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 みんなの前で情けなくもかっこ悪く泣いたその日の夜は。どうしても一人でいたくて、一人で部屋のベッドに横たわっていた。


 俺には両親の記憶がほとんど無い。

 両親と一緒に笑って写る写真を眺めても、どこか自分のものではないように思っていた。


 俺の記憶にある幼い頃の記憶は、ゆい姉とりっちゃん。それと輝夜と過ごした日々で。そのしばらく後に仲良くなった幼馴染の絵里や晃と遊んだ記憶。それしかない。


「あああ、お母さんなんて呼んじゃったけど嫌われてないかな。ずうずうしい奴とか思われてないかな」


 しでかしてしまった恥ずかしさからベッド上で何度も左右に転がる。

 そんな時、視界の端で窓に蜘蛛のようにへばりつき愉快そうにこちらを見ているゆい姉が映る。


 何事もなかったようにベッドから抜け出して窓を開ける。


「なにしてんの」

「今頃恥ずかしさで、のたうち回ってるかと」


 正解だ。


「そんな格好だと下着まる見えだから部屋に入んなよ」


 エッチ、とか言って窓からスッと飛び降りて部屋に入ってきた。


 窓から外を眺められる位置でベッドに腰掛けると、ゆい姉も隣に座った。


「一人にしてくれって言ったのに」

「洸太の一人にしてくれはいつもその反対だからね。で、来て欲しかったでしょ」


 そう言って最後はニヒヒと笑った。


「まあ、ゆい姉に会いたくないなんて一度も思ったことないし」

「私のこと大好きだもんね、君は」


 ガバッとまるで男らしく俺の肩を抱いた。

 まったく色気がない。ほんとそんなところは何一つ変わらない。


「洸太にちゃんと言ってなかったけど。私さ、両親の顔なんて知らないし、会ったことさえもないんだよね」

「え、ほんと」

「ほんと。ずっと、といっても洸太に会うまでだけど、それまではお婆ちゃんに育てられてた」

「両親のことは聞かなかったの」

「そりゃあ聞くよ。ただ生き別れた。そう言われるだけで詳しくは今だに教えてもらえない。まっ、今更どうでも良いんだけどね。だって私には洸太がいるから。洸太がずっと私の心の支えだったしさ。今更現れても、私の心にその人達が入る隙間はないかな。私の心は洸太で出来ている。なーんてね」


 ゆい姉は両手を後ろについて、軽くのけぞり上を眺めていた。

 その微笑んだ表情に嘘はなく、語られた言葉は真実だと教えてくれる。


「君と出会った時。ぐしゃぐしゃな顔で泣いてる君を、私は守ってあげたいって思った。珍しくお婆ちゃんが外に連れていってくれて、とても楽しみにしていたら黒い服を着せられて。遊びに行くんじゃないんだってがっかりしてたんだけどね。でもね。その時ピーンときて、心が教えるの。君と恋をして、君を愛し、そして結婚するんだって。運命だと思ったんだよね」


 ませてない。と照れ隠しから茶々を入れそうになるが我慢した。


「君と一緒に住むって、お婆ちゃんに決死の覚悟で言ったら簡単に許してくれて。あの時はかなり拍子抜けしたことを今でもはっきりと覚えてる。ただ計算外だったのは律がついて来たことだけだね。律はさ、私のお世話をしてくれていた人の子供で、昔から妙に懐かれてて。なんで君の所に行くのに子供二人で押しかけるんだよって思った。実際は律の両親も近くに越してきて、私の世話をする為だったけど」

「知らなかったけど。そんなの一言も聞いてないよ」

「そりゃあ言ってないからね。知ってる訳ないよ。でも洸太も覚えてるでしょ。私が中等部に上がるまで家のことをしてくれた人。あの人が律のお母さん」


 そうなの。俺たちの前で一度もお母さんとか呼んでたことないよね。なんで。


「洸太もまだまだだね。仕事中にママ、パパなんて呼んだら普通は叱られるんだよ。君が東富士で私に愛を叫んだみたいに、ね」

「叫んでないし。それくらい知ってたし」


 はいはい。と、ゆい姉は言って足をパタパタと上下に動かしていた。


「私もさ。ママさん達のこと、初めて会った時から両親のように思ってる。だから、さっきの洸太はとても素敵だったよ。自慢の彼氏だって胸を張った。どうだ、これが私の洸太なんだよって大声で自慢しそうになった。空気を読んでそれはやめたけど」


 これが親馬鹿ならぬ彼馬鹿というやつなのだろうか。

 もっとも俺はゆい馬鹿だけどね。


「言ってたらジト目確定だったね。俺にとってはご褒美だけどさ」

「今夜は久々に私が抱いて寝てあげよう」


 ゆい姉に抱きつかれてそのまま倒された。


「ご褒美に」


 ゆい姉から優しくキスをされる。

 鼓動が一瞬止まりかけて、跳ねるようにまた動きだした。


 いつだってドキドキする。

 彼女の傍にいるだけで心が舞い上がる。

 誰が一番だとかは絶対に口に出したりはしないけれど。ゆい姉が俺の一番で、絶対不変の一番愛しい人だ。


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