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異世界開拓戦記~幻影政治と叛逆の翼~  作者: ファイアス
異世界の秩序に翻弄されながら築く始まりの一歩
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1話:転生初日の過剰防衛

作中に今後出てくる予定の地球(チキュウ)でのあれこれは必ずしも現実とは一致させるつもりのないフィクションとなります。

「そういうことで今日から開拓隊の指揮を担うことになったファーシルです。よろしくお願いします」


 俺は今、異世界イデアに召喚されて、なぜか土地の開拓を任されることになった。


「へぇ、グランルーンから危険な問題児って聞いてたけど割と普通な感じだね」

「あの、私はリプサリスです。精一杯お手伝い致しますのでどうぞよろしくお願いします」


 ラフな喋り方をするこのギャル系の女性は傭兵のセレディア。

 丁寧な挨拶をしてくれた女の子のリプサリス。

 それと先日対面を済ませていたイルシオン王国の騎士であるグランルーンの3人が俺を支える中心となるそうだ。


 しかし、3人とも開拓者のリーダーに任命された俺をサポートする為、という人材ではない。

 グランルーンは監視役、セレディアは準監視役兼サブリーダー、リプサリスは説明を聞くに慰安婦のような役割らしい。

 この3人の他に約20名近くが共に来ているが、やはり第一印象は開拓者として派遣された人物ではない。

 中にはリプサリスと同じくらい、推定10~12歳前後の女の子もいる。

 そして俺自身はチキュウから召喚された後に特に何か適性をチェックされたわけでもなく、グランルーンとその仲間を通じて開拓者のリーダーとして活動することを命じられたわけだが、こうした人選などの疑問点から土地の開拓とは別の目的があるのではないかと疑っている。


「でさあ、イルシオンの騎士が監視役に配備されるのは普通のことなんだけど、グランルーンが配備されるほどのことってファーシルは何やったの?」

「ただの自衛行為だ」

「……明らかにお前の行為は過剰防衛だったがな」

「ふん……」


 俺の行為を過剰防衛と判断するグランルーンの言は転生前の世界、日本の法律で考えても冷静に考えれば正論だろう。

 ただ、どれだけ酷な状況に追い込まれても殺人行為をすればかなりの重罪に科せられるように過剰防衛だと責められれば「ふざけんな」という思いだ。


「あ~、なんとなく何が起きたのか分かったけどせっかくだから詳しく聞かせて」

「分かった、別に面白い話ではないがな」


──数日前──

 俺が気づいたとき、見知らぬ場所で殺風景な風景に立たされ法衣を着た男6人に囲まれていた。

 何が起きたのかは分からない。


「気づいたな?」


 法衣を着た男たちのリーダーらしき男が俺に声をかける。

 俺は何から喋ればいいか迷ったがとりあえず頷くだけ頷いた。


「気づいたのならば今までに無かった力の存在を知覚しているだろう。 異世界転生した過程のエネルギーにて得た何らかの異能力を早速見せて欲しい」

「は……?」


 どうやら夢を見てるようだ、ともう一度目を瞑り眠りに付こうとするが肌を刺す風の感触のリアリティ、その他体で感じる感触が夢離れしている。


「まだ戸惑っているようだがこれは現実だ。 我々の召喚行為によってお前はチキュウから召喚されたのだ」


 なるほど、信じ難いがこの召喚者のリーダーらしき男の発言、振る舞いの方向性は一貫している。

 ①俺が目を覚ますまで待っており起きることを確信していた。

 ②転生者としての力を見せろと言ってきた。

 ③こいつらが召喚者自身である。

 ④戸惑うことを当然と理解している。

 少なくともこれらから言動に支離滅裂なところはない。

 それらを理解し納得したならば次はこちらが返答すべきだろう。

 知覚した力とやらの存在を…


「具体的に何ができるのか分からないが、人間にできない何かができる気はする」

「ほう……」


 肌を刺すような何かの感覚を集め解き放つ素振りを行う。

 すると小さな火球が指先に現れた。


「これは魔法……?」

「ああ、それは魔法だ。 だが、我々の求めているのはイデア人なら誰でも扱うことができる魔法ではなくチキュウ人としての固有能力だ」

「……」


 魔法に関する変化以外に知覚できた変化は無かった。

 そして、惑星としての名前か、国としての名前か、地域としての名前かまでは分からないが、ここはイデアという場所らしい。


「なあ、そいつ力を隠してるんじゃないか? 妙に警戒心が強そうだしよ」

「その可能性は否定できないが」


 リーダー格の男とは別の男が俺に疑いをかけると


「とりあえず半殺しにしてやっか! 力が発露すればそれで良し、隠し続けるなら反逆分子として始末すれば良し、だろ? 召喚のコストがもったいねーけど、危険因子が増えるよりはよっぽどいい」


