14話:責任感からなる迷い
今回は鬱回になります。
俺は迂闊な発言から見えない人であるどころか、幻影ハーレムのことまで理解していることがグランルーンと自称トランス女の監視担当を務める騎士に知られてしまった。
俺は知っただけだから一応それ自体に罪は無いと思いたいが、確実に問題となるのはそれを俺に話したセレディアのことだ。
「ファーシルさんどこで知ったんですか?」
自称トランス女の監視担当騎士は俺にもう一度問いかける。
しかし、自分の迂闊な発言が原因であることに対して、セレディアを売る発言をできるほど薄情にもなれない。離脱した補助機関会員が喋ったということにする選択肢も考えたが、補助機関の管理を務めるオウボーンとの関係悪化に繋がりかねない。
その結果、どう言えばいいかと何も言葉が出てこなかった。
「無理しないでいいよ、ファーシル」
セレディアが自分から俺に幻影ハーレムのことを伝えたことを白状する。
「誤魔化しの効かない相手に見えてる前提の態度で接し続けるのはお互い無理があるかなって思ってさ……」
「やはりあなたが原因でしたか」
セレディアは何か前科があったわけではない。
しかし、傭兵という立場上の問題、加えてノースリア側の組織との二重契約をしていることもあってイルシオンの騎士からはノースリアの傭兵組織全体に元々信用が無かったようだ。
「この件、セレディアさんの態度から無理やり機密を喋らせた可能性は無いと判断します。 よってファーシルさんへの罪は無いものとなります」
「……分かった。 ただ、セレディアは?」
「処刑されるようなことはありませんが、恐らくあなたの元に戻ることは無いと思います」
「……」
「点数稼ぎに関してはきちんと評価しますのでご安心ください」
ご安心下さいと言われてもこの状況で安心できるはずがない。
「アタシのことは心配しないで、大丈夫だからさ」
「セレディア……」
「それとアタシの後続が来るって決まったらさ、出来る限りファーシルの嫌いなタイプの人が来ないよう進言しておくから」
セレディアはこの状況で俺に気を遣うのか……
俺がセレディアに優しくされる理由なんて今まで一度も無かったろうに……
それからセレディアが俺の元に体を密着させ耳元で囁く。
「いずれ戻るつもりだから」
「!?」
それだけ囁くとセレディアは少し離れる。
気休めなのか、何か策があるのか、正直分からない。
セレディアの社交性なら裁判の場でも話を上手く転がせるのだろうか?
それから今いる全員共通の目的地となるイルシオンに足を運ぶ。
一方、先ほど対話したチキュウ人のことは補助機関関係者が今日その日はなんとか面倒を見ることになったようだ。もちろんその補助機関関係者というのは今ミカケダオシ村で待機してるオウボーンや補助機関会員達とは別の人達だ。
程なくして俺達はイルシオンに到着する。
「ねぇちょっとやらかしちゃったことをノースリアの仲間に伝えるためにしばらく時間くれない?」
「……あちらとの契約もある以上致し方ないですね、戻ってくるまでの間こちらはファーシルさんと点数稼ぎの報告処理を行って参ります」
「はいはーい」
二人はそれぞれの要件を伝える為にと集合場所だけ確認して、セレディアは傭兵仲間に事情を伝える為にと一旦場を離れる。その足取りは軽く俺が感じてる責任の重さとは対照的だった。
そして、自称トランス女のチキュウ人護衛監視担当の騎士は俺達と点数稼ぎの報告窓口に向かった。
報告と報酬の受け渡しは簡素でスムーズに進む。
セレディアと幻影ハーレムの件には特に触れられることなく、少なくとも書類上の評価は向上したようだ。
点数稼ぎの報告処理を終えてから集合場所で待つことしばらく、セレディアが戻ってきた。
「ごめーん、遅くなっちゃった~ え~っとちょっと確認したいんだけどいいかな?」
「何でしょう?」
「点数稼ぎの報告するときに誰かアタシのこともう既に話した?」
「いえ、ファーシルさんの点数稼ぎの報告と同時に行うとややこしくなるので特に話しておりません」
「わかった。 それだけ」
それからセレディアは自称トランス女の護衛担当騎士と共にどこかへと向かった。
セレディアの後ろ姿を見送る俺はただ何もできなかった。
夜になり、リプサリスと共にイルシオンの家で体を休める。
「リプサリス、少しいいか?」
「はい、何でしょう?」
「特に何かあるわけじゃないんだが、少しこのままいてくれ……」
彼女ともまた自分の迂闊なミスで望まぬ別れ方をするときがくるのかもしれないと考えこんでしまう。
この日、俺は開拓任務をもう降りるべきではないかと思った。
