11話:食用ドラゴンの歴史に英雄の姿あり
今回も一度に予定していた区切りまで書くと長くなりすぎるので分割しました。
リプサリスの提案にイラや補助機関会員達が賛同する流れとなりエディの行方を追う。
オガカタからエディの向かいそうな場所として示された場所は三つだった。
一つ目は海辺の村。
釣りや素潜りで魚を捕まえることを学んで生活することを目指した可能性。
二つ目はミカケダオシの養殖を行ってる村。
ミカケダオシは大型生物であるため、安全の為に首都から少し離れた高原で養殖されているが、国の管轄で行われてるためイルシオンの騎士もそこそこ滞在しており治安が安定している。ミカケダオシは元々安く食べられるが養殖場のある村、及びその付近ならほぼ無料で食べられるという。
三つ目はオーガ族が集団で住む集落。
行く当てが無くなったら、とオガカタが紹介していた場所となる。
しかし、講習を途中で打ち切られると誰にも行き先を告げずにオガカタの元からどこかへと去ってしまったためここは三つの中で可能性が一番低いという。
「……というのがエディの向かいそうな場所だそうだ」
これらの情報から俺達はミカケダオシの養殖を行ってる村へと足を運ぶことにする。
三つの中からそこへ向かったと推測した理由は単純に食に困らないからだ。
それにドルミナーから距離的にも一番近かった。
しかし、この目的地への道のりは近いようで遠かった。
「聞いていた距離よりもだいぶ歩いた気がするんだが……」
クネクネ道が続く山道は事前に聞いていたドルミナーからの距離は確かに言葉通り近い。
しかし、左に、右に、と往復するようにして高所へと登っていく道の形状から距離としては近くとも道のりとしては遠かったのだ。
「ねぇねぇファーシルはこんな場所さ、道なりに進まないで駆け上がっちゃえばいいんじゃない?」
「お前じゃないんだからそんなことできるか!」
セレディアは崖を登るように移動すればショートカットになるなどと提案するが、俺にそんな身体能力は無い。
「お前の魔法なら可能じゃないか?」
「グランルーンまで無茶ぶりしてくるのか? そもそも修繕任務中にグランルーンはいなかったけど浮遊作業しようとしたらバランス取れずに即転んだんだが……」
「浮遊は極めて困難だが、魔力の道を放射状に描いてそこに磁力を発生させるように地点Aから地点Bに飛ぶという移動魔法ならそこまでは難しくない」
要は空中で自由自在に動こうとすれば困難だが、エレベーターに乗って移動するかのように決まった場所から決まった場所へ動くとなると使う魔法の難易度は大幅に下がるということらしい。そしてバランスを取る難易度もだ。
俺はグランルーンに言われた通り現在地点から約10m高い上への道に魔力の磁場を発生させて飛んでみる。
「うわっと、いってて……」
2m付近までは上手く飛べたが途中で落ちてしまった。
ただ、修繕任務中に行おうしていた浮遊という手段と比べると確かに言われた通り格段に現実的だ。
「失敗したときどうなるかといった恐怖心で上手く魔法が扱えてないようだな」
能力の問題じゃなくて、精神面の問題か。
……とはいえ、ある程度できることが確認できたのだから良いとしよう。
「ファーシルあのさぁ……」
「セレディア、どうかしたのか?」
「一番高低差が出るクネクネ道の端でやる必要あった? 真ん中でやれば1回あたりの高さも半分なんだから」
「あっ……」
それはその通りだとしか言いようがない。
それから何度か試してなんとか1回で4mくらいの高さまでは安定して飛べるようになった。魔法移動の練習をしていた最中に何人かの見知らぬ人物が気軽に魔法でクネクネ道の崖を登る姿もあった。
しかし、今いるほとんどのメンバーは当然こんな魔法移動はできないので、それができるかどうかの練習確認だけ済ませたあとはまた再び道なりに進み高原が広がる村への目指した。
ミカケダオシの養殖が行われてる村は何やら長い名称があるらしいが、そこに住んでる村人さえまともにその名称で呼ばずにそのまんまミカケダオシ村と呼んでいるらしい。そのミカケダオシ村へと近づくに連れて獰猛な生物が発する呻き声などが聞こえるようになってくる。
山道を抜け、比較的平坦な場所に出てしばらく歩くとついに一体のドラゴンに遭遇する。
「ぎゃおーっす!」
体長は3mほどで、赤色の鱗に覆われ、大きな翼と尻尾がある。
見るからに強そうな姿のドラゴンだが、これをリプサリスでも簡単に仕留められるのだという。
「見た目は本当に強そうだな。 というか放し飼いなのか?」
「大半は設備内で飼育されてるが、繁殖率が高すぎるから冒険者向けの観光サービスも行ってる」
「つまり自由に狩って食していいってことか?」
