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異世界開拓戦記~幻影政治と叛逆の翼~  作者: ファイアス
刺客への攻防と村の発展

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46話:知られざる保護者

「今のは一体……」


 俺はイデアに召喚されてから、そこまで長い期間滞在しているわけではない。

 それでも魔法に関する常識は一通り理解しているつもりだった。

 だからこそアケディネアの魔法が本当に俺の知っている魔法なのかと不思議でならない。


 一方でダスティナはその威力に純粋に感心する様子だった。

 刺客もどきのチャラ男たちは、これが自分たちに向けられる予定の魔法だったのかと冷や汗をかいていた。


「ファーシルさーん、これなら十分ですよねー」

「あ、ああ……」


 アケディネアの戦闘能力はグラトニアに滞在させる価値がある。

 それは認めざるを得なかった。


 ただし、防御面は見た目通りの弱さらしい。

 もちろん他者を護衛するような戦いには向かない。

 闇討ちのような戦い方こそ彼女の本領を発揮できる。


 彼女に適した戦い方を考えると、用心棒という言葉で彼女を表現するのは不適切かもしれない。

 そこで、彼女の役割は『戦闘員』と呼ぶことにした。


 魔法を主体に戦い、防御面が脆い彼女の戦闘スタイルは俺に近い。

 ……魔法の威力は俺と比べて大きく上回ると考えれば上位互換といったところか。


「おう、そんじゃ約束の報酬は頂いてくぜ」

「はーい」


 カタオクリナはアケディネアから報酬を受け取ると、一緒にやってきた刺客もどきのチャラ男たちとイルシオンに帰っていった。


 その後、俺は作業をしながら彼女の魔法の正体は何なのかと考え込む。

 本人に聞いても何も分からない。

 彼女は物心ついたときからさっき俺たちに見せたような高度な魔法を扱えたことから、何で扱えるかと考えたこともなかったという。


「ファーシルいつまで考え込んでんの?そんなに気になる?」

「ああ」


 納得できる答えに執着するのは俺の悪い性分なのだろう。

 一方のダスティナはアケディネアの魔法はそういうものと割り切っていた。

 固定観念から外れた何かが存在したなら、その事象を新たな枠組みとして組み込めばいい。

 そんな考え方だった。


「どうしても魔法に思えないってんならさ、異能力ってことにしちゃえばいいんじゃない?」

「そんな雑な結論で納得できるなら、最初から考え込んでない」

「ふーん」

「いや、待て……」


 彼女はイデア人だ。

 しかし、今のリプサリスのように異能力を使えるイデア人だっている。

 彼女もまたそんな一人かもしれない。


「どうかしたの?」

「リプサリスと同じパターンかもしれないと思ってな」

「あー、チキュウ人の異能力を吸収したってやつ?」

「そうだ」


 俺は彼女の魔法が魔法ではなく異能力だったとする前提で考えると、一つの仮説が立てられた。

 アケディネアの中にはまだチキュウ人の人格が眠っている可能性が高い。

 普通に考えれば、度を超えた世間知らずのアケディネアがイルシオンからグラトニアに一人で辿り着けたことに強烈な違和感がある。

 しかし、彼女の中に別の人格が主体となってグラトニアに足を運んだならば何ら不思議ではない。


 俺はその仮説を立てると休んでいたアケディネアに質問を投げかける。


「アケディネアは気づいたら見知らぬ場所にいることはよくあるか?」

「えー、何でわかるのー?」

「!?」


 ほぼ間違いない。

 彼女には別人格が眠っている。

 しかもリプサリスのときと違い、意思疎通ができてないことが伺える。


「家族のみんなに話しても、ウチの言うこと信じてくれなくてさー」

「ふむ……」


 彼女の家族ですら違和感に気づかないのなら、別人格のアケディネアは彼女の振る舞いを模倣しているのだろう。

 そのため、もしその別人格が表に出ていても俺の疑問をはぐらかすだろう。

 普段は彼女の中に隠れていることまで考えると、別人格の彼女と直接対話に持ち込むのはなかなか骨が難しいかもしれない。


「……」

「どうしたのー?」

「ああ、ちょっとした考え事だ」

「ふーん?」

「アケディネアは誰もいないはずなのに、近くに誰かいると感じることはあるか?」

「え、お化け?見たことないよ」

「……お化けなんて言ってないが、まあいい」


 別人格が眠っている可能性に対する本人の自覚はなしか。


 ならば、直球で呼びかけたほうがいいだろう。

 俺にその存在を隠しきれないと思ったならば、表に出ざるを得ないはずだ。


「もう一人のアケディネアと話したい。応答してくれるか?」

「え、何それ?ウチがもう一人いるなんて聞いたことないよー」


 応答しないか。

 ……あまりやりたくないが、イルシオンの治安維持を理由に揺さぶりかけるか。


「応答しないのなら、お前の不自然な挙動をグランルーンに報告するが構わないな?」

「……」


 !?

