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異世界開拓戦記~幻影政治と叛逆の翼~  作者: ファイアス
刺客への攻防と村の発展

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63話:治安の改善を目指して

 セレディアと対話を終えて、リギシアとの友好関係が結ばれてから数日。

 俺は治安の改善を試みるため、グラトニアの各担当責任者に新たな役割の配分と、マニュアルを作成した。


「リプサリスは確かイデア文字を書けたな?」

「はい」

「それならば、俺が書いたマニュアル文章をあとで喋るから、イデア語で紙に書き綴ってくれ」

「分かりました」


 イデア文字を書けない俺はリプサリスに翻訳をお願いする。

 彼女には既にまとめたマニュアルの他に、これから各部門の担当から意見をもらい、追加の文章も翻訳してもらうことにした。


 俺はタンゾウをリギシアから派遣された移住者たちのリーダーに任命した。

 もっとも俺の提示する禁止事項の伝達や相談窓口の役割を任せるだけで、リーダーらしい役割は与えていない。


「なぁワシは一人なんだが、三人いると勘違いしてねぇか?」


 だが、鍛冶職人としての役目はもちろんのこと、リギシア支援部隊のリーダー、さらには石材や貴金属類の加工に加えて、それらを学びたい者への教育を任すことになった。

 さらに急ぎの仕事として、牢屋作りを依頼した。

 俺に敵対行動を示した者のうち、2名を殺害、1名の片腕を切り落とすまでの対処をしたが、牢屋があれば殺害や腕の切断といった過激な処置は必要なかっただろう。


「悪い、任せられる人間が増えたら負担を減らすよう約束する」

「適当な石材加工ならワシでなくともやれるやつが複数いるから、もう少し他のやつらを上手く起用してやりな」

「分かった」


 俺はタンゾウに牢屋作りを始めとした幾つかの指示を出した後、リギシアから来た移住者向けのマニュアル作成を行う。



 マニュアルの内容は以下の通りだ。

 ・グラトニアの条例を順守せよ

 ・土地の開発や、防衛目的以外の交戦をする際はファーシルに許可を取れ

 ・指示された方法以外で目的を遂行する場合は、何らかのメリットをファーシルに提示せよ。

 ・ゴミは指定の場所へ


 外界からの移住者によるリスクは多いが、最低限の規則が多くなると息苦しさを感じる上に理解が遠のいてしまう。

 そのため、記載する内容は最低限に留めた。


 それから俺はグランルーンとダスティナに警備の方針を伝える。

 グランルーンに出した指示は問題行動が確認された場合は俺に伝えるのみで、注意は行わない方針だ。

 一方で、ダスティナに出した指示は問題行動が確認された場合は直接注意するよう伝える。


「えー、アタイが注意するの?」


 普段注意をされる側であるダスティナは何か言うと、『お前が言うな』と返されるのを何度か見てきた。

 リギシアの人々は出身は皆ノースリアであることから、グラトニアに来てから日の浅い人々もダスティナがどういう人物か知っている人は多い。

 そんな扱いなので彼女がやりたがらないのは分かっていた。


「アタイよりグランルーンに注意されたほうがみんな言うこと聞くっしょ?」

「それはそうだが、どこから注意すべきかの判断に大きな隔たりがあるだろ」

「グランルーンは頭ががっちがちだもんねぇ」

「ああ、だからこそお前ですら許容できないラインのやつを見かけたら注意しておいてくれってことだ」


 グランルーンは良くも悪くも真面目過ぎる。

 彼に注意の裁量を委ねると、グラトニア全体が息苦しくなる。

 逆にダスティナだけに警備を任せていたら、無法地帯となってしまう。

 そこで、丁度良い塩梅となるように二人に警備を任せて、対応の指示を少し変えることにした。


「つまり、アタイはお前のモラルはダスティナ以下だぞーって煽ればいいんだね」

「その認識で構わない」



 息苦しくならない程度に治安の向上させることを考えるなら、軽度の問題は黙認していたほうがいい。

 ただし、軽度の問題とて知らないままではいずれ大きな問題になる。

 そのため、ダスティナだけに任せるわけにもいかず、二人に警備を任せることにした。


 二人に警備の方針を伝えた後は、アナドールに俺が制定した商売関連の条例案を確認してもらう。


「えっと、すごい言いづらいんですけど……」

「どうした?」

「……ファーシルさんって転生前は悪徳商人だったんですか?」

「何でそうなる?」

「普通は悪徳商人ですら、一人でこれだけの悪事を思いつきません」

「それはどうも」


 イラはセレディアと共に経営支援のためリギシアへ向かったことから、グラトニアの商業リーダーをアナドールが引き継ごうと考えていた。

 しかし、彼女は細い体で重い荷物を持って長い道のりを毎日のように歩き続けて、成果を出したド根性商人だ。

 その胆力は賞賛に値するが、経営知識に乏しく、経営戦略や悪徳商法への対策は事実上俺が一人で考えている。


 そのため、俺の示した悪徳商法の数々とその対策を見せると、それらを知っている俺が悪徳商人に見えてしまったようだ。


 彼女に商業リーダーを任せるのはやめておいたほうがいいか。


「ところで禁止事項の転売による流通の阻害って、もしかして私が以前していたことですか?」

「今の状況で行えばそうなるな」


 以前アナドールが作物を買い叩いていた頃は、市場に出ていた作物が全て余剰分であったので、買い占められたところで全く問題がなかった。

 しかし、現在はリギシアからの移住者が増えてきたことから状況が異なっていた。


「一つ思うんですけど……」

「何か問題があるのか?」

「この条例はみんなに提示しないほうがいいかなって……」

「え?」

「普通なら考えもしないことばかりなので、みんな知らないほうが平和だと思うんです」

「なるほど、そういう考え方もあるか」


 俺はアナドールの提案を受け、条例の文章を再考する。

 提示されていなければ条令として示しが付かないが、彼女の懸念するように条令から悪知恵を学んでしまう可能性がある。


「ならば文章をあえて分かりにくくしよう」


 チキュウの法律文章のように分かりにくく表記すれば、条例をきちんと示した上で安易に悪事を学ぶことはできないだろう。


「……ほんと悪知恵が働くんですね」

「チキュウでは悪知恵の働く人間が多かったからな」


 そもそも悪知恵と言われるほどのことではないが、話の彼女の認識に合わせて対話するなら悪知恵と認めてしまったほうが手っ取り早い。

 転売による流通阻害に関する問題の他に提示した内容は、カルテルによる価格操作、密輸、誇大広告、高利貸し、押し売り、執拗なキャッチセールスといったチキュウ人ならニュースで一度は見たことある内容ばかりだ。


 詐欺、略奪といった行為はそもそもイルシオンで違法とされているため、わざわざグラトニアで条例として制定する必要はない。


「これで一通り伝えることは終わったか」


 俺はそれから家に戻り、今日一日の仕事を終えることにした。

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