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結局、作戦会議らしい事は何も話される事もなく。取り敢えずはゆい姉と晃を前衛にして俺と八島が前衛補助。その後ろでリーダー的ポジションとして咲耶が控え、後方にひめワカたん、美緒、絵里、アマテラス、輝夜。最後尾にりっちゃんを配置する事になった。
宮殿に入る前にフォームチェンジをする。
今回は通常バージョンだ。もっとも、二度とPタイプには変身しない。あれは完全に封印した。
「あれ、りっちゃん。スタイル変えたの」
りっちゃんが俺とよく似た格好になっていた。黒の外套を纏い。そして中には黒のドレスシャツに黒のミニスカート姿で左腰には日本刀を差していた。
「ええ。この前のアップデート後からこんな感じになったの。理由は分からないけれど」
「そっかあ。なんか俺とおそろみたいで良いと思う。疾走してズバッとみたいなイメージだよね。うん、かっこいいよ」
ただの黒好きでしょ、と絵里に突っ込まれる。そういう絵里も黒一色の癖によく言うわ、と思いながら八島を見ると。彼女はさらにギャル要素を強めていた。上は前と変わらないが、赤のチェックのミニが確実に短くなっている。
「八島。それはやばい。俺の集中力を削ぐような真似は良くない。まあ、かわいいから許すけど」
「見えないよ。ちゃんと(白の)外套で隠してるから!」
そうなんだよなぁ。エチエチのおしゃれピンクの見せブラはこれでもかと主張してるくせに、下はしっかりガードとは残念だ。
そんなやり取りをしていたら咲耶に軽く肩を叩かれるように手を置かれた。
「品評会してないで、行きますよ」
笑顔なのに怖い。とても嫌なオーラを放っている。
「そ、そうだ、ね。うん、行こっか」
こうして宮殿内に足を踏み入れると通路が思っていたより広い。ただ、メイン通路から逸れると通路は狭くなっていて、これも何かの防衛的な面を考えてのことなのかと勝手に思ったりしていた。
前衛の二人は白騎士ファッションなので少し目がチカチカする。そんな風に思っていると十字路の横からゴーストがふわふわと浮かびながら五体現れた。
ゲームによく出てくるような男女のゴーストだったが不思議と怖くない。
「人面魚の後だとインパクトに欠けるわね」
ゆい姉が口角を上げながら狩りを楽しむように踏み出した。その後を晃はしっかり着いていく。
手前のゴーストを左手に持った刀で一刀のもとに斬り捨てるとゴーストは霧のように消滅した。
そのまま左の壁にトンと跳ねるとそのまま壁を走ってゴースト後ろにまわった。
「挟撃よ!」
事前に話し合っていたかのように倒す相手が被ることもなく二人は刹那に全てのゴーストを倒した。
「ゆい姉って壁も走れるのか。今度真似してみよう」
「それはさすがに速水くんでも無理だと思うよ」
そうか。勢いをつければ三歩くらいは走れるとは思うけどなあ。
「それって走った事になるの」
「ギリならない」
「せめて赤城先輩みたいに十歩は駆けないとダメじゃない」
「そっか。ダメか」
そんな感じでサクサクと前衛二人が倒してくれるので出番がない。
手持ち無沙汰でマッピングしかやる事がなく、なんかあの二人だけで充分じゃね。なんて思っていると突然ゾンビの集団が現れ、前後を塞がれた。
「後ろは大丈夫! コウタと八島ちゃんはユイナ達の支援を!」
「よっしゃあー! 見せ場到来!」
咲耶からの指示を受けて、俺と八島が左右に別れて壁伝いに走り、前から迫ってくるゾンビの後方へまわる。
俺は右手に刀。八島は両手に短刀を持って互いにゾンビに斬り掛かる。
ここら辺の連携は手慣れたもので、凡そ二十体のゾンビを効率よく仕留めていく。
けれど。やはりゆい姉には及ばない。あっちは一振りでまとめ三体斬り倒していた。危なく俺も斬られそうなる。
「洸太、危ないじゃない。しっかり周りを見て!」
怒られた。理不尽だと思いながらゾンビを倒し終える。
後衛組を見るとやや数は残っていたが、直に無事終わるだろう。
「クッサ。これ焼いたらダメかな」
「余計臭くなるから、やめて」
ゆい姉とそんな話をしてると晃がゾンビを調べるようにひっくり返していた。
