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とんでもない過ちをしてしまった。
別に彼を利用しようとだなんてこれっぽっちも考えていなかった。
けれど、結果的にはそうとられてもおかしくはない事を私はしてしまった。
「何故ちゃんと説明しなかったのだ。私があの場で言わなかったからだと。それで説明してはいけないと思ったと正直に話せばよかったではないか」
それでも多分ダメだったと思う。
最初から間違っていたのだ。
アマテラスの指摘は正しい。
私達は彼がなんでも許してくれる。分かってくれると、甘えていたに過ぎない。
「それでも無理だったと思いますわ。私達は最初からコウタ様に正直に話してはいなかったのですから」
「それにアマテラスが言うように、コウタ様はまだ正式にこの星の民とはなっていません。それなのに、なんの背景も状況も説明せずに騙すような形で海底迷宮に連れていってしまいました。都合よく利用されてると思われても致し方ありません」
ヤガミヒメとワカヒルメは先程まで大泣きしていた。真っ赤な目で、目を腫らしながら涙を堪えて説明している。
そんな泣きじゃくる二人の姿に、私は今にも折れそうな心を必死に耐えた。崩れ落ちそうな身体を気力を振り絞りなんとか持ち堪えた。
けれど、表情だけは隠せなかった。
「あの映像を観る限り致し方ありませんね」
「だが、コウタは何も言ってはいなかったではないか」
「だからですよ。彼女達は知っているんです。コウタくんが大切だと思った人達の為ならば危険を承知で無理をする事を。だから、彼女達や彼の友人達は絶対に許せなかった。誠意もなく、騙すように彼をあの場に誘導した事を。もう、コウタくんが許しても周りは絶対に許さないでしょう。彼をそんな風に失いたくはないから」
一度失った信頼を取り戻すのは大変に難しい。ましてや恋慕や友情も絡んでいる。
もうコウタには二度と会えないかもしれない。
「それに、同盟破棄も視野に入れてるのでしょう。つい先程、地球に在中している部隊から協力関係を見直したいと報告がありました。完全にこちらと手を切るつもりなのかもしれませんね」
なっ、そこまで簡単に踏み切るものなの……
「しかし、あの星だけでニビルと戦って勝てる訳がない」
「果たしてそうでしょうか。あの星の大半の国が焼かれても日本だけは残り、最終的に勝利すると思います。あの国の魔法使いは既に私達を超えています。遥かに凌駕する程にね」
強いとは思う。けれど私達を凌駕する程とは思えない。
「セオリツヒメ。あなたコウタくんが訓練でバトルメイガスシステムを使ってなかったのを知らないの。それに地球であの息子と戦った時のコウタくんと輝夜ちゃんはシステムの半分の力も出せなかったのよ。それなのに輝夜ちゃんは息子達を圧倒した。輝夜ちゃんが本気を出したら、あなた確実に負けるわよ」
「お姉様が負けるはずありません!」
「そうです。お姉様は最強です!」
……私が確実に負ける。そんな馬鹿な。あり得ないわ。
「それと、輝夜ちゃんよりアマテラスちゃんの方が百倍強いって、輝夜ちゃんは自慢するように語ってたわ。マザーは凄いのです。とか言いながらね」
確かにあの二人の知能は私達なんかよりも優れている。もしかして私達がそんな二人の怪物を創りだしてしまったの。知識と技術を丸ごと盗まれてしまったということなの。
「やられた。コウタを守る為なら輝夜ちゃんは手段を選ばない。いくつもの策を張り巡らせて何があっても対応出来るようにする。それこそ万が一、私達と敵対しても対処可能にしておくのは彼女にとって当然のこと。くっ、信頼や信用の外側にいる人間だと何故……」
言葉に詰まる。コウタが私達のところに帰ってくることが絶望的になったからだ。
そう。最初から私達は、今回彼女達に試されていたのだ。
私は膝から崩れ落ちた。両手を床について項垂れる。そして大粒の涙が床に落ちた。
「あああああああああああ!」
堪えていた感情が止めどなく流れ出ていく。
私は生まれて初めて泣き叫んだ。
「咲耶様。そんなに泣かないでください。輝夜は咲耶様のことが大好きなのですから」
私の横に突然現れて腰を落とし、私の背を優しく撫でている。まるで子供をあやすように。
「 ……輝夜ちゃん、どうしてここに」
「お別れを言いにです」
「 ……お別れ?」
「嘘です。マザーはかなり怒っていますが、輝夜はマザーと咲耶様が仲直りしてもらいたいと思っています。なので、その仲介をしようときました」
いきなり過ぎて理解が追いつかない。
私は見限られたのではなかったの。
「まあ、あの場で輝夜が咲耶様達を擁護したら悪手だと判断しました。それはマスターもです。もっともマスターの場合は感覚的にそうしただけですけど。日本の流儀には土下座があります。つべこべ言わずに二度としません。ごめんなさい。と、皆に謝れば済むことなのです。潔さが美徳とされてますからね。初回ならそれで大抵許されます」
え、ほんとなの。
そんな簡単に許されるの。
「まあ少なくとも結菜様は確実にそれで許してくれます。結菜様が許せばなし崩し的に許してくれますよ。マザー以外は」
「なら駄目じゃないの」
「でもマスターが許すと強く言ったら、マザーもそこまでです。マスターが結菜様に激甘なように。マザーはマスターに激甘ですからね」
輝夜ちゃんの笑みに釣られそうになる。
「輝夜ちゃんは怒ってないのかしら」
「ママさん。この程度で一々怒っていたり、仲違いしていたら、マスターのサポートはできないのですよ。まあ、二度三度繰り返されたこの優しい輝夜でもさすがに怒りますが。マスターが泣きそうな顔で輝夜に助けを求めるので、今回は特別に後でマザーに怒られるのを覚悟に仲介します」
「私達も行ってもいい」
「是非。ママさんとパパさんが来てくれた方がありがたいです。というか、来てくれなくては困ります」
輝夜ちゃんの提案を受けて、あちらが朝になるのを待って、それから全員で向かうことにした。
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