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異世界開拓戦記~幻影政治と叛逆の翼~  作者: ファイアス
刺客への攻防と村の発展
57/114

57話:新興村の代表は……

 俺たちはイルシオンからグラトニアに帰還後、様子を見回るとある異変に気付いた。

 チェタランがどこにも見当たらない。


「チェタランはどこにいる?」

「ああ、すみません、実は……」

「何か知ってるのか?」

「ヤリテナっていう貴族の人に身柄の引き渡しを求められたんで」

「ヤリテナか」

「チェタランにはみんな辟易としていましたし、彼自身も気乗りだったもんで……」


 返答したこの男は最初期からいる補助機関会員の人間だ。

 付き合いが長いだけに、俺が勝手な判断をされることを嫌うとよく分かっていたはずだ。

 ……その上で勝手な判断をするとは、チェタランに相当嫌気が差していたか。


「勝手に判断することを肯定した覚えはないが、ヤリテナが相手なら結果的に良かったのかもしれないな」


 スロウス家とアキナイ家、両家と友好関係を維持できるに越したことはない。

 しかし、どちらとの関係を重視すべきか選ばねばならないなら、没落寸前のスロウス家よりも上手く立ち回るアキナイ家を選ぶのは当然の判断だ。


 チェタランが自らの意志でヤリテナに付いていったのは、おそらくスロウス家を逆賊から取り戻すという甘言に乗せられたのだろう。

 ヤリテナが利害意識の希薄なチェタランの想いに応えるとは思えない。

 彼女はなんらかの手段を用いて、スロウス家の命運を断ち、自分の手柄にするつもりだろう。

 スロウス家は今度こそ終わりだ。


 スロウス家が終わりを迎えるだろうことで気掛かりなのは、傀儡の当主にされたアケディネアのことだ。

 βの人格が彼女を保護してくれるだろうが、グラトニアを再び訪れた際は迎え入れる準備をしておこうと思う。


 しかし、ヤリテナとは入れ違いになってしまったか。

 彼女が調査していたリギシアについては聞いておきたかった。


「一応確認しておくが、ヤリテナからリギシアの調査内容を聞いているか?」

「少しだけですが、聞いてます」

「聞いている範囲でいいから教えてくれ」


 どうやらノースリアではXXの首領が病気で亡くなり、リギシアはその機に反ノースリア王室の勢力が作った村らしい。


「ノースリアで内部分裂が起きたのか」

「そうみたいです」


 リギシアの主権を握っているのは、おそらくXXの上層部にいた人間だ。

 ただ、それ以上は何も分からない。


 それから数日後のこと。

 ノースリア方面から、屈強な肉体の男らが馬車を引いてグラトニアに現れた。

 イルシオンに向かうまでの中継地点として、グラトニアに寄ったのだろうか?

 彼らの様子を見ていると、そのうちの一人が俺の元に近寄り話しかけてきた。


「ファーシルはいるか?」

「俺がファーシルだが、何の用だ?」

「支援物資だ。受け取れ」


 ぶっきらぼうに話す男は、馬車の積荷は全て俺たちへの支援物資だという。

 あまりに突然の支援物資に俺は困惑を隠せなかった。


「え、誰からだ?」

「お頭からだ」


 お頭という呼び方からして彼らは山賊だろうか。

 しかし、山賊が物資を支援する意味が分からない。

 そもそも俺たちは山賊との関わりはない。

 一体彼らは何者だ?


「お頭と言われても誰だか分からないんだが……」

「俺も同じだ」

「は?」

「上からお頭の命令として聞いてない」


 こいつ、指揮系統のトップを把握していないのか。

 俺はどう判断すればいい?


「目的は分かっているのか?」

「同盟を結ぶことと、イラの確保だ」


 俺は思わず息を吞む。

 こいつ、何でイラのことを知っている?

