28話:完全優良移民化マニュアル
だいぶ政治的思想が色濃く出てる回になります。
翌日昼過ぎのこと。
グランルーンたちのグループがイルシオンから帰還する。
オウボーン夫妻はグランルーンたちのグループへ同行していたが、オウボーンはジャーマスから俺達への妨害工作を指示されることもなく無事帰還したことで俺は一安心する。
彼らが帰還したことを確認すると俺は皆を村の中心にある広間へと集め条令案を発表することにした。
補助機関会員たちはもちろんのこと少し離れた場所で暮らすエサ村の人々もこの場に集めた。
ダスティナは既に刺客の襲撃を減らす為のデマ情報をばら撒きへとイルシオンに向かいこの場には居ないが、彼女はこれから発表する条例案を聞いても聞いてなくても軽犯罪なら平気で犯すだろう。
そのため、彼女が今ここに居ないことは問題が無いと判断した。
「皆、これからこの村で起こりうる問題に備えて条例の制定を行いたい」
「これから起こることって?」
「何だそれ?」
「セレディアさんが言ってた刺客のこと?」
皆が疑問を口にする。
「ジャーマスの刺客だけではない。 ノースリアから来る傭兵がこの地も含めて今までのエサ村という認識で田畑を荒らすこと、さらにその両者を住民として取り込んでいった結果起こる治安の悪化。 その三点が現在懸念している問題だ」
はっきり言って一番問題となるのは最後だ。
敵なら敵として始末する。
戦力、犠牲、コストなどの問題はあるが方針を決めること自体は簡単だ。
しかし、住民同士のトラブルなど治安の問題は方針を決めるだけでも簡単ではない。
ただでさえ俺はチキュウ人という外の人間なのだから、他の外来者に対してより慎重に対応しなくてはならない。
先に居た自分達を軽んじて目先の利益ばかり意識するのはお前も外来者だからだ、と。
そう思われることが容易に想像できる。
「彼らの大半がなぜイルシオンでは大人しくしているか? それは秩序を守るイルシオンの騎士達は強く数人程度が徒党を組んだところで勝てないからに他ならない」
グランルーンが頷く。
「しかし、今の我々では個々でイルシオンの騎士達を上回る力を持とうと治安を守る側に回れる人数が足らなくなることが予想される」
「あのー、ファーシルさん。 演説は後にして条例案のほうを」
「……そうだな」
俺の話を聞いていた補助機関会員の一人に必要なことだけ話せと遠回しに言われてしまう。
元犯罪者とて更生を経た後は治安を守る側に回す。
この解決案からまずは話そうとしたが、過程が長くなりすぎたようだ。
それからそのことを一通り説明する。
危険だという反対の声はあれど代替案が出ることはなかった。
そもそも一度は犯罪者判定した人物を取り込むことを前提としてる以上、ある程度の危険性は避けては通れぬ道だ。
次に提案する治安対策は点数化だ。
イルシオン側はチキュウ人を点数管理しているが、それに倣い同じ仕組みを採用する形だ。
「それから治安対策の為にも、一人一人の行動評価を点数化して管理する為に住民登録番号条令を制定したいと思う」
チキュウ人の点数制度に関してはエサ村の人々以外は基本的に理解してるので、俺の話を聞いてる人々はすぐに言いたいことを理解してくれた。
「点数によって扱いを変えるのか」
「どうせ点数獲得してもイルシオンの雇い主からの評価は変わらねーんだろな」
「そもそも扱い変わるってのは今ままでの話だと、刺客やダスティナさんみたいな問題児の扱いをしばらくは悪くするだけだろ」
「あっ、そっか」
「そういうことだ。 あくまでこの条例案は優遇することではなく、治安の管理が目的となる」
若干認識のズレはあったが反対の声も無くすぐに納得が得られる。
もっとも反対しそうな人物は昨日捕らえた刺客以外今この場にいないから、とも言える。
「次に彼らの生活管理の取り決めを行う」
「え、そこまで管理するの?」
「まあ牢屋なんて今すぐ作れないもんな」
そう、牢屋を簡単に作れるわけではない。
そもそも犯罪歴が無くとも一定の管理は必要だと感じている。
なぜなら外の価値観のままでいる者が大勢やってくれば、武力によらぬ文化への侵略行為が可能だからだ。
