29話:弱き刺客達との交戦
突如襲撃してきた三人の刺客。
やっと刺客らしい刺客が現れたかと、俺はどこか安堵した。
なぜなら、これまでセレディアたちを襲撃してきた刺客の話は作り話ではないかという疑念が拭えなかったからだ。
もし作り話だったなら、昨日捕まえた男への仕打ちに対してはどう詫びるべきなのかと。
しかし、これでもう彼女から聞いた話に疑念を抱き、一つ一つ判断を迷うことはなくなった。
今回現れた三人の刺客たちを見たところ、戦い慣れている様子はない。
むしろ俺よりも素人なのではないかと思う。
ひゃっはーと声を挙げながら昨日捕らえた刺客を襲ったのは、Tシャツに短パンを着た10代後半と見られる坊主頭の男だ。
彼の後ろに控える女は30前後と見られる。
ウェーブのかかったロングヘアに、体のラインがしっかり出るベビードールワンピースを着用している。
若干露出度も高く、襲撃を仕掛けるのに適した格好とは言えない。
手にはナイフを持っているが、しまうのに適した場所すら見当たらない服装のこの女はそもそも冒険者ですらないのではなかろうか。
後ろに控えるもう一人の男は30代後半と見られ、髪も髭もぼさぼさに伸びきっており、服もヨレヨレで体型はガリガリ。
総じて引きこもりのような印象を与える。
見た目で侮ってはいけないものだが、つい侮ってしまいそうなほど戦いに不慣れな印象を受ける。
「えー、なんかあの人強そうじゃん? しかも奥になんか騎士みたいな人までいるし、あたしらちょっとやばくない?」
「……」
「あー、あんたに喋りかけてもしょうがなかったね」
「……」
引きこもりのような刺客は仲間の女に話しかけられても一切言葉を発しない。
どうやらここに来るまでろくに喋ることはなかったらしく、刺客の女は無言の男の無反応さにやれやれと呆れる。
……さっさと始末するか。
俺は先日セレディアと戦った時、最初に用いた大規模展開魔法を放つ。
「えーちょっと待って待って」
「うわああああ」
「……」
俺はまだ魔法弾を展開しただけで放ってすらないにも関わらず、坊主と女の刺客は早くも白旗を上げるような振る舞いを見せる。
引きこもりらしき男は何も言葉を発さないため意図は読めないが、恐らく二人と大差は無いだろう。
白旗を上げようが襲撃してきた刺客である以上、多少は痛い目を見たほうがいいだろう。
俺はそう考え三人の刺客に向けて魔法を放つ。
「いやああああああ」
「うわああああああ」
セレディアに向けて放った時と比べれば明らかに威力は抑えたつもりだった。
それにも関わらずこの二人は大袈裟なまでに悲鳴をあげる。
「ん?」
「……」
俺が二人のリアクションに意識を取られていると、未だ無言を貫く男に向けられた魔法弾が俺のもとへと反射されたことに気づく。
「!?」
こいつ、咄嗟に俺の魔法を反射させたのか。
まさか一番弱そうなこの男がそんな技を披露してくるとは想定外だった。
やはり見た目で相手を侮るものではない。
元々展開範囲を広くして相手を攻撃する反面弾速の遅い魔法だったため、反射された魔法は俺の瞬発力でも問題無く回避できた。
しかし、その数秒後小さな爆発音が起こる。
俺はその音に対し何が起きたのかと振り返ると、そこには建てたばかりの家の壁に穴が空いていた。
「ちっ、防護魔法で緩和する選択をすべきだったか」
家に空いてしまった穴を見て、自分の判断ミスを認識すると同時に今まさにもう一つの判断ミスをしていることに気づく。
俺の魔法を反射した男とはまだ交戦中にも関わらず背を向けてしまった、と。
そのことに気づく俺は慌てて再び交戦中の相手を視界に定める。
しかし、意外にも彼は先程と同じ場所でただ棒立ちしてるだけだった。
なんだこいつは……
それから数秒後、ようやくまだ戦えることに気づいたのか、俺の元に向かってくる。
その速度は遅く、とても冒険者や傭兵の動きとは思えない。
……とはいえ、魔法を中心に戦う俺には近接戦となれば不利になる。
俺は急ぎ、彼が突き進んでくるまでの足場に向けて魔法を放つ。
彼が魔法の反射を得意としてるなら、直接魔法をぶつけずに地面や空間に向けて放てばいいだけだ。
「これならどうだ!」
俺は地面に向かって魔法を放ち、地面から次々と火柱が上がる。
それから微弱な威力の魔法弾も追加で彼に向けて放つ。
この魔法弾は再び俺に向けて反射されるかを確認するための魔法だ。
「あぢぢっ……」
火柱は彼にきちんとダメージを与えたが、追加で放った魔法弾はやはり俺に反射される。
男は立ち昇る火柱から逃げるように後退するが、想像以上にダメージは少ない。
髪と髭が少々焦げたのか、その匂いでむせてる程度だ。
「お前、やたらと頑丈だな」
「……」
やはり喋らない。
火柱を放ったときに「あぢっ」と声を出したことは確認できたので、喋れないわけではない。
しかし、この男はなんというか生気がまるでない。
戦う気ならばまだまだ戦えそうなものだが、戦意があるのかどうかよくわからない。
そのため、こちらもどう動くべきかと戸惑う。
そんなことを考えていると彼らの後方から凄まじい金属同士がぶつかる音や激しい爆発音が聞こえてくる。
「ええー今度はなんなのー?」
「あ、まさかあの人も戦ってるんじゃ?」
二人の刺客も聞こえてきた激しい物音に動揺する。
坊主頭の言うあの人とは恐らくこいつらの監視をしていた刺客のことだと思われる。
その刺客をセレディアが見つけ出し、戦闘を開始したのだろう。
しかし、セレディアは爆発音を出すような攻撃手段を持ち合わせてなかったはずだ。
そう考えると彼女にとっても容易な相手ではなさそうだが、俺が下手に援護へと向かっても足手まといになりかねない。
「グランルーン、セレディアが交戦してる可能性がある。 彼女の元に向かい場合によっては援護してほしい」
「分かった」
俺はもう一人いるであろう刺客のことはセレディアとグランルーンに任せ、この三人の捕縛と事情聴取を行うことにする。
「お前はまだ戦う気があるか? その気がないなら今すぐ武器を捨てろ」
リアクションの濃い二人の刺客は明らかに戦意がないと分かるが、無言を貫くこの男だけはどうにも感情が読み取れないので、武器を捨てるようにと行動による意思表示を促した。
すると彼はあっさり武器を捨て降参の合図を示した。
俺は無事、三人の刺客を相手に勝利したのだ。




