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別荘から3キロメートルほど離れた場所の林。その一番高い木の上で休憩していた。
そして最近ではレアなミニ輝夜は、俺の肩に乗っている。
「マザーから通信というか。あ、来ます」
その言葉とともに、俺の前にアマテラスが現れる。
しかしその表情にはやや怒りの感情が。
「やあ、アマテラス。そんなところで浮かんでないで、ここに座ったら」
やや棒読みで枝の根本側を手で叩いて場所を指定すると、アマテラスは何も言わずにそこに座った。
しばらく沈黙が続いた後、アマテラスが先に口を開いた。
「危ないことばかりしないでください」
「いや、あれは。運転ミスでそうなっただけで」
「だとしてもです。少し。いえ、かなり迂闊過ぎます。万が一があってからでは遅いのですよ」
これ以上、心配してくれてる人に言い訳なんか出来ないと思い、素直に謝った。
「それで洸太さん。あの人達はどうするつもりですか」
「え、あの人達って」
「襲ってきた海女族の方達です。洸太さんに従うと部族全員で浜辺に集まってます。今、陛下が解散するように話していますが一向に聞き入れません」
それを聞いて輝夜は肩の上で立つと、背伸びをしながら俺の頭を慰めるように撫でた。
気持ちが一気に沈む。とてもじゃないが、そんな話は受け入れられない。
「どうしよう」
すがる気持ちでアマテラスに訊いてみる。
「彼女達にとって掟は絶対だそうです。族長と一対一で戦い。屈服させたオスの配下につくのが掟なんだとか。正直なところ、あまり歓迎したくはないのですが、歓迎しざるおえないと、私は思っています」
あんな乱暴な集団は嫌だ。
常にギラギラした目で見られるなんて御免だ。
たとえ、ボンキュボン、でも!
「よし、逃げよう。このまま地球に帰ろう」
「馬鹿なことは言わないでください」
輝夜に頭を強めに叩かれる。
「皇配殿下は彼女達の住む土地を奪うような真似をこちらがした事もあって、彼女達に土地を与えて新たな居住地にしてもらうつもりのようです。ですが、それは当然のことであって。彼女達の要求の本質ではないのが厄介なのです」
「マスター、早い話。皇国の下にはついてやる。でもそれはあくまでもマスターの下で、ということだ、イッヒッヒ。てな感じです。なので輝夜が思うに、マスター詰みです!」
輝夜は俺の肩の上で、俺に向けてビシッと指差した。
「んな、あほな。どうにかならないの。だって俺、成婚パレードが終わったら地球に帰るんだよ。ねえ、まさか地球にまで付いてくるつもりじゃないよね」
顔を両手で覆い、深い悲しみに暮れる。
「あ、そうだ。アマテラスの名を決めたんだ!」
「突然なんですか」
「ついに現実逃避に走りましたか」
「アマテラスのイメージから。凛とした花で、凛花! どうかな。それと花は簡単な方の花で、なんか柔らかく感じて良いと思うんだよね。で、速水凛花。気に入ってくるかな」
アマテラスは小さく自分の名を呟く。そして目に涙を浮かばせた。
「ありがとうございます。とても素敵です」
彼女は頭を俺の胸に軽くつけて静かに泣いていた。
そんな彼女を嬉し泣きだといいなと思いながら彼女の背中を優しく撫でた。
『マスター。良い感じに現実逃避するのはやめてください』
いつの間にか、ブレスレットの中に戻った輝夜から叱られる。
『取り敢えず一旦戻るのが先です』
その輝夜の言葉に嫌々ながらも従い、認識阻害の結界を展開しながら戻ると、浜辺で激しい剣戟が鳴り響いていた。
「ゆい姉、なにやってんの」
その光景に、あっけに取られる。
ゆい姉と、俺と戦った赤髪の女戦士が激しく剣を交えていた。
それを岩陰からそっと眺める。
『おそらく。洸太の下につきたいなら、力を示してみろ。とか言って、結菜様が挑発したと輝夜は推測します』
「んなもん、見れば分かるっつうの。なんで楽しそうに笑いながら戦ってるのかって言ってんの」
見つからないように小声で口喧嘩をしていると。赤髪の女戦士の剣を弾き飛ばし、首に刀を向けるゆい姉のかっこいい勇姿がそこにある。
「な、ゆい姉は無敵なんだよ。どうだ、すごいだろ。もっと崇めて尊敬しろ」
『マザー。マスターがストレスから壊れかけてます』
「まずい状態ですね」
赤髪の女戦士は清々しい顔で立ち上がると右手をスッと差し出した。
ゆい姉も手を差し出し、二人は握手を交わす。
そんな感動の場面で、舞さんが腕を回しながら二人に近づいていくと。今度は舞さんと赤髪の女戦士とは別の女戦士との戦いが始まった。
「なあ、まさか試合してるのか。それも団体戦」
「きっと、そうでしょうね」
『輝夜は舞様が負ける方にベットします』
「じゃあ、俺は舞さんに」
「私も輝夜と同じ方にベットします」
そこから三人で賭けが始まった。
ミニ輝夜が現れてコイン一枚を一万円で交換して配布した。
砂浜に簡単な表を描いて、そこにコインを置いて試合を観戦した。
「舞さんの相手もやばいな。かなりの手練れだ」
「本当ですね」
呑気に賭けながら観戦していると肩を何度か軽く叩かれた。何も気にせずに後ろを振り返ると咲耶と美緒が鬼の形相で立っている。
俺は誤魔化すように満面の笑みを浮かべて、彼女達を誘う。
「まあまあ。そこに座って一緒に賭けながら観戦しよう」
そして咲耶から強烈な脳天チョップを喰らった。
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