「まずは彼らへの管理を最優先とするが、この生活管理に関しては全ての移住者を想定している」
「え?」
「そんなことしてたら移住者減らない?」
「だよね」
「管理が何を意味するかにもよるんじゃない?」
「その通りだ。 管理というのは朝の寝起きから服装の乱れなどまで管理するものではない。 あくまで外の文化で育った者同士がその文化をこの村の中にそのまま持ち込んで競合が起きることへの対策管理に過ぎない」
「合わない外の文化を排除するってことか」
「なんかすげーファーシルさんらしい発想だなって思ったわ」
「うん、確かに」
「俺達とは異なる彼ら共通の価値観を持つ者同士が集まるとどうなるか? 彼ら共通の価値観を持つ者同士によるエコーチェンバーが発生して治安の悪い自治区が出来上がる。 それだけは絶対に避けるべき問題だ」
そうだ、チキュウで話題になるマナーの悪い移民というのは何かと同じ国や宗教、文化圏の者同士で集まる。
だからこれから管理すべく彼らを小さな居住区に隔離するといった対策は悪手だと考える。
これは居住区だけではない。
企業など経済活動を行うための集団組織についても特定の偏った価値観を持つ者同士で集まらないよう条令による規制を掛けるつもりだ。
「よって皆には彼らと積極的に関わってほしい」
「えー」
「いや、怖いんだけど」
自分達よりも戦闘能力のある人間にルール、マナーを叩き込めという要望である以上当然嫌がられるは仕方がない。
実際俺だってチキュウで常識の異なる外国人を教育しろと言われたら絶対嫌だと思う。
しかし、彼らの協力無しに移民問題を阻止することは難しい。
それに問題を起こす移民というのは元から問題ある人物だったわけではない普通の人ばかりだ。
社会制度に都合の良い穴があったり、母国の価値観でそのまま生活していたら問題視されるようになっただけだったり、住む場所を追われて移住してきたが移住先の文化に馴染めないだけだったりと、言ってしまえば管理する側の杜撰さが社会に悪影響を及ぼしてきた。
少なくとも俺はそんな風に感じていた。
だからこそ俺はチキュウの世界各国で問題になっていた移民問題をこの村では絶対に起こさせないと誓う。
「もちろん監視者は付ける。 ただし人数が増えれば俺やグランルーンだけでなんとかできない以上元刺客とて監視側に回すことになることは分かってくれ」
嫌だなーという雰囲気は口に出さずとも伝わってくる。
それから教育マニュアル、捕虜の服装規定についても話す。
現在は裸にさせられてる刺客第一号も点数次第できちんとまともな衣服を渡していくという方針だ。
なお、彼が着ていた衣服はリプサリスに渡し、現在は錬金術の素材として使われ別物になっている。
「ファーシルにしつもーん!」
「どうした?セレディア」
「ファーシルが今出した条例案の数々ってほんとに昨日今日で考えたこと?」
「前々から考えていたことだが、それがどうかしたのか?」
「やっぱりねぇ。 なんか今の村の規模で考えるようなことじゃない話ばっかだったからさ」
「なるほどな……」
言われてみればそうかもしれない。
俺の方針自体は間違ってないとは思うが、今すぐに決めるべきことかどうかで言えば後回しでいいような話も多かったかもしれない。
……とはいえ、一度定着してしまえばそれを後から違法としてすぐには処理できないように出来る限り早い段階で手を打っておくべきではある。
「その前に村の名前決めておかないすか?」
「そうだよな、エサ村とは一応別の村なわけだし」
「エサ村ってのも勝手にそう呼ばれてるだけだ!」
「ああ、そうだそうだ」
村の名前か。
搾取される象徴であったエサ村を守り、無法者や刺客取り込む。
そして新たな村へ、町へ、国へと成長する。
そんな名前がいいか。
「ならばグラトニーグロースなんてのはどうだろう?」
グラトニーグロース。
要は暴食と成長だ。
全て取り込みどんどん成長していく。
今俺が目指してるビジョンをそのまま名前として当てるならまさにぴったりだろう。
「長すぎない?」
「エサ村やミカケダオシ村みたいに別名でしか呼ばれなくなるよね」
「……」
たかが9文字だろう!