 実際に知っているのはこいつではなく、こいつらのお頭なのだろうが一体どこから俺たちの情報が漏れたのだ。


「なんだ?」

「なぜ、イラを必要としている?」

「リギシアの発展にイラの協力が必要だと言われてる」


 こいつら山賊ではなく、リギシアの者か。

 俺はヤリテナからリギシアのことを軽く聞いたことがあるだけだ。

 当然関わりはない。

 それなのに、なぜこいつらは俺だけでなくイラのことまで知っている?


「少し待ってろ」

「分かった」


 俺はグランルーンに彼らの見張りを頼む。

 彼らの言動からして、敵対行動を起こすとは考えにくい。

 しかし、何を考えているか理解できないため、警戒を怠るわけにはいかなかった。


 その後、今度はイラに事情を説明する。

 彼女の保護者であるオウボーンとエンサにも、リギシアとの関わりについて訪ねた。


「オウボーンはリギシアのことを何か知ってるか?」

「いえ、リギシアなんて聞いたことがありません」

「それもそうか」


 ヤリテナによれば、リギシアはグラトニアより後に作られた村だ。

 グラトニアができてから、給料日のとき以外は共にいる彼らがリギシアと関わっていたら俺が気づくはずだ。


「もしかして……」

「イラは何か知ってるのか?」

「リギシアの代表ってセレディアさんじゃないんですか?」


 なるほど、その可能性は十分に考えられる。


 ヤリテナから聞いた話によれば、リギシアはXXの首領が亡くなったあと反ノースリア王室の一派が独立を目指して作った村だ。

 そして、セレディアは元XXの後継者候補だ。

 新しい後継者候補が現れなかったのなら、ノースリアに帰郷していた彼女がXXの首領になっていても不思議ではない。

 俺に支援物資を送ったこと、イラのことまでを知っていることから、イラの推論は辻褄が合う。

 何よりセレディアが代表を務めている可能性が高いと思えたのはリギシアという村の名前だ。


『Reギシア』

 ──ギシアの想いを再び──


 リギシアはそんな意図で名付けられたのかもしれないからだ。


 ……とはいえ、セレディアが代表を務めていると決まったわけではない。

 今すぐイラを派遣するわけにはいかないことはもちろん、共闘することだって安易に認めるわけにはいかない。


「リギシア側の要請を今すぐ受ける気はないが、イラはどう考えてる?」

「興味はあります」

「イラが行くとなったら、オウボーンたちは同行するか?」

「私は同行したいのですが……」


 どうやらオウボーンは補助機関の管理者としての仕事の都合上、俺の近くにいないといけないらしい。


「いえ……」

「そうか」


 エンサはそもそも行きたくないようだ。

 彼女は普段からほとんど喋らないので、何を考えているかよく分からない。

 それはイラにとっても同じで、彼女曰くエンサは『ただ母親ってだけの他人』らしい。


「とりあえず今来てる連中には検討するとだけ言っておく」

「分かりました」


 俺は支援物資を送った人物がセレディアであることを前提としつつ受け取ることにした。

 送られた物資をみんなで確認すると、ダスティナが物資の中にあった酒を早速その場で飲み干した。


「これはお前個人宛に送られたわけじゃないんだが」

「こんだけあるならちょっとくらいいいじゃん」

「瓶一本分まるまる飲み干すのがちょっとなわけないだろう」

「そんな硬いこと言わなーい、ヒック……」


 いつものことか。

 少なくともダスティナの飲んだ酒に毒が盛られている様子は見られない。


「ダスティナ、これを少し食べるか?」

「うん?これファーシルの好きなオレンジフルーツじゃん」

「ああ、もし俺を暗殺のための物資ならこれに毒を盛ると思ってな」

「えー、毒見のためって言われると萎えるからパスー」

「そうか」

「それじゃ俺がいただきまーす」


 元刺客の男が横から湧き出るようにオレンジフルーツを手に取り、皮も剥かずに勝手に丸齧りする。


「確認くらい取れよ」

「いやー、なんかこうやって食べるほうが得した気分じゃないですか」

