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いつもより少し長いです。すみません。

 目が覚めると、もう陽が傾いていた。

 俺は一人、と思ったら輝夜が側で介抱してくれていたようだ。


 ベッドの脇に椅子を置いて座る輝夜に話しかける。


「なあ、あれはなんだ。この先、俺は大丈夫なのか」


 そんな不安げな俺に輝夜は微笑む。


「大丈夫ですよ。輝夜がマスターをお守りしますから。それに、あれは彼女達なりの忠誠の誓いとのこと。別に変な下心があっての事ではありません」


 まるで聖母様のような慈しみのある微笑みのまま、輝夜はそう答えた。


「そっか。ならいいか。……とは、ならんだろ! 大体なんだよ、あのセクハラ集団は。マジでビビった、マジで引いたわ!」


 危うく聖母輝夜に騙されるとこだったぜ。

 そんな輝夜は俺に水を差し出した。


「あまり興奮すると、お身体に障りますよ」


 なんだ、この輝夜は。

 聖母様のロールプレイ中なのか。

 たまに何かしらの役を演じてるし、その一環か。


「そうですね、聖母様」


 俺は水を受け取り、一気に飲んだ。

 すると、その様を見て愛おしそうに輝夜はまた微笑んだ。


「おまえ、誰だ。輝夜のふりをするのはやめろ。俺の輝夜をどこにやった。返せ。輝夜は俺の大事な相棒だ!」


 目の前の輝夜の微笑みが絶えない。

 寧ろ、さっきより愛おしそうな感情を浮かべている。


「マスター。私はあなたの大切な相棒の輝夜です」




 そして、時は洸太が倒れた時に巻き戻る。


 あまりの事に心が耐えられなくなり倒れた洸太を受け止めたのは、結菜でもなく輝夜だった。


「まったく、結菜様にはがっかりですよ。マスターをお守りする為にこの部屋にいたのではありませんか」


 輝夜は結菜を少しだけ冷たい目で見た。

 そして突然現れた輝夜に驚いていたミズハが海女族の誰よりも早く動く。

 隠し持っていたナイフを輝夜に向ける。


「貴様誰だ! 我が王から離れろ!」

「はぁ、盛りのついたメス猫風情が」

「な、なんだと!」


 ミズハは輝夜目掛けて至近距離からナイフを投げる。けれどそのナイフをいとも簡単に輝夜は指で挟んで止めた。

 そしてそのまま手首だけを返してナイフを投げると、そのナイフはミズハの左肩に突き刺さる。


「良い機会です。上下関係をはっきりとその身体に叩き込んであげます。どちらが上か、メス猫程度にも理解出来るくらいに」


 そして輝夜は結菜にマスターを預ける。


「結菜様。マスターをお部屋に」

「ええ。任せて」


 ここでは迷惑が掛かると五人を連れて輝夜は浜辺まで移動する。

 ただ、その途中で八島だけを拾って連れていった。


「八島様。マスターと輝夜が目指した戦い方をお見せします。よく見ていてくださいね」

「うん。それはいいけど一度に五人も相手で大丈夫なの」

「問題ありません。輝夜は世界で二番目に最強ですから」


 輝夜は海女族精鋭のミズハ達に向けて歩を進める。それを険しい目つきで見つめる他の海女族達。

 そんなアウェイとも呼べる場所で、輝夜はメイドとして完璧な様で美しく華麗に歩を進め、五人の前に立つ。


「マスターの一番として、あなた達にメイドの流儀を叩き込んであげます。厳しいですが心配ありません。二、三回死んでもすぐに生き返らせてあげますから。安心して挑んできてください」


「貴様、ナメるな!」


 輝夜を五人で取り囲むようにポジションを整えると一斉に輝夜に大剣を振り上げて襲い掛かる。


「八島様。落ち着いて周りを見れば穴は必ずあるのです。そう、この様に」


 僅かに他よりも人と人との間隔が広いスペースに、相手が大きく大剣を振り上げたタイミングで輝夜は素早く間を抜けて移動すると二人の背後に周り、彼女達の軸足、その膝裏にクナイを投げて突き刺す。

