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 俺がちゃんと目を醒めたのは、結局次の日の朝だった。

 目を覚まし、横を見るとちゃんと輝夜はそこにいた。ベッド脇に置いた椅子に座って。


「おはようございます。マスター」

「うん、おはよう」

「気分はどうですか」

「とても良いよ。ぐすっり眠れたから」

「それは良かったです」


 輝夜は椅子から立ちあがると、濡れたタオルを持ってきて手渡す。そして着替えを用意してまた手渡してくれた。

 俺が着替えてる間に、俺の寝癖を直してくれる。

 こんなありふれた日常に感謝する。


「輝夜はちゃんと寝たのか」

「はい。輝夜は高性能スーパーメイドですからね。どんな環境でも楽勝です」


 そんなふざけたような輝夜の受け答えにも有り難さを覚える。だって、朝から笑顔でいられるのだから。



 廊下に出るとミズハを真ん中にして五人がメイド姿で横一列に壁を背にして並んでいた。


「マスター、おはようございます」


 彼女達は声を揃えて頭を軽く下げて挨拶をした。

 そのあまりにも昨日とは違う態度に朝から驚く。


「輝夜これは」

「はい。輝夜が教育しました。もっとも、まだ教育中ではありますけど」

「そっか。まあ輝夜に任せていれば安心だな」

「はい。お任せください、マスター」


 俺の後に輝夜。輝夜の後ろにミズハ達五人のメイドと、まるでセレブのような大名行列に心なしか心が踊る。

 そして食堂に入るとミズハが行儀良く椅子を引いてくれた。そして俺はそこに座る。

 うん、とってもセレブだ。これは存外いい。


「ママさん、パパさん、おはようございます。そしてみんなもおはよう」


 朝の挨拶を済ませて食事に取り掛かる。

 今日はホットサンドイッチとサラダだ。

 ホットサンドのあまりの美味しさにおかわりを頼む。日本から取り寄せたコーヒーを飲みながら頬張る。


「洸太、サラダも食べなさい」


 ゆい姉がサラダを食べさせてくれた。

 いや、強制的に口に入れられた。でも、特に嫌とかではないのでちゃんとお礼を言う。


 でも事件はそこで起こった。

 ゆい姉が俺の手に触れようとした時に無意識に手を引っ込めた。そして心配そうに俺の肩にゆい姉の手が触れた途端に恐怖で悲鳴をあげた。


「さ、触らないで!」


 転びそうになりながら椅子から立って部屋に走って戻った。

 こわい、こわい、こわい。そう何度もつぶやきながら走って部屋に戻った。



 ◇


「なっ、洸太。待って!」


 私は洸太に手を伸ばすが輝夜ちゃんに止められた。


「早く洸太を追いかけないと!」

「結菜様。それはおやめください。たぶん、昨日の事で心に障害を生じた可能性があります。おそらく精神的な何かの病気です。マザー、いえ凛花様。マスターを診断して頂けませんか」

「ええ、もちろん。どの程度深刻なのか確かめたいのでセオリツヒメさんと、加賀さん一緒に来てください」

「私も行くわ!」

「それはダメです。おそらく洸太さんは何が起きたのか理解していません。ですから、その発端となった結菜さんが居ると逆に彼を追い込んでしまう恐れがあります。今は我慢してください」


 私は唇を噛んで堪えた。

 いま自分が洸太に何もしてあげられないのが悔しい。

 目に涙が浮かぶのが自分でもはっきり自覚する。


「あああああぁ!」


 私は慟哭した。




 マザーと一緒にマスターの部屋に入ると、マスターは布団を頭からかぶり、膝を抱えて丸くなって震えていた。


「マスター、今から凛花様に診察してもらいましょう」


 私はマスターの布団を優しくめくる。

 そしてマスターが安心できるように、たくさんの気持ちを込めて微笑んだ。


「診察?」

「はい。きっと心優しいマスターの心に少し傷が入ったのかもしれません。ですから、その傷を凛花様にどの程度なのか診てもらいましょう」

「うん」


 まだ震えるマスターを診察しやすいようにベッド端まで移動させた。


「洸太さん。私が今からあなたに触れます。嫌でしたらすぐ言ってください。触れるのをすぐにやめますので」


 凛花様はまずマスターの手を触れようとするが、マスターの手が僅かに動き、それを嫌がっている事を証明した。そして凛花様の手が触れた瞬間に自分の胸のところに手を引っ込める。

 まるで女の子みたいだ。


「すみません。嫌でしたか。では今度はセオリツヒメさんに同じことをしてもらいますが、よろしいですか」


 マスターは私に確認するように顔を見たので、私はコクンと頷いて答えた。


「コウタ。触るね」

「うん」


 結果は凛花様と同じだった。同じように加賀さんもマスターに触れる事は出来なかった。


「どうやら親密度は関係ないようですね」

「でも輝夜ちゃんは平気なのに関係ないのですか」

「輝夜は洸太さんにとって、唯一幼い頃からの家族です。私達とは違います」


「治るのですか」

「治ります。いえ、必ず治します」


 その凛花様の返事に加賀様は胸を抑えて安堵していた。


「私は輝夜としばらく彼をカウセリングします。お二人は部屋の外でお待ちください」


 二人が出て行った後、凛花様がカウセリングを行う。

 それで判明したのは、かなりの重症だという事。

 一度、凛花様と二人で部屋をでる。


「あなたが心配した結果になりましたね」

「はい。昨日からおかしいと思っていましたが、ここまで悪いとは思いませんでした」

「催眠的アプローチも含め、検討しましょう」

「はい」


 私は一旦部屋に戻り、マスターに少し席を外すと伝えると、マスターは不安そうな顔をした。

 私は彼を優しく抱きしめて。すぐに戻ってきます、と安心させて部屋をでた。


 なんとなく、これはこれで良いかも。と、思ったことは心の中奥深くに閉じ込めた。


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