「お前、ダスティナに毒され過ぎだろ」

「はっはっは、別にいいじゃないですか」


 彼は悪びれもなく笑う。

 彼はそのままオレンジフルーツを食べきったが、特に不調を訴える様子はない。

 毒を盛られている心配はないか。


「送られた物資は安全だと判断しよう」


 俺は物資を運んできた屈強な男らに、リギシアの代表の素性を確認できなければ協力できない旨を伝える。

 その上で積極的な物資の支援に感謝をして、できる限り友好関係を築くために最善を尽くすと付け加えた。


 もっとも代表がセレディアなら、ジャーマスがリギシアを本気で潰しにかかる可能性も高い。

 そのため、例え代表がセレディアだったとしてもイラをリギシアに派遣するのは当面の間は見送ったほうがいいだろう。


「わかった」


 支援物資を運んできた彼は一言だけ返すと、他の男二人と共にリギシアへと帰っていった。

 最初からすぐに約束を取り付けられるとは思っていなかったのだろう。


 俺たちは彼らが置いていった支援物資を一つずつ確認していく。

 すると補助機関会員の男があるものに気づいた。


「あ、ファーシルさん。手紙が出てきましたよ」

「なんて書いてあるんだ?」

「グラトニアに凄腕の鍛冶職人を派遣するから、受け入れてやってほしいとのことです」

「人材も支援する気か」

「俺が読めるのはそこまでなんですけど、ファーシルさんはこれ続き読めます?」

「お前が読めないのに、俺がイデア語を読めるわけないだろ」

「続きがイデア語じゃないから、ファーシルさんに確認してるんですよ」

「えっ、少し見せてくれ」

「はい」


 俺は手紙を見つけた男から、続きを見せてもらった。


「英語か」

「英語?」

「チキュウには世界各国でそれぞれ違った言語で話しているのだが、英語はそのうちの一つで世界共通語とされている言語だ」

「共通言語があったら、何で他の言語があるんですか?」

「後から力のある国々が、自分たちの言語を共通言語にしようって言いだしたからだろう」


 言語の歴史などは特に詳しくないので、具体的な質問をされても答えられない。


「そうなんですか。それで何て書いてあるんです?」

「今から解読するが、俺は英語が苦手だからあまり期待しないでくれ」

「えー」


 ……まさか俺の苦手な英語と異世界で向き合わなければならないとはな。

 とりあえず読める範囲で解読していくか。


『route』『weapons』『secret』といったいくつかの単語だけは読めたものの全文の内容は分からない。


 武器に秘密か。

 読めたとしても皆に伝えるべき内容ではなさそうだな。

 途中からわざわざ英文で書いたのは、俺にだけ伝えるのが目的だろう。


「俺の読解力不足ゆえに細かな内容までは把握できないが、英語を用いたのは伝える相手を限定するためのようだ」


 そのことからこれ以上のことは解読できても伝えられないとみんなに説明した。


 この文章に書かれていることは恐らく、リギシアへの武器供給ルートを作れという内容だ。

 イデア語で書かれていた文章と合わせて考えると、安定した武器製造と供給のために凄腕の鍛冶職人をグラトニアで匿ってほしいということだろう。


 しかし、リギシアはどこかと戦争をするつもりだろうか?

 代表がセレディアだとすれば、やはり敵はジャーマスか。

 リギシアが作られた経緯を考えると、ノースリアに軍事クーデターを起こす可能性も否定できない。

 あと気になるのはイルシオンとも敵対していると聞くサグラードのことだ。


 少なくとも盗賊の討伐といった堂々と公表できる理由ではないだろう。


 この支援物資の供給は明らかに俺たちへの餌付けであり、グラトニアを意図的に戦いに巻き込む狙いが見え隠れする。

 しかし、急激な発展を続けるリギシアの要請を無視するのは、返って俺たちの不利益となるだろう。


 俺はリギシアの動向に不安を覚えつつも、まずは数日後にやってくるらしい鍛冶職人の受け入れを決めることにした。

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