 刺された二人は膝を押されたように仰け反りながら倒れる。


 急に倒れた二人を見て、残りの三人が輝夜が移動した先に視線を向けるが、既にそこには輝夜の姿はなかった。

 三人は輝夜を探そうと視線だけを動かす。しかし、輝夜は死角をつくように高く宙を舞って三人の真ん中の女性の肩に降りると、刹那にトンと軽く後ろに跳ねて体を捻り、そのまま女性の頭を横から蹴りつけた。頭を蹴られた女性は左にいた女性を巻き込みながら転倒する。そこに容赦なく華麗に宙に舞った輝夜からクナイが投げられ女性達の手足に深く突き刺さる。

 そして最後に残ったミズハに輝夜は告げる。


「弱い。弱すぎです。この程度で戦闘部族なんて名乗るのは烏滸がましい」


 ミズハが怒りに任せて大剣を振るう。

 しかし、輝夜は涼しい顔で紙一重で躱し続ける。まるでその場から一歩も動いていないように華麗に、そして優雅に躱わす。


「八島様。これがマスターが本気を出した時の体捌きです。かなり厨二的ではありますけど、その場から動いていないように見せるのが、かっこいいそうです。しかし。いい加減、飽きました」


 ミズハが全力で上から振るった大剣を、腕を軽く折り曲げて人差し指と中指で挟んで止める。


「はぁ、結菜様より軽い、軽すぎですよ。弱すぎて話になりません」


 輝夜はそのまま指で大剣を折ると、ふわっと飛んで後ろ回し蹴りをミズハの延髄に叩き込んだ。


「後ろ回し蹴りはこうするのですよ」


 うつ伏せに倒れているミズハの頭を踏みつける。そして彼女の顔がゆっくりと砂浜に沈んでいく。


「あなた達の負けです。今後はこの輝夜の指示に従ってもらいます」


 踏みつける足に、更に力を込められる。

 ミズハは必死に逃れようと藻搔くも輝夜の足を退かせない。

 ついに彼女は砂浜に顔が埋もれて窒息した。

 動かなくなったミズハを輝夜は冷たく見下ろす。


「普通この程度で死にますか。本当にこんなに弱くて、マスターの盾になるなどとほざくなんて、百万年早いんですよ」


 輝夜は周りにいる海女族を見渡す。限りなく冷たい瞳で。


 輝夜なりの威嚇が済んだのか、満足したように八島を見た。それに対し八島も笑顔で応える。


「エリアハイヒール! リザレクション!」


 輝夜は回復魔法と蘇生魔法を続けて唱えた。

 ミズハも生き返ったようで、口に入った砂を咽せながら吐き出していた。


 そんなミズハの髪を乱暴に輝夜は掴む。


「今後、私の指示は絶対です。いいですね」


 ミズハは何度もうなづいて応える。


「よろしい。まずはそんな下品な格好ではなく、これに着替えてから屋敷に来てください。あ、着替える前に湯浴みをするように。あなた達、とても臭いので。しっかり臭いを落としてください」


 ミズハの膝の上に人数分のメイド服と、その上にボディソープやシャンプーなどを置いた。


 そして輝夜は八島を連れて別荘に戻る。

 途中で八島からの質問ににこやかに答えながら。


 そんな輝夜達とは正反対に海女族の人達の顔は皆青ざめている。特に先代は手加減されたと分かり、恐怖で皆より青ざめていた。




 そして時は現在に戻る。


「あああ、ほんとめんどくさいマスターですね! うなされて清楚な人がいい。聖母様みたいな人がいいと言うから、してあげたのですよ!」


「え、そうなの。てっきり誰かに体を乗っ取られたのかと」


「輝夜はマスターと違って、そんな間抜けじゃありません。でも、心配してくれてありがとうございます。マスター、輝夜は少し嬉しかったです」


「良かった。俺は輝夜がいないと何もできないから。うん。本当に良かった」


「まだ心が壊れてるみたいですね。もう少しおやすみください」


 洸太に布団を掛けて、彼に子守唄を聴かせる。

 彼が幼い頃に寂しさで泣いて眠れずにいたあの時のように。優しく、慈しむように輝夜は子守唄を静かに、そして彼の心が落ち着くように、そう願いながら歌う。


 まるで母親のように。


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