「晃なにしてんの」
「いや、なんかドロップしてないかと思ってさ」
確かに。迷宮はダンジョン。なにかドロップしていてもおかしくはない。俺も晃と一緒に調べることにした。
「マスター。馬鹿なんですか。ゲームと一緒にしないでください」
輝夜が久々に話し掛けてきたなと思ったら馬鹿扱いされた。
「いや。魔石とかあるかもしれないだろ」
「はぁ。この世界の魔石は鉱山からです」
輝夜は俺のおでこに手を当てた。
「熱なんてないわ!」
「輝夜は逆にあって欲しかったのですよ」
「ふん。晃、進むぞ!」
「おう!」
俺と晃はその場から逃げるように先へ進んだ。
「ドロップしないんだな」
「夢ないよな」
そんな愚痴まがいの会話をしながら進んでいると、突然浮遊感に襲われる。
下を見ると床がぽっかり開いていた。
「晃!」
「おう!」
普通に飛んで戻る。
「ねぇ。その緊迫した感じの叫びは必要だったの」
絵里が腰に手を当ててあきれた感じで訊いてくる。
「お前の彼女、浪漫がないな」
「女の子は常に現実的なんだよ。恋以外はな」
「ザンネンだな」
「まったくだ」
股間に突然痛みを感じた。それは晃もだった。
二人で股間を抑えてしゃがみ込む。
「安心して、峰撃ちよ」
どうやらノーモーションで絵里に撃たれたようだ。油断しすぎて気づかなかった。
「さすが絵里ちゃんだね。あの二人にクラスで攻撃を当てられるのは絵里ちゃんだけだよ」
「呼吸だね。あの馬鹿コンビはふと同時に気を逸らすクセがあるんだよ。さっきみたいにね」
「ちくしょー。なにが峰打ちよ、だ」
「んな、銃で峰打ちなんてあるか」
絵里は人差し指を立てて左右に振る。
「峰打ちの打ちの漢字が違うんだよ。銃を撃つの撃つでーす。だから、当てただけだから峰撃ちでしたー」
腹立つ。本当にムカつく。
「晃。お前に俺の禁忌魔法を授ける。絶対にあの勇者を倒してくれ」
「ああ、任せろ。死ぬ気で覚えて必ずお前の仇はとる」
男の友情を確かめ合ってると輝夜が口を挟んだ。
「晃様。魔王変身ブレスレットと女勇者変身ブレスレットを今なら格安でお売りしますよ。ちなみに女勇者にはお姫様アバターなど三種類の姿がその日の気分で選べます。そして魔王も。しかし、これだけではありません。女勇者を縛る蔦は先端が◯◯◯に変形可能で、ローションも噴射可能な高性能モデルです。どうですか。欲しくはないですか。今ならなんと特別価格でご提供します。お値段セットでなんと五百万円! 本日限りの特別価格となっております。ぜひお買い求めください」
絶妙な値段だ。
いま晃の月収はおそらく二百万円は下らない。買えない金額ではない。
現に晃はすでに購入する方向に傾きかけている
「ちなみに。この商品を希望したママさん、パパさん達からは大満足だと大絶賛されております。さあさあ、この星の皇帝陛下愛用の品。ロイヤルのお墨付きです。晃様。今、即決していただけるならば一割引の四百五十万円でお譲りします!」
「買った! 今すぐ買います!」
なぜか晃だけてはなく、絵里まで同時に声を大にして購入すると言った。
輝夜は満足げにうなづくと晃と絵里にそれぞれブレスレットを渡した。
「使い方はバトルメイガスシステムと同じです。イメージは無限大ですので頑張ってください」
「そういえばママもパパもあのブレスレットを着けてましたね。まさかママ達が頼んだとは」
まあ、君達の両親だしね。まさかではないと思うよ。特にひめたんだけには、そう言われたくないと思う。
「絵里ちゃん。ちょっと見る目が変わったよ」
八島がジト目を向けるが、購入してウキウキ気分の絵里にはその視線も声も届いてはいなかった。
「洸太。あれ、私もやらなきゃダメなの」
りっちゃんが誰にも聞こえないように小声で訊いてきた。
「やらなくてもいいと思いますよ。それにまだなのに、そんなのを訊かれたら恥ずかしいです」
「そうだよね。うん、ごめんね」
はぁ。とんだ風評被害だ。
別に俺が望んでやってる訳じゃないのに。
輝夜も輝夜だ。何もこんな時に売らなくても良いじゃないか。
それに高性能の無駄遣いだっつうの!
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