 彼女の腕の中で何かが動いたのだろうか?

 一瞬だけ腕に小さな力こぶができたかのように膨れ上がった。

 そのときアケディネアは一瞬気を失った様子を見せたが、すぐに正常な様子に戻り俺の問いかけに反応をする。


「ウチのことそんな気になるのー?」

「ああ、今のお前はさっきまでのアケディネアではないな」

「うっそー、もう分かったの?」

「なんとなくだがな」


 話し方、声に変化はない。

 しかし、俺の意図を汲み取って返す知性が先程までのアケディネアとは違うと感じられた。


「まさか家族にも気づかれなかったのに、チキュウ人の君に気づかれるなんて驚きだよ」

「似たような体験をした仲間がいるからな」

「へぇ……」


 俺はようやく別人格を見せた彼女に様々な疑問をぶつける。

 どうやら、今話している彼女は罪人として捕まっていたチキュウ人だった。

 アケディネアは幼い頃に病気で生死を彷徨っていた。

 そのとき、彼女の両親がこのまま死んでしまうならば助かる僅かな可能性に賭けたいと、人体実験の被験者にすることを了承したという。


 その人体実験は異能力を持ったイデア人を生み出すことが目的である。

 大半の場合は対象の体が拒絶反応を示し、一つの体で二つの精神を宿すことはない。

 しかし、当時のアケディネアが体の防衛反応が機能せず、今俺と話している別人格がすんなり入り込めたのだという。


「アケディネアの体の主導権はお前が握っているのか?」

「そうだねー」

「お前が主導権を握ったら失敗と見做されて、処分されるんじゃないのか?」


 今まで俺が見聞きしたイルシオンの方針を考えれば、共存してるとはいえ体の主導権を握った彼女が生かされていることに違和感がある。


「普通はそうだねー」

「ならばお前は何で処分されずに生きてる?」

「それは今のウチを見てれば分かるでしょー?」

「本体のアケディネアを模倣したのか」

「うん」

「だが、当時の彼女は病気で生死を彷徨っていたのだろう?ならば模倣するにも普段の彼女を知ることさえできなかったはずだ」

「そうだね。でもそれは実験をしてた人も同じだよ」

「誤魔化せたのか」

「うん、名前を聞かれたときにウチがアケディネア・スロウスだって名乗るだけで誤魔化せたよ」


 ……あまりにも杜撰だ。

 カタオクリナがギルドの依頼を受けられていたことだってそうだ。

 イルシオンは目的に合わせた法律の整備は徹底しているのに、その法律に従って管理すべき人々が全く管理できていない。

 イルシオンは見方を変えれば俺が思っていたよりもずっと自由な国なのかもしれないな。


「ところでお前の名前はなんていう?」

「ウチはウチよ、アケディネア以外の名前なんていらないから」

「そうか……」


 まあ、元の名前を意識していれば正体を悟られてはいけない相手にボロが出る可能性も高まる。

 そう考えたら、自分の名前を捨てる彼女の判断は正しいかもしれない。


 ……とはいえ、思考整理をするときに両者ともアケディネアというのはややこしい。

 そのため、別人格の彼女は『β』と定義しておくことにした。


「なるほど、大体のことは理解できた」

「それじゃ戻っていい?」

「いや待て、お前自身がアケディネアにならない理由は何だ?」

「どういうこと?」

「本物を表に出さなくすることだってできるはずだろ?」

「あー、そういうことねー」


 アケディネア本人より知性のあるβが本物のアケディネアになってしまえば、わざわざスロウス家を追い出されることはなかったことは言うまでもない。

 体の主導権を握りながら、今まで誰にもβであることを疑われずに生きてきた彼女が本物のアケディネアと入れ替わる理由が理解できなかった。


「ウチはアケディネアが大好きだからさー、消えないでほしいもん」

「……」

「なんかおかしかったー?」

「いや、おかしくはないが好きなら本人と意思疎通をしないのか?」

「ウチが好きでもアケディネアは嫌いになるかもしれないじゃん」

「そうか」

「それじゃ今度こそ本物に変わるよー」

「分かった」


 彼女は宣言通り、元にアケディネアへと入れ替わっていた。

 アケディネアはさっきまでの出来事をやはり理解していないらしい。


「変わった愛だな……」

「んー、何の話ー?」

「いや、何でもない」


 自分が認識されないまま一方的に愛するだけでいい。

 俺には理解できない感覚だが、確かにこういう思考の人間には何度か会ったことがある。

 βもその類の人間なのだろう。


 それにアケディネアが子供のときから一緒にいるともなれば、彼女を見るβは親の気持ちでいるのだろうか。

 もっともそこまで俺が理解する必要ないか。


 とりあえずアケディネアの心配は不要だと分かった。

 知性の足りない彼女をフォローできる保護者がいるからだ。


 俺はアケディネアの不可解な点を解消できたことに満足すると、その日は軽く作業をした後に休むことにした。


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