 こいつ、本気で言ってる。

 他の5人はリーダー格の男も含め同意してないが、止めることもなくとりあえずこいつにやらせるつもりだ。

 魔法以外にも基礎身体能力自体も向上しているように感じるが、相手は粗暴な言動の通りそれなりに強そうな外見である。

 少なくともさっき発することができた火球などでは対処できる相手ではない。


「おう、攻撃する気なら先を譲ってやるぜ! お前の力を発露させられればそれが一番だからよ」


 自分は強い、「お前のような雑魚の攻撃など蚊に刺されるようなもんだ」とでも言いたげだ。

 そして俺はイデア人とやらの肉体的な強靭さがどの程度なのか分からない。

 対処のしようによっては殺してしまうだろう。

 だが、敵を殺すか敵に殺されるかならば敵を殺すほうを選ぶのは当然だ。

 正当防衛という法律が存在するのかどうかが疑問ではあるが、殺してしまう可能性を絶対に避けるというつもりはない。

 そして彼らが言うチキュウ人としての力は未だに知覚できたわけではない。

 ただ、先ほど魔法を放った時に出てきた火球は頭の中で思い描いた形がそのまま出てきたことははっきりとわかっている。

 ならば、次に放つ魔法でこの状況を最善の形で抜け出すかを構想するのみだ。


 ①求められてるのはチキュウ人としての力だがそれはない。

 ②眼前の粗暴な男が俺を半殺しにしようとしているのは隠してるということにされている力を危険視。

 ③この粗暴な男を攻撃する理由はこの状況を脱する交渉手段。


 ならば生かす前提で手足を切り刻む。

 そして切り刻んだ傷口には神経毒を含ませ全身に激痛を与えつつ体を麻痺させて反撃の余地を与えない。

 構想を練り神経を研ぎ澄ませ発生させたソレは両手それぞれから赤いギザギザの刃物のような形をした。

 魔法波が波打つようにうねりながら対象の手足を中心に襲い掛かる。


「うおっ、ごごがががぉぉぉぉぉ」


 自信いっぱいだった粗暴な男は手足、肩、脇腹など全身から大量に出血をしてその場に倒れた。


「り、リダン隊長あいつやばいですやばいですって…… いくらパワーさんが魔法免疫力皆無なのに無防備に構えてたからって、転生したてであんな魔法を使うってやっぱパワーさんの想像した通りの……」


 召喚者達の中で一番若く気弱そうな男が俺の放った魔法を見て腰を抜かしながらリダンと呼ばれていたリーダー格の男に訴えかける。


「本人のお望み通りにしたまでだ、今度はそれで死ねと言うのなら……」


 この腰抜けに与える必要があるのは傷ではなく恐怖…

 ならば向けるべき魔法の在り方は…

 純粋に派手で威力の高いイメージの魔法波を意識しながら腰を抜かした召喚者に向けて再び魔法を放つ


「う、うわあああぁぁぁぁぁっ! あ、あれ……」

「また俺を消そうと主張するものなら次は本物を打つ」

「な、なんなんだよお前! 召喚してもらった分際で偉そうに」

「召喚してくれなどと頼んだ覚えはない。 それにお前こそ何様のつもりだ?」

「ははっ、そっか…… 召喚されたばっかのお前じゃ僕が名門貴族の出だってことも知らないのも当然か」


 ただの我儘な世間知らずか。

 この調子ならリダンもこいつの要求に安易には応えないだろうが…

「えーっとリダンさんでしたね。 貴族特権意識のアレにはあなた達も迷惑してませんか? 異世界から勝手に呼ばれたと思ったら下賤の者を見るような態度を取って心象を悪くする様はトラブルの原因を生み出します。 それはあなた達とて不利益なはずでしょう」

「なっ……」

「今はそんなことを議論している場合ではない。 パワーの救助が先だ。 リビービ、君もだ」

「わ、わかりました」


 こちらの提案は優先順位ということで後回しにされてしまったが、彼らとリビービと呼ばれた若い貴族の男との上下関係は正しく機能しており、彼が貴族特権で集団をコントロールしてしまっているわけではなさそうなことに一安心をする。


「何事だ」


 俺がリビービと呼ばれた男に見せかけだけ派手な魔法を放ったせいだろう。

 屈強な大男が何かの事件が起きたと睨みを効かせ現れる。

 一方でリビービはパワーの救助を共に行えと命令されて返事をしたにも関わらず未だに座り込んだままだった。


「グランルーン殿か、訳あってパワーが重症を負っている。 救助を頼む」

「分かった」


 身長2mは越えた甲冑を身にまとった大男と他腰を抜かしてる気弱そうな男を除く3人が俺の魔法で地面に伏した

 パワーと呼ばれる召喚者の肉体を再生させていく。

 その中でもグランルーンと呼ばれていた大男が使った魔法は魔法に初めて触れる俺でさえ分かるほどの治癒力だったが俺の魔法によって肉が抉り取られた部分はそうそう再生させることができないようだった。

