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異世界開拓戦記~幻影政治と叛逆の翼~  作者: ファイアス
刺客への攻防と村の発展
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39話:蛮行が招いた混乱

 セレディアがノースリアに帰郷してから十数日が経過した。

 その間に後方の指示役を除くニ組、計七名の刺客がグラトニアに現れた。


 ダスティナには、彼らに俺とセレディアが留守にしていると伝えさせた。


 その結果……

 一組目の刺客グループは後方の指示役に対応の確認を求めに一度は退いていった。

 しかし、再び姿を現し、家に火を放ったところをダスティナに捕縛された。


 二組目の刺客グループは、農作物を荒らしていたところをダスティナに捕縛された。


 両刺客グループとも「ターゲット以外の人物に手を出さないように……」という要求だけはきちんと守っていた。


 何もしないで大人しく帰ってほしいと願いたいが、ジャーマス側はグラトニアを犯罪者予備軍の廃棄場と見なして送り込んでいるのだからそうはいかないのだろう。

 それに捨て駒の刺客たちが何らかの問題行動を起こす前に捕まえればどうなるか。

「我々は何もしてないのに不当な扱いを受けている」と不満を募らせ、後々トラブルの原因になる。


「……現状に妥協するのが一番か」


 俺は今まで通り問題を起こす刺客がやってきては捕らえる。

 それが一番だと結論付けた。


 それから数日後、再び給料日の時期がやってきた。

 今回はダスティナを除き、全員がグランルーンに護衛されて給与の受け取りにイルシオンへと向かう。

 カタオクリナの襲来があって、ダスティナの戦闘能力では心もとないと感じる人が増えたためだ。


 この間はグラトニアの警備は手薄となるため、いっそう警戒しなければならない。


 ダスティナは先に一人で給与の受け取りを済ませていた。

 その際に物資の調達も頼んでいたが、渡した貨幣を酒につぎ込んでしまったため、満足な物資の調達はできなかった。


「お前なぁ……」

「いやぁ、一人でいるのに酒を飲むなってのは無理でしょ~」


 反省の色はまるでない。

 まあ、いつものことだ。

 もっともこうなることは予想の範疇だったので、さほどの金額は渡していなかった。


 しかし、今まで買い出しを頼んでいた老人はセレディアと共にノースリアに帰郷してしまった。

 その穴埋めはどうすべきか、近々考えなければ……


 ダスティナが戻って来てから数時間後。

 グランルーンたちがイルシオンへと向かう。


 彼らが戻るまでの間、グラトニアにいるのは俺とダスティナ、エサ村の人々、それと捕らえた元刺客たちのみとなる。

 ……嫌な予感がする。


 グランルーンがイルシオンに向かってからさらに数時間。


 また新たな刺客グループがやってきた。

 だが、この日やってきた彼らはいつもの刺客と明らかに様子が違っていた。


「うわああああぁぁぁ」

「や、やめろ俺は何もしてねぇ」

「きゃああああぁぁぁ」


 グラトニアのあちこちから悲鳴が聞こえてきた。


「……嫌な予感が的中したか」


 俺は家の外に出る。

 すると近くにいたダスティナは、すでに襲いかかってきた刺客の一人を返り討ちにしていた。

 何が起きているかと彼女に確認をすると、刺客らはグラトニアに残った人々を何の躊躇いもなく、殺傷しているという。

 刺された人々はいずれも意識不明の重体だ。


 それから辺りを見回すと、襲ってきた刺客の一人を見つけた。

 その刺客は近くにいた女を人質に取り、首に刃物を当てた。


「ファーシルとセレディアはどこだ?この女を殺されたくなければ、とっとと俺たちに首を差し出せ」


 俺はその卑劣な刺客の姿を捉えると、無言で後方から魔法を放つ。

 その数秒後、彼は後頭部を貫かれて倒れた。


「がぁっ……」


 人質を取っていた刺客はろくに言葉も発せぬまま一撃で絶命する。

 人質にされていた人物は身長が低かったことが幸いし、容易にターゲットのみを始末することができた。

 しかし、人質にされていた女は刺客を貫いた魔法によって、肉片が飛び散る瞬間を間近で見たショックで意識を失ってしまった。


「敵のみを始末したのに、こうも問題が起こるか」


 俺は市街地での戦闘リスクを痛感する。


 それからダスティナに刺客があとどれだけいるかと確認する。


「他に確認できたのはあと一人だね」


 俺はあたりを見渡すと、すぐにその刺客の姿を捉えた。

 その刺客は家に次々と火を放ち、人の姿を見つけたら迷わず襲い掛かる。

 ……あいつを早く始末しなければ犠牲者が増えるばかりだ。


「外道めが、永遠に地獄で後悔し続けろ!」


