40話:逆恨みの没落貴族
「お前は何のつもりでこんなことを……」
「復讐だ」
「……何を言っている?」
捨て駒の刺客らに襲撃をさせて、計三名を死亡させた男は俺に対する復讐のためにやったと供述する。
しかし、俺はこの男の名前すら知らない。
知っているのはジャーマスの護衛の一人としていたことくらいだ。
ただ、一つ分かったことがある。
この襲撃はやはり、ジャーマスの意図に沿ったものではないことだ。
つまりこいつさえなんとかすれば、グラトニアが滅ぼされることはない。
「貴様のせいだ。貴様のせいで我が息子とエンドフォール家は……」
やはり全く身に覚えがない。
しかも家名を意識するのは、イルシオンにおいて貴族階級の人々に限定される。
だが、俺には貴族との関わりがない。
「貴様の脅迫行為が原因で、我が息子はチキュウ人を恐れ仕事も手に付かなくなった。挙句の果てには、ミウルスに唆されて全てを失った。代々受け継がれてきたエンドフォール家の名誉さえも!」
ただの逆恨みか。
この男の話によると息子はある時から自領のチキュウ人への態度が急変したらしく、ミウルスと接触した後は反チキュウ人召喚を掲げるようになったそうだ。
他家の貴族に対しても反チキュウ人活動を扇動した罪、及び自領におけるチキュウ人への拷問行為など数々の罪で禁固10年以上の刑が確定したらしい。
そんな息子の犯罪が原因でエンドフォール家は、国からの制裁によって財産、権力共に大きく失い没落貴族となったようだ。
俺は貴族が自領で働く暴政は、それほど大きな罪にならないとセレディアから聞いたことがある。
それにも関わらず彼の息子が10年もの刑が確定したのは恐らく犯行内容そのものよりも、一級犯罪者として指名手配されているミウルスに唆されて行動を起こしたことが原因だろう。
しかし、この男の息子が誰なのかはさっぱり分からない。
そもそも見知らぬ他者に恨まれるほどの影響力が俺にはまだない。
「人違いじゃないのか?」
「いいや、間違いない。貴様の行いと名前はリダンから聞いている」
「リダンだと!?」
リダンという名前は俺がイデアに召喚されたとき召喚者たちのリーダーだった人物だ。
そうか。こいつはあのとき俺に怯えながら、こんなやつは殺すべきだとリダンに訴えかけていたリビービの父親か。
リビービは貴族であることを鼻にかけ、自分たちの都合で召喚した存在である俺に対して見下す態度を取っていたろくでもないやつだと覚えている。
子が子なら親も親とはよく言ったものだ。
「ははははは」
「貴様、何がおかしい」
「あの問題児坊ちゃんの父親がお前のような腐れ外道だと分かれば笑わずにはいられないだろう」
「キサマァ!私のみならず息子のことまで愚弄するか」
激昂する男はレイピアを取り出して、俺に向かって突撃してくる。
また、腰には鞭も備えてあり複数の武器を使いこなす者のようだ。
「このカウラミ・エンドフォールを愚弄した罪、地獄で償い続けよ!」
カウラミと名乗った男の動きはカタオクリナと比べると明らかに遅い。
俺は間合いに入られぬうちに大規模展開魔法を用いて一斉放出する。
「なにっ!?これほどまでの魔法を使いこなすだと」
カウラミは一斉放出された俺の魔法に驚くと、空いていた左手で鞭を持ち魔法弾を振り払おうとする。
「ぐぬぬっ……」
だが、魔法弾の衝撃威力を軽減させたものの、無力化するには至らずよろめいた。
……こいつ弱い。
セレディアと戦ったときも開幕同じ手を使ったが、あっさり避けられた。
カタオクリナと戦ったときはこの魔法を直撃させたが、ノーダメージだった。
だが、こいつは避けることも無力化することもできずに被弾した。
さすがに襲撃してくる素人のように地べたに座り込んでしまうほどではないが、こいつの実力は多分素人に毛が生えた程度だ。
この程度の雑魚が相手なら俺一人でも勝算がある!
勝利への確信を持ったこのまま俺は一気に叩き伏せてしまうべく、次々とカウラミに向けて魔法を放つ。
「ぐはぁっ、ごふっ、あぎゃああっ」
俺の一方的な攻勢は続く。
やはり口ほどにもない雑魚だ。
こんな雑魚にグラトニアをめちゃくちゃにされたというのか……
「おのれ、おのれぇぇぇぇぇ」
大量に血を吐き、息も絶え絶えながらもカウラミは俺に憎悪の眼差しを向ける。
「このような礼も弁えられぬなり損ないなどに……」
「礼を弁えられぬのはお前のほうだろう」
「貴様のような下賤の者に弁える礼などない」
この後に及んで対等な目線で話すことすらできないのか。
どこまでも傲慢な男だ。
貴族はチキュウ人を含む平民よりも絶対的に上の立場だという価値観のカウラミとはもはや会話が成立しない。
何せ俺はどんな金持ちだろうが、権威を持つ人間だろうが、同じ人間としか思っていない。
だから上から目線で、自分より下の者は自分の意のままに動くべきだという前提で接してくる、危害を加えてくる横暴な人間には、極めて強い忌諱感を隠すことすらできずにいる。
ドルミナーで建築技術を学ぼうとなったとき、オガカタの第一印象に俺がピリついていたのはカウラミのような人間がいるからだ。
雇われ仕事を避けようとする俺の態度を見たサキュバスクイーンにはPTSDを疑われたほどだ。
そうだ、こんなやつがいなければ転生前だってもっと前向きに人生を歩んでいたさ。
しかし、今は殺し合いの場だ。
さらに俺は優勢だ。
「ふふふっ……」
俺は歪んだ感情を胸に笑みを浮かべる。
転生前から秘めていた傲慢な人々への恨みつらみを、こいつになら爆発させたって構わないんだ!




