30話:弱き刺客達の実態
さて、事情聴取の時間だ。
「お前たちはイルシオンの冒険者ギルドで依頼を受けたことは間違いないな?」
「はい」
「はい」
「……」
無言を貫いていた男は声こそ出さないが、小さく頷く。
「お前は声を出せないわけではあるまい」
「……」
再び頷く動作だけする。
意志疎通はできるものの、頑なに喋りたがらないこの男。
どうしたものか……
とりあえず警告だけしておくか。
「今は構わないが、喋らないと確認できないことはきちんと声を出して喋れ。 その時も喋らないなら拷問すると理解しておけ」
「えぇっ」
「こわっ……」
「……」
喋るのは他の二人であり、この男はやはり頷くだけだった。
まあ喋らないのならば、今言った通りにするだけだ。
それから、刺客として襲撃してきた三人への取り調べを始める。
一人目の刺客である坊主頭の男はこれから冒険者を始めようという駆け出しで、依頼を初めて受けた結果がこれらしい。
「お前は傭兵だろうが、冒険者だろうが、才能が全くない。 ここで芽を摘まれることに対して逆に感謝してもらいたいくらいだ」
「え、何でだよ。 確かに変な依頼を受けちゃったけどさ、俺だってまだまだこれから強くなれたかもしれねぇじゃん」
「依頼の選定能力のなさは、言うまでもなく才能がないと言える理由の一つだ」
「交戦したのは一瞬だったのに、まだ何か俺に才能がないって言えることがあるのかよ……」
「お前を含む三人は仲間から気配を消すようサポートを受けていただろう?」
「あ、ああ」
「それなのにお前はひゃっはーなんて声を上げて俺たちに気づかせた。 そんな利敵行為をするバカなどお前くらいだろう」
「うぐっ……」
坊主頭の刺客を酷評する俺の言葉に対して、隣で同じく捕らえられている刺客の女はげらげらと笑っている。
捕らえられているにも関わらずこの女はあまり緊張感がないようだ。
「さて、次はお前だが……」
二人目の刺客である露出度の高いこの女は元々水商売で生計を立てていたが、客が付かなくなり生活に困っていたところ冒険者ギルドの依頼で簡単そうなものを受けた結果がこれらしい。
「ナイフ一本しまう場所すら困りそうな服装だから専業ではないと思っていたがやはりか」
「あー、そんなところで見抜かれちゃうんだ。 あはは……」
「水商売をしていたなら収入はそれなりにあったのだろう?」
「え? いや全然」
どうやらイデアでは性に開放的な文化のため、性的なサービスにあまり金を使う人はいないようだ。
さらに収入は決して多いとは言えず、社会的地位も低い扱いのようだ。
「あとはお前だが……」
三人目の刺客であるボサボサ髪の男。
彼もさすがに頷くだけでは意志疎通ができないと判断して口を開く。
どうやら彼は少し前に妻を亡くし、どう生きるか分からなくなっていたところ冒険者ギルドに足を運びこの依頼を受けたらしい。
しかし、こんな外見で、ろくに口を効けない男にさえ妻がいたのか。
ん、もしや……
「お前はチキュウ人か?」
「……」
小さく頷く。
この不潔で生気のない引きこもりのような男でも、妻がいて依存しきった暮らしをしていたと聞いてピンときたが、案の定この男はチキュウ人だった。
チキュウ人が冒険者ギルドの依頼を受けるのは違法とされているが、ギルド側もいちいちチェックしていないのなら彼のようなチキュウ人が依頼を受けていてもおかしくはない。
それにこの男が俺の魔法を反射したのは恐らく咄嗟に発動させた魔法による対応ではなく、この男の異能力だろう。
俺は三人の事情聴取を終え全員の人物像を把握したが、いずれも危険人物という印象はない。
この三人に対しては再び犯罪行為に手を染める危険性よりも、役立たずのまま依存されてしまうことを注意すべきだろうか。
それから三人の所持品を全て没収するも、坊主頭の刺客以外はもはやどうでもいいやといった感じで投げやり気味だ。
それもそのはずだ。
何せ元水商売の女と、チキュウ人の男は路頭に迷い失うものがなかったのだから……
ガラの悪い人間なら更生させていけば村の発展を期待できるが、こいつら、特にボサボサ頭のチキュウ人のような人間を上手く管理できるものだろうかと不安になる。
彼らのような人物への更生プログラムはどうすべきかと考えていると、セレディアとグランルーンが戻ってきた。
セレディアは戦果を示すつもりか、始末した刺客の首を片手に持っていた。
「おい、戦果を示したつもりかもしれないが、皆の前に敵の首を持ってくるな」
俺自身は今後のことを考えれば敵の首を持ってこられることに慣れなければならないだろう。
しかし、戦いに関わる予定のない大多数の者たちまでが慣れる必要などない。
