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洸太が心の病気になってから三日。
凛花の治療プログラムにそって様々な角度から治療が施された。
そこで判明したのは普通に女子と会話ができること。また、輝夜ちゃん以外で洸太に触れられるのはママさんと絵里だった事から、相手が性的な感情がある。または性的ハラスメントを受ける恐れがあると洸太が思っている相手には触れられる事を強く拒絶してしまうということの二つだ。
「あの、コウタ様はもしかして不能に」
ひめたんは本当にぶれない。こんな時でもそこを心配するのだから。
「いえ。昨晩、結菜様と八島様の秘蔵パンチラお宝シーンを観せたところ、しっかり反応してましたので、それは心配ありません」
「か、輝夜ちゃん!」
八島ちゃんが真っ赤になって抗議していた。
相変わらず純なギャルだ。
こうして毎晩皆で治療報告を聞きながら話し合っている。
昨晩の事を私は思い出す。
輝夜ちゃんが皆を激しく叱ったあの夜を。
凛花が怒るとこわいのは知っている。
けれど、輝夜ちゃんが私達にあそこまで怒るとは思ってもみなかった。
まず舞さんから怒られる。というか、発端になったのが舞さんの発言だ。
(舞様。以前より申してましたよね、輝夜は。その高圧的な偉そうな物言いはやめなさいと。それではマスターに逃げられると具申しましたよね。あなたはマスターに求めるばかりで、あなた自身はマスターの為に何もなさってはいないではありませんか。マスターが心を許しやすい存在を目指すのが先決ではありませんか!)
舞さんはとても泣いていた。
次の日からセオたんや、ママさんに淑女教育。そして八島ちゃん達からフランクな話し方講座を一生懸命真面目に受けていた。
人は本当に変わろうと思えば変わるものだ。
そして次の矛先は洸太のクラスメイト達に向けられた。
(あなた達はマスターを集団で追い回しすぎです。しかも悪ふざけが過ぎます。あの東富士でのことといい。先日の浜辺での騒ぎといい。やり過ぎなんですよ。いいですか。あなた達はあの愚かで馬鹿な天皇陛下がマスターの子種欲しさに当てがった牝馬と同じなんです。ですから、いつまでもマスターの婚約者に選ばれた事に浮かれてないで、もっと自分自身を磨きなさい。それとこれを忘れないで欲しい。マスターはあなた達のほとんどに性的にも恋愛的にも何にも思っていませんからね。マスターに好きになってもらって抱いて欲しいのなら、もっと努力しなさい)
洸太の八島ちゃん以外のクラスメイト達は皆号泣していた。
そりゃあ、あんな事実を突きつけられたら、私でも泣く。
そしてひめワカたんの二人も激しく叱責されて涙目になっていた。けれど理由の大半は魔王プレイを封じられたことだろう。
私は怒られる事はないと油断していると最後に怒られた。
(大体結菜様は奥方さま達の頂点で。その奥方様達を取りまとめるポジションなんですよ。それを一緒になって悪ふざけばかりして。挙句にマスターに対して他の人に悪戯をするように仕向けたり。そんな事ばかりするのなら、私があなたから寝取りますよ。輝夜がマスターの一番になってもいいんですからね。しっかりとマスターの一番だと自覚して襟を正してください)
失格の烙印を押されたら本当にそうなりそうで青褪めた。
私も心を入れ替えて襟を正そうと決意した。
輝夜ちゃんに洸太を寝取られないように。
「結菜様、聞いていますか!」
「あ、うん、聞いてるよ」
「マスターが自ら部屋に引きこもって三日。それでどうするんでしたか」
「遊びに連れて行く」
「違いますよ! このあんぽんたん!」
強烈な脳天チョップを喰らった。お陰で目に星が飛ぶ。
洸太が病気になってからの輝夜ちゃんはとても凶暴になってしまった。
(輝夜はマスターの為ならば修羅になります)
以前、話していた通りになってしまった。
「今日判明した素晴らしいことは」
「すいません。考え事をしていて聞いてませんでした」
どこから取り出したのか分からないが、電子チョークが投げられ、私のおでこにぶつけられる。
いつの間にかメガネ姿の輝夜ちゃんが指差し棒で自分の手を叩きながら私を睨む。
「何度も言わせないでください。真面目にやらないとマスターを寝取りますよ。さあ、みなさんもちゃんと集中してください」
はーい、と一斉にみんなが返事をしている。
いつからここは教室になったのだろうか。
もしかしたら一番悪ふざけをしているのは輝夜ちゃんではないのだろうか。
いやいや。そんな事は考えてはダメ。ちゃんと真面目にやらないといけない。
「はい、輝夜先生質問です!」
「どうぞ結菜様」
「今日判明した事をもう一度教えてください」
「仕方がありませんねぇ。ちゃんと聞いてくださいよ。判明したのは、マスターからなら女性に触れられるという事です。但し、その際でも相手が触れようとすると拒絶されます。ですが、マスターからなら接触可能。これは治療する上でとても素晴らしい発見でした。それを見つけてくれた加賀様を讃え、皆様拍手をお願いします」
一斉に拍手が沸き起こる。
れーこも席を立ってその拍手に応える。
なんとも羨まな光景だ。
ん、待って。
洸太かられーこに触れたってこと!?
私には触れてこないのに!
「加賀様。いいえ、麗子様はマスターから見て結菜様の周りで唯一の常識人。優しと厳しさを兼ね揃えた麗人と高く評価され、マスターから尊敬と好意を強く持たれています」
「あ、はい先生! あの恋人ランキングでそれ見ました!」
「良いところに気づきましたね。ええ、そうです。あれはこの私、輝夜からみなさんへのアドバイスも込めて制作したのものです。マスターの趣味嗜好をリアルタイムで、あの地球一のスーパーコンピュータ、スーパー桜ちゃんで瞬時に計算。そして反映させたのが、あのマスター恋人ランキングなのです。故に、あの細かく分けられた各部門の数値をあげればマスターの好みにグッと近づきそのハート射止めることも可能なのです」
なんというスーパーコンピュータの無駄遣い。
そもそも、あの桜ちゃんをそんな無駄なことに使っても良いのだろうか。
「はい、先生! それではみんな同じタイプになりませんか」
「よくぞ聞いてくれました。その心配は無用です。セオリツヒメ様のようにほぼ各部門を制した傑物は別として、普通は三位の律子様のポイントが一般的上限です。また似たようなポイントの八島様もいますが二人の性格もスタイルも違いますよね。ということはつまり、自分の適性に合わせて自由にカスタマイズして上げていけるということ。そしてそれは他人とは違う、魅力的な自分になれるということなのです」
「おおおー」
なぜそこで感心するの。
どうせ私は二位ですよ。圧倒的な差をつけられての二位ですよ。ええ、彼女に負けて悔しいですよ。でもそれがなんですか。
洸太の一番は私なんですよ。
絶対にそこだけは譲らないからね!
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