そう言っても長いというのは約3割が同調してしまってる上にエサ村やミカケダオシ村のような呼ばれ方をされるのは良くない。
特にエサ村がエサ場としてノースリア人に荒らされるのは明らかにその呼ばれ方が一因だろう。
「じゃあ二単語くっ付けてグラースにしちゃえばいいんじゃない?」
「おっいいね、俺はセレディアさんの意見に賛成」
「でもそれ人の名前っぽくない?」
「そういえばイルシオンにグラースさんっていたかも」
セレディアが出したグラースという名称案も却下される。
個人的に村の名称はエサ村のようなマイナス印象にさえならなければそれほど拘りは無いので、ささっと決めてしまいたいものだが皆は俺が発表した条例案よりも村の名称案で盛り上がる。
まあ現状刺客ともいえない刺客が一人捕まっただけだ。
治安の問題も先の話だし、現状緊張感などないか。
俺でさえジャーマスの話は正直セレディアの作り話ではないかと未だ半信半疑でいる。
それからしばらく名称案を出し合うことが続く。
「お前も何か案があれば言って構わないが」
「え……」
昨日セレディアに捉えられた刺客は萎縮しきっており、今日の集会では一言も言葉を発していなかった。
一応俺の方針自体は伝えていたが信用はしておらずこのまま酷使されて殺される。
そんな認識をしてる印象だった。
ずっと裸で、しかも夜は外で就寝させられたのだから、気が狂いそうになるのも無理はない。
先程戻ったグランルーンからは就寝場所の管理が進んでない現段階で衣服を剥ぎ取るまで行ったセレディアの判断はやり過ぎとの指摘があったほどだ。
「単に冒険者ギルドで、それも危険性の低い依頼を受けてきただけのつもりでこんな目に遭ってると思えば俺に信用などないだろうが、説明したことに嘘偽りは無いつもりだ」
「……」
喋らないのなら喋らないで構わない。
ただ少しずつでも悪意でそうしてるわけではないと理解してもらえれば……
そんな風に考えていたとき猛スピードで何かが突っ込んでくる。
「ひゃっはー!」
「危ない!」
刺客と思われる男女三人組が突如として現われ、そのうちの一人が昨日偵察として訪れた男を狙い襲ってきたのだ。
俺は咄嗟に彼を防護魔法でダメージを軽減させると、捕虜の男は襲撃してきた男にカウンターを与え即座に突き飛ばす。
「ぶはっ」
なんだ、この程度で対応できる相手か。
恐らく今の俺の能力でも雑魚と言っていい相手だ。
そんな雑魚が俺達の誰にも気が付かれずにここまで距離を詰めてきたとは恐らくこの男女三人組とは別の誰か、恐らくセレディアの話にあった監視者の手腕によるものだろう。
「セレディア、例の対応を」
「おっけー」
「お前は下がってろ、俺がやる」
「は、はい……」
捕虜の男には自分の身を守ることだけに意識を集中するよう指示をする。
「グランルーンは戦えない者達を守ることに徹してくれ」
「分かった」
この程度の相手なら俺だけでなんとかできることを証明しておきたい。
初の実戦、楽しませてもらうか。




