表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界開拓戦記~幻影政治と叛逆の翼~  作者: ファイアス
刺客への攻防と村の発展

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/114

55話:イルシオン市場調査・前編

 アナドールを捕らえた三日後のことだ。

 グラトニアをグランルーンに任せて、俺はダスティナとアナドールと共にイルシオンに向かう。

 俺がイルシオンに同行するのは、そろそろ食材や交易品の相場や需要をこの目で確認しておきたいからだ。


 留守中に刺客が襲ってくる心配はあるが、それ以上にチェタランがトラブルを起こさないかが気がかりだ。

 彼を保護してからそれなりに経ったが、何かと対人トラブルを起こすことが多い。

 ……まあ、何かあったら拳による教育を受けて、彼の体に痣が増えていることだろう。


「ファーシルはもう肉体強化魔法は慣れたよね?」

「短い距離なら慣れたが、イルシオンまで突っ走れってのはさすがに無理だぞ」

「まあ走れるだけ走ろう」

「アナドールのことはどうするんだ?」

「こいつはアタイが背負ってくからへーきへーき」


 ダスティナがアナドールを背負ってイルシオンまで走り抜けることは昨日既に試していたらしく、背負われる側に掛かる心臓の負担も心配ないようだ。

 肉体強化魔法を用いて駆け抜ければ、グラトニアとイルシオンの往復が日帰りで可能だ。

 留守にする時間を短くするためにも、できるだけ急いで移動したかった。


「じゃあ、とりあえず走るか」

「おっけー」


 俺たちはイルシオンに向かって駆け出した。

 しかし、初めてダスティナと共に肉体強化魔法を用いながら駆け抜けることで想定外の問題が発生した。

 元々の脚力が違いすぎる。

 ダスティナのほうが断然足が速い。


「まずい、ダスティナを見失った!」


 俺はイルシオンとグラトニアの往来に慣れておらず、道もよく覚えていない。

 そのため、ダスティナを見失うと迷子になりかねない。


「おーいこっちこっちー」

「ああ、今行く」


 ほっとした。

 どうやら俺がついていけてないことに気づいたらしい。


 それからも俺たちは足並みが揃わず、イルシオンに辿り着くまでだいぶ時間がかかった。


「ふぅ、疲れた」

「ファーシル走るの遅すぎない?」

「お前が速すぎるだけだ」


 そもそも暗殺者としての訓練を幼い頃から受けているダスティナに、足の速さで敵うはずがなかった。


「イルシオンに戻るのは久々だな」

「そ、そうですか……」


 アナドールは相槌を打つが、どこか心ここにあらずといった様子だ。

 母親と顔を合わせたときにどうすべきかと考えているのかもしれない。

 ……とはいえ、今はそのことを気にしていても仕方がない。

 俺は俺の目的を果たすだけだ。


 まずは俺がイルシオンにいたとき活動拠点としていた下流区を回る。

 特に絶対把握しておきたかったのが食材の価格だ。

 今はまだグラトニアを訪れる商人の数が少なく買い手を選べる状況ではない。

 そのため、余った作物は食べられなくなる前に1ゴールドだろうと売り切ってしまったほうがいい。


 しかし、今後訪れる商人の数が増えて購入競争が起こるようになれば状況は変わる。

 イルシオンの適性な相場を把握しておかなければ確実に損をする。


「平均的な価格はアナドールが買い叩いてた金額の4~5倍か」

「あれ、ファーシルっていつの間にイデア語を読めるようになったの?」

「いや、読めるのはまだ数字だけだ」


 時計のイデア語の数字を日々見ていたため、数字だけは簡単に覚えられた。

 ただし、単語は『りんご』と『apple』のように同じ意味でも文字数から違っており、まるで覚えられずにいた。


「……えっと、召喚されてからしばらくはイルシオンで生活してたんですよね?」

「そうだが、それがどうかしたのか?」

「食材の相場はここ最近ずっと横ばいなので、ここで生活してたときとほとんど変わらないはずです」

「いや、それはそうかもしれないが……」


 イルシオンにいた頃の俺は食事の準備を全てリプサリスに任せていたので、相場なんてまるで知らなかった。

 出会ったばかりのアナドールはそんな俺の事情など知るはずもない。


「食事は全てリプサリスに任せてたから、相場を理解する機会がなくてな」

「そうなんですか……」

「え、なんか意外かも」

「そうか?」

「うん、だってファーシルって全部自分で決めたがるじゃん」

「……そうかもな」


 そういえばイルシオンを拠点としていた頃はまだダスティナとも出会っていなかったか。


「当時は外出するだけでも監視担当のどちらかと同行する必要があったからな」

「面倒だったんだ」

「ああ、それに当時は数字だって全く読めなかったからな」


 それから約20分後。

 俺は食材の相場チェックを終えて、冒険者ギルドの前まで足を運ぶ。


「そういえば、チキュウ人は冒険者ギルドの利用を禁止されてたが、依頼を受けなければ特に問題はないか?」

「え、知らなーい」

「いやいや、お前一応俺を監視するのも仕事なんだから知っとけよ」

「ギルド法の違反責任を負わされるのはギルドマスターだからあんま気にしなくていいんじゃない?」

