは、せいぜい10秒程度の時間だ。
一時的に距離を取ることくらいはできそうだが、逃げてもどうにもならない。
今戦っているこの地は俺たちの居住区なのだから……
「ワシの来訪は突然だったろうに、このような伏兵を準備していたとは本当に油断ならぬお方ですな」
「俺が指示したわけではない」
「ふむ……」
ジャーマスの護衛の一人がエンサの持っていた槍を拾い上げると、地に伏したエンサに対して止めを刺そうと腕を上げる。
その瞬間、もう一人の護衛が槍を蹴り飛ばし、バキッと音を立てて柄が折れた
「お前、何のつもりだ?」
「周囲をよく見てみろ」
「ん?」
つい二人の護衛の会話に引き込まれ、俺も周囲を見渡す。
すると、そこにはいつの間にか20人以上の者が戦いの場を囲っていた。
その大半はリギシアからの移住者だ。
「こいつに止めを刺せば、奴らは俺たちを生かしては帰すまい」
「そうだな……」
エンサに止めを刺そうとした護衛の男は、もう一人の護衛の男から説得を受け踏みとどまる。
あの二人をこれ以上危険視する必要はないか。
それならば、あとはジャーマスをどうにかするだけだが、集まってきたリギシアの者らはどう動くつもりだ?
俺は集まってきた者らの様子を見渡すと、何人かが俺の元へと寄ってきた。
「ファーシルさん、ちょっとは俺らのことも信頼してくれませんか?」
「私たちには共通の敵がいるからこそ、派遣されているってことを理解してください」
「……」
共通の敵を前にしても、俺は彼らを頼らず身を危険に晒したことに叱責を浴びてしまった。
リギシアとはセレディアを通して、和睦したが俺は内心彼らを信頼していなかった。
和睦後も、まとめ役のタンゾウを通じてしかやりとりせず、距離を縮められなかったのだ。
「こいつらに情報を流したのはあのチビだろうし、一個人として見られないうちはずっと信用ねぇままかもな」
「あのチビ?」
「お前とやりあったあいつだよ」
俺に歯向かってきた冴えない男か。
セレディアに酷評され、居場所を失った後は、ジャーマスに鞍替えしていたのか。
イルシオンを世界の中心とするために、横暴を働くジャーマスがノースリア人を正当に評価するわけなかろうに……
「ファーシルさん、彼らをどうします?」
「護衛の二人は撤退するならば、手出しする必要はない。ただ、ジャーマスには何しようが構わん」
「全員に伝わるように指示を出しな、俺らにだけ伝わっても統率が取れねぇ」
「分かった」
俺はリギシアの者らへ向けて号令を発する。
「ジャーマスさん、ここは退きましょう」
「仕方がないですな」
護衛の男に説得されたジャーマスは、説得を受け入れ撤退を試みる。
取り囲んだリギシアの者らは次々とジャーマスに目掛けて襲い掛かる。
護衛の二人はジャーマスを守らんと応戦するものの、圧倒的な人数の差から身動きを取れない状況に追い込まれていた。
ジャーマス自らも護身用の武器を用いて、彼らと交戦を始める。
彼は襲い掛かってきたリギシアの移住者らに次々と傷を負わせるが、近くで観察していて分かったことがある。
ジャーマスは優れた武器や道具を手に戦うが、戦闘能力はそれほどでもない。
しかも高齢のせいか、護衛の二人と比べて明らかに体力を消耗していた。
「さぞ強大な力を持ち合わせていると思っていたが、実際はこの程度か」
グラトニアにリギシアからの移住者がこれほどいるとは、ジャーマスにとっては想定外だったに違いない。
彼は必死の応戦も虚しく、四方八方から襲い掛かる攻撃に耐えきれず、その場に倒れた。
「ジャーマスは倒れた!我々の勝利だ!」
「うおおお!」
「おぉー!」
俺の勝利宣言に応戦した彼らが歓声をあげる。
そして、俺の勝利宣言を受け抵抗を続けていた護衛の男らも武器を降ろす。
彼らに危害を加えぬ指示を出したためか、安心して降伏できたのだろう。
ジャーマスはまだ息があったが、所持品さえ奪ってしまえば目を覚ましても問題ないだろう。
なぜ彼はこの程度の戦力でグラトニアを意のままにできると思ったのか?
俺たちに圧力を掛けて動かす筋書きであったにしては、あまりに同行者が少なすぎる。
そんなことを考えていると隣でグランルーンが立ち上がる。
「グランルーン、目が覚めたのか」
「すまない、気づけば俺は倒れていたようだ」
グランルーンは何をされたのかすら分かっていない様子だ。
だが、むしろそのほうが都合が良い。
危険性の高いジャーマスの鈴を、俺が手にすることを咎められないのだから……
「お前は何を考えていた」
「ジャーマスは何でこんな少人数で来たのだろうかってな……」
「国以外の提携機関は、墜征隊を一度に三人までしか動かせない決まりがある」
「なるほど、そういうことか」
あと一人は多く連れてこられたとはいえ、墜征隊の運用は国の規定によって提携機関の者でも一定の制限がされていたようだ。
それがグランルーンを気絶させておきながら、俺たちのような相手にやられた原因か。
俺はジャーマスの所持品を根こそぎ奪い取る。
「こいつはリギシアに送り届けてくれ」
彼をリギシアに送るのは、セレディアへの戦果報告のためだ。
「まだ生きてるようだけど、どうするんだ?」
「好きにして構わない」
生きたまま運ばれたとしても、途中で息が途絶えるだろう。
それならば、彼らの好きにさせればいい。
しかし、ジャーマスが倒れたとて終わりではない。
彼の持つ道具を生み出したチキュウ人が、次に動き出す可能性が高いからだ。
俺は彼の持つ鈴を調べようと考えたが、グランルーンが一瞬にして気絶させられたことから、まず彼を遠ざけておきたい。
再び意図せぬ形で気絶されても困るし、危険性を認識して破壊を命じられることも避けたいからだ。
「グランルーン、グラトニアの住民らに混乱がないか巡回してきてくれ」
「分かった」
俺はグランルーンに巡回を命じた後に、ジャーマスの所持していた鈴をじっと見つめたが、なぜグランルーンが鈴の音を鳴らされただけで、いきなり倒れたのか分かりそうにない。
この鈴をリプサリスに見せても分かるとは思えないが、一応錬金術を扱える彼女なら何かを掴めるかもしれない。
鈴を調べる前に捕らえた二人を動かす指示を出すべきか。
俺は彼ら二人を己が戦力に加えたかったが、墜征隊は己の意志で除隊を認められない上に、俺が勝手に戦力として起用することが許されない。
そのため、まずは墜征隊であることを誰からも悟られない状況を作って欲しかった。
「お前たちは墜征隊であることを示す鎧を脱ぎ捨て、リギシアに向かえ」
「リギシアですか……」
「……」
二人が嫌がるのも無理はない。
リギシアは墜征隊への攻撃性がグラトニアの比ではない。
俺は咄嗟にリギシアの名前を挙げたが、よく考えれば他の場所でも構わない。
「墜征隊を抜けられるなら、リギシアでなくてもいい。だが、グランルーンを始めとするイルシオンの秩序を守る者らの目を欺くために亡命せよ」
そう伝えてから、俺はジャーマスの所持品を手に取り、リプサリスの元に向かった。