 俺は蛮行を繰り返す刺客に向けて魔法を放つと、彼もまたその場で絶命した。

 残忍さは今までやってきた刺客とは明らかに異なるが、実力はやはり素人の寄せ集めでしかない。


 俺はその後、消火活動と刺された人々の救助に当たる。


「助かりそうにないか……」


 脅しや見せしめのための殺傷行為と考えるには、あまりにも急所を的確に狙われている。

 この襲撃で刺された5人のうち、3人の死亡が確認された。


 死亡した3人はかつて俺とセレディアを狙ってきた刺客とはいえ、俺に恭順の意を見せていた者たちだ。

 どうでもいいなどとは思わない。


 一方で生き残った人々は、蛮行を働いた刺客たちを始末してもなおパニック状態に陥っていた。


「ダスティナ、殴ってでも彼らを落ち着かせろ!」

「えぇ~」


 パニック状態になった者たちの中には脱走を試みる者もいた。

 また、ダスティナが返り討ちにした刺客を、数人がかりで殴る蹴るの暴行を加える姿も見られた。

 暴行を加えられた刺客はすぐに意識を失い、抵抗さえできなくなっていたが、暴行を加えていた一人が彼の懐からナイフを奪い体中を滅多刺しにした。

 その刺客がそのまま絶命したことは言うまでもない。


「元刺客のあいつらとてやろうとしたことは変わらないだろうに……」


 その場を支配する恐怖にそんな正論など通じない。

 俺はパニック状態となっていた数名を魔法で足止めした後、エサ村の人々を除き一カ所に集める。


「お前たちはしばらくここにいろ」

「あの、まだ監視の人は近くにいるんですよね」

「絶対またああいう連中がきますよ」

「……この場所ごと燃やされませんか?」


 彼らはまだ起きた事態に対して冷静さを取り戻せていない。


 やはり今回は後方にいるであろう監視者をどうにかしなければならないか。


「ダスティナ、後方の監視者を捕らえて尋問を行ってくれ」

「いやいや無理無理だって、後方の監視者って墜征隊なんでしょ?」

「そうと決まったわけではない」

「でもそうだったらアタイじゃどうにもならないって」


 確かにダスティナは、先日戦いを繰り広げたカタオクリナには全く歯が立たず真っ先にやられて倒れていた。

 だが、それは俺が戦っても同じだ。


「クズが、こんなときくらい働きやがれ」

「普段飲み食いしかしてねーくせにこんなときさえ逃げるつもりかよ」


 恐怖に駆られた人々は、俺の要求を拒否するダスティナに罵声を浴びせる。

 普段はダスティナに嫌悪感情を抱いてない人たちだったが、この状況が彼らを追い詰めていた。


「……とりあえずどういう容姿の人物かだけでも確認してきてくれ」

「えぇ~」


 露骨に嫌がるダスティナだが、強い言葉で罵声を浴びせ続けられるよりはマシと判断したのか、とりあえずその場から離れた。

 そのまま逃げだしかねないが、何もさせないよりは彼らの興奮状態を落ち着かせることができるだけマシだ。


 それに恐らく今回の襲撃はジャーマスの意思ではなく、監視者個人の意向によるものだ。

 だからこそ、その監視者の特徴を把握しておけば、次の給料日のときにはオウボーンを通じて取引に反する行為を行った人物がいたと報告できる。


 ダスティナが近くの偵察に向かった数分後……

 俺はパニック状態に陥っていた彼らを落ち着かせるべく、彼らと同じ家の中で待機していた。

 すると外から低い男の声が聞こえてきた。


「醜き愚かなるチキュウ人、ファーシルよ。いるならば私の前に姿を現すがよい」

「!?」


 まさか後方の監視者が自ら前に出てきたのか?

 俺は急いで外へと出る。


 するとそこには見覚えのある男の姿があった。

 間違いない。

 こいつはカタオクリナと同じく、ジャーマスの護衛をしていた一人だ。

 俺がジャーマスと対話していたときは、俺が何か言葉を発する度にイライラした仕草を見せていたことを覚えている。


 髪は金髪で左側は下に垂らし、右側は上に上げたおしゃれなミディアムヘアだ。

 鼻下と顎下に髭を生やしており、頬のあたりは綺麗に処理されている。

 年齢は40前後の男だ。


 あのときと同じくジャーマスの他の護衛とは違う装備を身に纏っており、その装備はどことなく気品を感じさせるものだ。

 刻まれている紋章も他の護衛が身につけていたものとは違う。

 ……もしかしたら、こいつは4人の護衛の中でも特別な地位にある別格の敵かもしれない。


 墜征隊の標準的な実力がどの程度のものなのか把握できていない。

 しかし、グランルーンはイルシオンに向かう最中で、セレディアはノースリアに帰郷した。

 さらに偵察に向かったダスティナが戻ってくる保証もない。


 今すぐ戦えるのは俺一人だ。

 この状況、絶望的だ……

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