「ああ、そういうことだ。 狩りに関しては特にチキュウ人向けの法的制約も無いから好きにやっても構わん」
グランルーンに自由にやっていいと言われたならちょうどいいから試し狩りをしてみよう。
……とはいえ、どれほどの強さなのか分からず怖いので小さな火の球をぶつけるような低位の魔法ではなく大きな図体合計10カ所ほどに連続して貫通力の高い弓矢で突き刺すような魔法を解き放つ。一か所に付き5発、すなわち10×5で合計50発の魔法矢だ。
俺が魔法を放つとミカケダオシはあっさりと絶命する。最初に当たったのは比較的頑丈そうな足だったが、その最初に一発で何かがミカケダオシの体内で弾けたような音と共に倒れたのだ。
「いやいや、やりすぎでしょ。 これじゃ美味しく食べられるところだいぶ減っちゃってるって」
「弱いとは聞いていたが強度がどれくらいか分からない以上反撃されないよう高出力の魔法で仕留めようと思ったんだ」
セレディアに指摘されるのも無理はない。
全弾当たる前に、どころか最初の一発で絶命したと俺でも察したのだ。
それを合計50発も当てれば確実にやりすぎだ。
「好きに狩れとは言ったが、人通りがそれなりにはある場所で大型生物に貫通効果のある魔法はやめておけ。 後方に他の人がいることも考えたほうがいい」
他の人が巻き添えを食らう可能性は全く想定していなかった。
幸い近くに誰もいなかったようで一安心する。
ミカケダオシ村に着くまではもう少しらしいが、せっかくの食料を確保したのでその場で休息を取ることにした。
「食べられるところはだいぶ減っちゃったらしいがこれだけの人数がいても十分な量だな」
「量で言えばそうだけどさぁ、美味しいところがだめになっちゃってるんだよね」
どうやら問題は量ではなく質のほうらしい。
「しかし、ミカケダオシって弱い、安い、味が良い、繁殖ペースが早い、おまけに皮や角なんかも使えるで随分都合の良すぎる生物な気がするが何か秘密でもあるのか?」
まあ、これも国の機密情報とやらな気がするが……
「大昔に召喚されたチキュウ人が持ってた異能力で生態改造した結果だ」
機密情報でも何でもなかった。
グランルーンが言うにはイデアでは一般常識らしい。
ミカケダオシの祖先は普通に強いドラゴン族だったが一人のチキュウ人によって食用に徹底改造されたという。
まず大型生物の養殖自体イデアの文明レベルを考えると何でそんなことができるのか不思議だったが、チキュウの常識では考えられない異能力によって生物としての仕組みごと歪められたという話だった。
遠い昔人間とドラゴン族が日々命を削る戦いをしており、ドラゴン族の優勢が続く中、人間はドラゴン達に怯え隠れながら生きてる状態だったらしいが、その大昔のチキュウ人がドラゴン狩りと生態改造を繰り返し状況を一変させたという。
その結果、人間の間では英雄とされてるが、現在もミカケダオシとされていない純粋なドラゴン族の間では歴史上もっとも邪悪で残酷な人間として認知されているのだという。
尚、ミカケダオシは人語を喋れないが、純粋なドラゴン族は人と会話できるという。
そしてミカケダオシの養殖を続けているこの先の村の村長は遠い昔にいたチキュウ人の英雄の末裔だという。
もっともその末裔には当時の英雄の能力が備わってるわけではなく、一応血筋で村長をやっているがそれ以外は何の特徴も無い普通のおじさんとのことだ。
それから10分ほど歩いてミカケダオシ村に到着する。
イルシオンが食料基盤となる重要な場所と認識しているらしく、村に並ぶ建物の造りはイルシオン寄りの構造だ。高原までの山道と違い村の中は比較的整備された道が多い。
一方で商人の姿があまり見当たらず、手入れされた畑の数も村に見える人々の数に対して心なしが少ない。ミカケダオシの養殖拠点であるがゆえに食料の心配は無く綺麗な水も流れているため、村の人々は怠惰な生活を送っており、肥満体型な人が多いのだという。
村に入ってしばらく景色を眺めながら歩いていると、外見年齢14~5歳の銀髪の中性的な少年が大慌てで仕事先の上司と見られる相手に平謝りしていた。
どうやら寝坊したらしい。
「リプサリス、エディってあいつか?」
「はい」
どうやら予想は的中した。
しかし、仕事中に、それも寝坊して平謝りしてるところに俺達が話しかけてさらに仕事に支障をきたすことにさせるのも気が引けるので少し様子を見てから雇用主に話を伺うことにした。
「あーあのエディに用があるのか。 一応なんとか仕事を覚えようとはしてるようだが全然覚えなくてな」
寝坊のことだけじゃなくて、学習能力にも問題があるらしい。
おかげで仕事への支障など大して出ないから、用があるなら仕事のことなど気にしなくていいとのことだった。