「……そういうことはよく分かってるんだな」


 グランルーンはいつも法令順守を第一に判断していた。

 一方のダスティナは罰則がない法律など守る価値がないという認識だ。

 監視役であるダスティナがそんな判断をするのはどうかと思うが、俺には気楽でいい。


「とりあえず入っちゃっていいか」


 俺は冒険者ギルドの扉を開ける。


「うわっ」


 そこは酒気が部屋中に充満しており、酒が弱い俺にとっては長居したくない空間だった。

 さらに部屋の広さに対して人が密集していることから、なおのこと気持ち悪かった。


 冒険者ギルドと酒場は一応別々だが、扉一枚で繋がっている。

 行き来が自由なため、もはやみんな一つの店という認識でいるようだ。


 俺がギルド内に入ったとき、何人かは俺のほうに目を向けたが誰も気にする様子はない。

 召喚されたばかりのチキュウ人は見た目で分かると聞いている。

 みんな俺がチキュウ人だと分かっていながら、気にしていないのだろう。

 この感じならカタオクリナが前に言っていたように、掲示板依頼なら俺が引き受けようとしても咎められないだろう。


「おっ、ファーシル見てみて」

「どうした?」


 ダスティナは掲示板依頼の一つを指さし俺に見せる。


「見せられても、数字以外は読めないぞ」

「これ巨大蛾の繭を取ってこいってやつね」

「1個2050Gか」

「これ引き受けてくるね」

「いや待て、というか依頼主の名前欄らしき場所が空白だぞ」


 ダスティナは俺の言葉も聞かずに目立つ位置まで移動すると『この依頼引き受けまーす』と声を張り、反応を示した依頼主の元へと駆けつけた。

 掲示板依頼の受注の流れはこんな感じなのか。

 こんな騒々しい空間で、声を張らなきゃいけないとは陰キャには辛いシステムだな。


 しかし、掲示板依頼の文字を読めないと、相場の判断もできないな。

 ……というか、ダスティナもあまり文字を読めなかったはずだが、俺が数字だけは読めるようにあいつも依頼文章くらいなら読めたのか。


 それはともかく、文字を読めない問題をどうすべきか。


「アナドールは文字を読めるか?」

「一応読めますけど」

「掲示板依頼の内容一通り読んでくれないか?」

「……え、そんなことしたら不審者じゃないですか」

「そう言われるとどうしようもないんだが」


 確かに事情を知らない第三者には、依頼内容を読み上げる姿は不審者と映るかもしれない。

 でも、せめて掲示板依頼の内容くらいは頭に入れておきたい。


「なんか困りごとか?」

「あ、ああ……」


 ギルド内にいたガタイの良い男が俺に話しかけてきた。


「あんたチキュウ人だろ?」

「ああ」

「じゃあDランク相当の依頼なら軽くいけるな」

「いや待ってくれ、俺は別に依頼を受けに来たわけじゃないんだ」


 案の定俺がチキュウ人だと分かった上で、依頼を勧めてきたか。

 親切な人物だが、法令順守意識は希薄なようだ。


「え……」


 男は少々困惑した様子だ。

 掲示板依頼を見ておきながら、依頼を受けるつもりはなかったと言われたら確かに困惑するのも無理はない。


「じゃあ何に困ってたんだ?」

「文字が読めないから、どうしようかとな」

「でも依頼を受ける気はないんだろう?」


 俺は冒険者ギルドの需要や相場を学びにここへ足を運んだのだと彼に告げる。


「ほぉ、そういうことか」

「何か変か?」

「いや、グラトニアの代表が真面目に勉強してるんだなと思ってよ」

「!?」


 どうしてこいつは俺がグラトニアの代表だって一瞬で分かったんだ?

 まさか敵か?


「おいおい警戒すんなって。話には聞いてたが、あんただいぶ警戒心が強いんだな」

「何で俺がグラトニアの代表だって分かったんだ?」

「さっきダスティナといただろ」

「ああ、そういうことか」


 ダスティナが自分の仕事のことを喋っていたなら、彼女と一緒にいたチキュウ人ってだけで特定は容易か。

 ただでさえダスティナは冒険者ギルドの中では有名人だ。

 なおさら知られている可能性は高いか。


 俺はガタイの良い男から掲示板依頼の内容を一通り教えてもらった。

 彼から話を聞くことで、なんとなく分かったことがある。

 最低ランクのGランクはもはや冒険者として扱われていない。

 Gランク向けの依頼は、まるで日雇い労働者として人材の穴埋めを求められる内容ばかりだった。

 しかもその依頼の大半は一般的な雇用相場の1/3ほどだ。

 こんな条件で引き受ける人がいるのか?


「こんな安い価格で誰が引き受けるんだ?」

「それが割といるんだ」


 この手の激安依頼は選考なしで即やれる仕事が多いため、定職に就けない人物の臨時収入源になっているようだ。

 そういえば、刺客としてやってきた連中も冒険者ギルドの依頼がきっかけだったな。


「ふむ……」

「まだ何か気になることがあるか?」

「依頼で求められる素材は何に使われるのかと思ってな」

「ああ、それなら……」


 俺は彼からさらに話を聞く。

 求められる素材は薬草、紙、着色料など用途は様々だ。


「親切に教えてくれて感謝する」

「おう、またな」


 俺は冒険者ギルドから出ると、次は商売が盛んな中流階級の人々が住まう区域へと調査に向かうことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