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我が特殊防衛第一学園といえど、まかりなりにも高校の一つであり、普通の授業も存在する。
舞さんは戦闘訓練などの座学、実技は担当しても国語や数学といった科目はそれぞれ違う教師が担当している。
そんな中でも繰り返しと言っていい程、しつこく習うのが第一次世界AI戦争と、そのAI戦争から五年後に起きた地球外生命体の来襲だ。これはバトルメイガスの誕生もあって詳細にしつこく習う。
こうして日々平和に学園生活を送っていると勘違いしがちだが、ゲートから現れる地球外生命体によって世界は甚大な被害を受けている。
実際に東アジアとアフリカ大陸はいくつもの国が消えたし、アメリカだって国土の半分は地球外生命体によって破壊された。
アマテラスによって守られたとはいえ、日本も当初は東日本を中心に甚大なる被害が出たという。あまりにも早い復興で忘れられがちだが実際に起きた話だ。
現在も一日に一回は必ず日本の何処かで地球外生命体と戦闘になっている。魔導防衛軍の活躍で大した被害は出ていないのだけれど。現実は平和と呼べるには程遠い。
そんな世界でバトルメイガスは希望だ。
特に、そのエースであるゆい姉は国民的人気を得ている有名人だ。
【紅き閃光】の二つ名を持ち、最年少佐官。容姿も良く最強。まさに完璧な存在だ。
しかし実情は異なる。
わがまま、気まま、暴虐不尽。
これが本来のゆい姉の姿だ。
幼少の頃の俺は、そんなゆい姉に引きづられて痛い目をよくみていた。
理不尽な遊びと称した特訓。愛という名の苛酷な試練。今思い出してみても吐き気がする。
ただ、両親を亡くした俺をなんとかしようと、ゆい姉なりの優しさだということは知っている。
両親の葬儀で泣きじゃくる俺の傍にずっと居てくれたのも彼女だ。もっとも、あの時初めてあったのだけれど。古くから祭事を司る巫女の家系。母方の親戚で本家のお嬢様。それが赤城結菜という人だ。
そんなゆい姉のお蔭で運動能力、動体視力と反射神経はかなり鍛えられた。
『一年五組、速水洸太。生徒会室まで至急来い。この私を一体いつまで待たせるつもりだ。早く挨拶に来なさい!』
突然の呼び出し。その校内放送にビビる。
自首するか逃亡するか大いに悩む。
そっと席を立ち、逃亡を選択した。
悟られないように、ゆっくりと教室のドアへ向かう。そっとドアを開けて廊下を確認し、一気に下駄箱まで走った。
ほっと一息ついて、自分の下駄箱を開けると背後に人の気配を感じた。
やや、ぎこちなく振り返ると妖艶な鬼が腕を組んで立っていた。
「洸太。君の行動はお見通しだ」
銀の長い髪。まるで日本刀のような美しい人。
その美しさに惹かれ、手を伸ばし、触れれば斬れる危ない人。
金剛律子。
我が第一学園生徒会長でゆい姉の自称舎弟。
俺はまたしても襟首を掴まれて、引きずられながら連行された。
そして生徒会室のソファに放り投げられる。
りっちゃん先輩は俺の前に座ると、短いスカート姿だというのに、俺の目の前で大きく脚を振りあげて脚を優雅に組んだ。
「洸太。君が入学してから私が毎日勝負下着を身につけ、どれだけ身だしなみに気を配って登校していたか分かっているのか」
「すみません」
「しかもだ。クラスの女子全員を家に下宿とか、君は私のことを蔑ろにしすぎではないか」
「あれは勝手に。いえ、すみません」
睨まれた。こわい、とても怖い。
「なら私の言いたい事は分かっているな」
「はい。りっちゃん先輩もうちに下宿しませんか」
「素直でよろしい。最初からそう言いに来れば満点だったのだがな」
これって言わされてるだけだよね。素直も何もないよね。
しかもこれ見よがしに何度も脚を組み替えて、思春期の男子の反応を見て弄んでるよね。
「あの、りっちゃん先輩。なんで履いてないんですか」
「え……」
一瞬で顔が真っ赤に染まり、スクっと立ち上がると、こちらに背を向けてそっとスカートをめくり確かめていた。
「せ、責任をとれ。見たんだから責任とってもらうからな!」
耳まで真っ赤に染めて、りっちゃん先輩はそう叫んだ。意外にかわいいところもあるらしい。
「それはゆい姉と相談してください」
「それなら既に話はまとまっているし、許可も取っている」
え、初耳なんですけど。
「家同士の許可も得ている」
「え、りっちゃん先輩って俺の婚約者だったんですか」
「そうだ。私は洸太が知らなかった方が驚きだ」
うーん。俺の保護者はゆい姉のおばあさんだし。聞かされてないのも仕方がないか。会ってないからな。
「やけに冷静だな」
「驚きすぎて、逆にって感じです」
「ところで、結菜先輩は元気か」
「ええ、元気ですけど会ってないのですか」
「いや、昨日も会った」
なんなんだよ、それ。なら訊くなよ!
大好き過ぎるだろ、ゆい姉を!
「私の部屋は結菜先輩と同じ部屋で頼む」
「あの、俺もゆい姉と一緒なんですけど」
「………わかった。三人一緒で構わない」
まあ、そこら辺はゆい姉がなんとかしてくれるだろう。
「そろそろ下着を」
「わ、わかっている。後ろを向いていろ」
なんで履き忘れるのかなぁ。
普通はわかるよな。もしかして、りっちゃん先輩って裸族なのか。
でも昔からどこか抜けてるというか、大雑把なところがあるからな。
「もういいぞ」
また赤くなってるし。ほんとはポンなんじゃないか。
「りっちゃん先輩って、戦闘と勉強以外はポンコツですよね」
「うるさい。言っとくが、私は料理もできるからな」
「あ、ゆい姉は駄目なので助かります」
「知ってる。だから私が頑張った」
ほんと、ゆい姉の大信者だよな。
でも、イエスマンではないんだよ。そこは他の人とは違うところだよね。
「あの、そもそも俺って複数の人と結婚できるんですか」
「大丈夫。洸太の遺伝子は最重要に指定されている。問題ない」
「嘘ですよね」
「嘘ではない」
なんで本人が知らない事を知ってんのさ。
俺の個人情報の扱いってどうなってんの!
「お願いがあります」
「うん、言ってみろ」
「これ以上婚約者を増やさないでください」
「たぶん無理だと思うぞ。結婚まではいかなくても、国からは子を望まれるだろうな。けれど、洸太がそう望むなら私は全力で手助けはする」
まあ、精子提供ならいいか。
とにかくこれ以上増えなければそれでいい。
「洸太。不束者だがよろしく頼む」
「はい、こちらこそです。でも、家でクラスメイトや舞さん相手に暴れないでくださいね」
「善処する」
そこはかとなく心配だけど、りっちゃん先輩は数少ない常識人だから大丈夫だよね。
なんか嫌な予感がするのは気のせいだよな。
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