自分の迂闊なミスで仲間として動いてくれていたセレディアの仕事を奪ってしまい、かつ名誉も傷をつけた。
だが、降りるにしてもまずは明日ミカケダオシ村に置いてきた補助機関の面々及びエディと合流してその経緯を伝える。その責任くらいは果たすべきだろう。
そして翌日
あれからセレディアに関する報告は届いていない。
その後の進展が気になって仕方ないが、ひとまずミカケダオシ村へとリプサリス、グランルーンの三人で戻る。
「あー、ファーシルさん大変です大変です」
ミカケダオシ村に戻ると早々にイラが慌てて俺になんとかしてくれという。
何がどう大変でなんとかしてほしいのかは何も言わなかったが、炎上中の一軒の家が遠くに見えることから言いたいことは既に伝わっていた。
「あの家に誰かいるのか?」
「エディさんです!」
慌てるイラの様子を見て、もしやエディに頼んだ錬金術が原因で火災が発生したのだろうか?と考える。
自分の判断が原因で他の誰かが大変なことになる。
イラは今、俺と同じ心境にいるのかもしれない、と。
「魔法による消火活動をする、グランルーンも対応してくれ」
「分かった」
俺達が駆けつけてから火はすぐに消し止められた。
だが、俺達がくるまでにだいぶ時間が経過しており、エディはまだあの家の中にいるという。
イラは自分が中に入っても救助の邪魔になるだけだからと言い、エディの家の外で待機する。
よってリプサリス、グランルーンと共に三人で家の中の捜索を開始した。
焼け焦げた家の中に入ると黒焦げになったゴミが散乱していることに気づく。
「あいつが自己管理できないのは分かっていたが……」
家の中は異臭の漂うゴミ屋敷状態となっていたのだ。
その結果火災リスクが大きくなっていたことが伺える。
エディはミカケダオシ村に来てからそこまでの期間が経ってないとは思われるが、仮に三ヵ月以上の期間滞在してたとしてもここまで家をゴミだらけにできるものだろうか?と思うほどだ。
それから家の奥まで踏み込むと釜の前で焼け焦げた遺体が発見された。
間違いない、エディだ。
恐らく家が火事になってることにさえ気づかず死ぬ間際まで錬金術を行っていたのだろう。
「え、エディさん」
どう考えても今から助かるような状態ではなかったが、リプサリスは必死に魔法で治療しようとする。
俺とグランルーンはすぐに手遅れだと判断し焼け焦げたエディの家から出ることに決めたが、まだ諦めたくない様子だったリプサリスには気の済むまで治癒活動させておくことにした。
それから俺はイラに火災前のエディの家の状況を聞き出す。
するとやはり家はゴミ屋敷状態でイラは強烈な異臭から中に入ることを拒否したという。
一方散乱したゴミが火災リスクを高めてるという判断には至らず特に作業を中断させることもしなかったらしい。
また、エディの雇用主だった男からも話を聞く。
どうやらエディは普段注意散漫な一方で集中するときは物凄い集中するらしい。
そして、俺達がミカケダオシ村を後にしてから外出してなかったらしく、食事の買い出しすらしていなかったという。
恐らく睡眠もろくに取っていなかったのだろう。
また、エディの住んでた家は元々空き家だったが、入居前からかなりゴミが散乱していたらしくゴミ屋敷状態になっていたのはエディ個人の問題ではなかったらしい。
ミカケダオシ村の町内会では空き家だったときに空き家の処理をどうするか話合われるときもあったが、先送りとなっていたところエディが入居してきたそうだ。
本人曰くどうせ汚くしちゃうから最初から汚い状態の家のが皆さんにご迷惑掛けずに済むと言い……
「あれ、そういえばリプサリスさんは?」
「ああ、もう助からないだろうがまだエディの治療をしている」
イラはリプサリスが俺の傍にいないことを不思議に思い聞いてくる。
それを機にそろそろ治療を始めてから1時間は経過してるなと思い、俺はリプサリスの様子を見に行くことにした。
「少しリプサリスの様子を見てくる」
「はい」
「グランルーンは今日この村で泊まれそうな場所があるか確認してきてくれ」
「分かった」
俺は再び家の中に入りエディの遺体がある釜の前まで足を運ぶ。
するとリプサリスが遺体となったエディの近くで倒れていた。
「お、おい…… リプサリス大丈夫か?」
「あ、あれ僕……」
俺が声を掛けると何かに気づいたのかリプサリスが目を覚ます。
しかし、様子がおかしい。
「僕?」
「あ、あれ声が、ってええええええぇぇぇぇ……」
口調だけじゃない。
この慌て方、間違いない。
今リプサリスの身体で喋ってるのはエディだ!
一体何が起きた!?