「あっ、そういう配慮が必要だった?」
そう言うと取った敵の首を適当に放り投げる。
その行為に躊躇いはなく、セレディアがこういったことが如何に手慣れているかがわかる。
「援護までしてもらってごめんね、思った以上に手間取っちゃった」
「お前が手間取るとは相当の手練れだったか」
「うん。 でも偵察は失敗したのに、何で再度偵察を派遣しないままいきなり襲撃してきたんだろね?」
「それは俺も気になっていた」
とりあえず捕らえた三人のうち二人をセレディアに任せる。
「お前はこちらに来い」
「……」
ボサボサ髪のチキュウ人の男の更生指導はあえて俺が自ら引き受けることにした。
何せセレディアの更生指導は過激だ。
この男のようにまともに口が効けないほど塞ぎ込んだ人間にセレディアの更生指導を受けさせるのは逆効果になることが目に見えてる。
そして何をやらせるべきかと言えば、まずは土を耕す作業だ。
何も作物を植えてない場所の土を耕すだけなら下手だろうが、雑だろうが、後から再度行えば問題はない。
「この男に少し土を耕す作業をさせたいのだが、鍬はあるだろうか?」
エサ村の男に声を掛ける。
まだ俺達だけで作った村には鍬さえ無いので彼らから物品を借りる機会が多々ある。
「おーあるで」
「少し借りるぞ」
「おう」
エサ村の人から借りた鍬で捕らえた男に土を耕す作業をさせる。
「お前に向くとは言わないが、他者と足並みを揃える必要はない。 そういう意味ではろくに口を効けないお前とて出来ない仕事ではなかろう」
「……」
やはり喋らないが、作業自体は出来ている。
しかし、すぐに疲れたのか座り込んでしまう。
体力が無いのか。
……いや、そもそも先程襲ってきた刺客たちはイルシオンからここまで何も摂取せずに来たのだ。
この男個人の能力や精神状態以前の問題か。
ならば今日は食事と休息を与え更生指導は明日からにしたほうがいいだろう。
ただ、その前に気になっていたことがあった。
「ところでお前は俺の魔法を反射したあと、しばらく何もしなかったがなぜ反撃の機会をみすみす逃した?」
「もうだめだとしか思ってなかったので……」
俺の魔法を反射したのはやはり無意識によるものか。
恐らく自分の異能力がそういうものだと認識すらしてないのだろう。
案外俺自身もこの男のようにパッシブスキルに相当する異能力があるのかもしれないな。
それだけ確認すると俺はこの男に休息を促すことにする。
「そうか、とりあえず今日は休んで構わない」
「……」
休んで構わないと言うと男は困惑した様子だった。
黙っていては何に困惑しているのかこちらも困惑するのだが、とりあえず言われたことに対して困惑しそうな理由を思いつく限り挙げて、それらの回答を全て伝えておく。
すると彼は納得したようで言われた通りに休息を取り始めた。
それからリプサリスには捕らえた刺客に向けた共通規格の衣服の作成をお願いする。
恰好を共通のものにしてしまえば、第三者が見て一目でこの人物がどういう状態にあるのかというのが分かる。
それにいつまでも裸でいさせるのはイルシオンの法律では合法とはいえ、それ自体が治安の乱れに繋がりかねない。
「リプサリス、こいつらから剥ぎ取った衣服を素材に共通規格の衣服に変えられるか?」
「えっとどういうものにです?」
「囚人服といえば分かるか?」
「はい、ただ……」
「どうした?」
「共通の色にする為には着色料が必要です」
「着色料か……」
着色料と言われて、昨日イラが言っていた『血を素材』にという言葉を思い出す。
「リプサリス、錬金術を用いて血を着色料として使うことはできるか?」
「はい、ただすぐに固まってしまうので……」
「保存はできないか?」
「保存自体はできますが、この大釜が錬金術に使えなくなってしまいます」
要は混ざってしまうということか。
ならば別の容器が必要になるわけだが、まずはその容器の素材になるものから集めたほうがいいだろう。
ただ、リプサリスも錬金術に少しずつ慣れてきたのだろうか。
どうやら時間は掛かるが、共通規格となる衣服を作れるという。
三人の刺客から没収した所持品をリプサリスに見せた後、使えそうなものがあれば自由に使っていいとだけ伝える。
それから俺は一つの疑問を抱えオウボーンのもとに向かった。
「オウボーン、少しいいか?」
「何でしょう?」
オウボーンが給料の受け取りに向かう際に行っただろう仕事の報告。
その中に俺達にとって不都合な発信をしてしまっているのではないか、と。
偵察が上手くいかないまま襲撃を行う刺客が現れた背景には彼の報告に何かあったのではないかと疑わずにはいられなかった。