 それは魔法が存在するこの世界でもゲームの世界のように死んだらすぐに復活させればいいというわけではないということを物語っていた。


「うぐぐぐぐぐ」


 数分間の治療の後になんとか意識を取り戻したパワーだったが、まだ声をまともに発することができずに悶えている。

 その間に俺はこの場から去ろうとも考えたが、このタイミングで去ったらリビービが何を言い出すものかと不安が過ぎりその場に離れるわけにはいかなかった。

 リビービの先ほどの反応は俺と同じで臆病、それゆえに過剰防衛意識があり思考的にはパワーと呼ばれていた男よりも危険人物だろう。


「うぅぅ、はぁはぁはぁ…… こいつまじであぶねぇ……げほっげほっ」

「パワーだったな。 異能力を知覚することは結局できてないし、見せることもできないが力を隠して何かを企んでるっていう疑念は消えたってことでいいな?」

「う、うるせ、う、うぐ……」


 まだ魔法に込めた毒が抜けきっておらず、反撃できる状態ではないものの戦えるならまだ戦おうとする意志が見える言動であり入念に反撃対策をしたのは正しかったようだ。


「この転生者はグランルーンの監視下に置いたほうが良さげですね」

「そうだな」


 冷静そうな召喚者達は俺の処遇について話し出す。


 勝手に話を進めている召喚者達の発言に不満な素振りを見せるとグランルーンが俺に声を掛けてきた。


「……勝てると思うなら相手してやるがやるか?」

「いや、いい…… お前があいつらなんかとは比べ物にならないくらい強いのはパワーを治癒してるときに感じた力だけでひしひしと伝わった」

「そうか」


 グランルーンと呼ばれたこの男からは正直何も感じなかった。

 大柄な外見と見た目通りの強さに反し威圧感は無い。

 かといえ俺の感情に配慮してるという風でもなく、第一印象は感情が希薄というものだ。

 ただ、今の立場の悪い俺にとってみれば役割だけを淡々とこなし、必要なことだけ淡々と伝えるこの男が監視役になるというのはどうせ監視役が付くという前提で考えればアタリだろう。


 そして、それからリダンとグランルーンの2人が現在に至るまでの手続きを行ったのだ。

 彼らは俺を同行させずに2人のみで手続きの為イルシオンに向かい、搬送されたパワーと搬送した召喚者2人、合計5人がその場を離れた。

 その場に残された者の中には気弱だが尊大な貴族の召喚者リビービもいた。

 仲裁役だった2人が場を離れたため、険悪な雰囲気となり一触即発の状態だ。


「チキュウ人は嫌いか?」

「少なくともお前みたいなやつは嫌いだ」

「そうか、それなら少しは安心したよ」

「…?」


 それ以上は互いに言葉を発しなかった。

 リビービは納得していないものの更なる衝突は避けられたと安堵している様子だ。

 俺はチキュウ人そのものを嫌いと答えても別にその場で何かをするつもりではなかった。

 ただ、もし今日のことがきっかけで差別的意識を持ちながら召喚者の一員であり続けるのならば

 その場で暴れるチキュウ人が増えて治安の悪化が進むかもしれないと思っただけだ。


「それでは我々も行きます。 リダン隊長とグランルーン殿は手続きを終えたらここに戻ってくると思うのでそのままここでお待ちください」

「本来なら俺達で体調が戻ってくるまでの間あんたを護衛するもんだけど、お前は既に自衛はできるだろうし、リビービといる時間が長引くほうがよっぽどあぶなっかしい」

「不測の事態が起こり日が沈んでもここに戻ってこないようでしたら都市内の宿にお泊りください。 念のため最低料金になりますがこちらの通貨を渡しておきます」

「ああ、すまない」


 そして残りの3人もその場を去り時間が流れる。


 丁寧な言葉遣いの人達ならば信用に足るとは思っていなかったので戻ってくるかどうか、通貨そのものが本物かに不安を抱えながらしばらくその場で待機をしていたが、告げられた通り彼らが戻ってきた。


「そういえばお前、名前はどうする?」

「ああ、俺は叛神……」

「いや、チキュウでの名前を名乗る必要はない。 チキュウ人という素性を知られたくない場面では何かと不便だろう。 それに新しい人生を歩むという意味でも国から新しい名前で生活することを推奨されている」


 イデアでの標準的な名前の特徴が分からず、またイデア人がどういうところで地球人を判断しているのか分からないので、リダンに名前の相談をして最終的に「ファーシル」と名乗ることにした。

1.5年ほど前に単発作品を投稿してますが、それ以来の投稿で事実上初投稿のようなものです。

今回は長編にする予定となっております。


よければこれからも投稿していく予定ですのでご愛読お願いします。

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