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 皆の笑顔で溢れ、ママさんの焼く魚やお肉に舌鼓しながらバーベキューを楽しんでいると、突然現れた襲撃者達の手によって状況が一変した。

 まさか。まさかの敵の正体に自身の目を疑う。


「私を軽んじ。そして愛しのイザナミとの愛を邪魔をする母上達にはここで潔く退場してもらいましょうか」


 この避暑地の別邸周辺を何重にも取り囲む兵を引き連れて、皇帝陛下の長子であるタケミカヅチがそう告げる。そんな彼の側には三名の初老の男女が脇を固めていて、こちらを見下すよう視線を向けていた。


 そんな圧倒的に不利な状況で、ママさんが声に出して笑う。


「ああ。これ程までに愚かだとは思っていませんでした。ほんの少しは、あなたがそんな愚かな選択をしないと思っていたのですが残念です」

「あっははは、母上様。強がるのはおやめください。この状況では母上様達に勝機はありません。今なら彼らヤダガラズとの仲を取り直してあげますよ。最も、無様に私にひれ伏すのなら。ですが」


 その言葉に驚くどころか、物語の序盤に出てくる小ボス感を感じて逆に引く。

 また、愛しのと名指しで指名された美緒は俺の背に隠れている。美緒のこういった場面での素早さは小動物並だと少し感心した。


「陛下。我々導き手としては皇室が力を持ちすぎるような事は看過できません。古来より習わしに従って、その尊き偉大なる血を削っていただけなければ困ります。この惑星の未来の為に。そして我々高位の選ばれし種族の更なる繁栄のためにもね」


 お兄さんの脇を固めていた中で一番貫禄のある爺さんが皇帝陛下を馬鹿にしたように話すと、他の二人も愉快げに笑う。かなりムカついて半歩踏み出すと、パパさんが突然大きな笑い声で愉快そうに笑った。


「ああ、なんて愉快で喜ばしいことか。ようやくその正体を私達の前で明かしてくれたのだからな。やっとだ。貴様らの歪んだ価値観せいで死んだ多くの者達への献身に報いる事ができる」


「くだらぬ強がりを」


「さて、本当にそうでしょうか。あなた達は逆に、罠に嵌められて誘き出されたとは思わないのですか。私達は最初からここで決着をつけるつもりだったのです」


 皇帝陛下がそう話し終えると、上空から沢山のライトで照らされた。

 目を手で光を遮りながら見上げると、空を埋めつくような宇宙艦が浮かんでいた。

 また、俺達を取り囲む兵士達を更に取り囲むように兵士達が姿を現した。


 皇帝陛下はスッと右手をあげる。その表情は氷のように冷めたものだった。


「殲滅せよ」


 そして手を振り下ろし、叛逆者たちへの攻撃を命じた。

 それは一方的な蹂躙だった。慈悲もなく容赦ない粛清。それは実の息子に対しても。


 全てが終わるまでに一時間も要しなかった。


 手足を切り落とされながらも、もがき苦しむみ、まだ息のある息子の前に父親が立ちはだかる。


「貴様が。セオリツヒメに対して行った許されざる諸行。そして、イザナミにまでもその毒牙を向けようとした諸行。全て許すことは出来ぬ。親としての最後の慈悲。私の手によって黄泉に旅立て」


 そう告げて、息子の頭に剣を突き刺した。

 彼の息が絶えた後、剣を抜き、血を払う。


「友よ。皆の無念を漸く晴らすことが叶った。これで私も、いつでもお前達のところへ行ける」


 夜空を見上げ、彼は微かに笑った。



 周りで沢山の人達が忙しく現場の後始末をしている。そんな状況下でもバーベキューは再開された。

 だだ、俺と絵里、八島の三人は食欲など失せて戸惑いながらその場にいた。


「洸太。そんな事だと戦場で飢え死にするわよ」


 結菜に無理やり焼いた魚を食わされる。


「でも、理解が追いつかなくて」

「理解する必要なんてないわ。何も知らない私達に、ママさん達が歩んできた道を理解しようとする方が烏滸がましいの」


 そうなのかもだけど。そんなに簡単に割り切れないよ。


「マスターの頼りない頭で考えても無駄なのです。今、マスターにできる事はママさん達が楽しく食事を出来るようにすることだけなのです。そんな情けない顔をしていたら余計にママさん達を悲しませるのですよ」


 輝夜からの言葉が駄目押しとなって、俺たち三人も心を切り替えてバーベキューを楽しむことにした。しかし一つだけ気になっていることがあった。


「お兄さんの彼女、居なかったよな」

「あの娘なら地球でちゃんと任務を全うしてるわ。それよりコウタくん。どう、美味しいかな」


 ママさんがおかわりのお魚とお肉を持って前に立って、そう話す。隣の八島がママさんに椅子を譲ると、お礼を言ってそこに座った。


「あ、はい。とても美味しいです」

「そう。良かったわ」


 自分で持ってきた一口大のお魚を口に入れて美味しそうにゆっくりと噛んでいた。

 けど、どこかいつもと違う感じがした。


「利用されて踊らされ、そして恋人にも見捨てられる。それが最後だなんて虚しいわよね」


 星空を見上げながら、溢すようにつぶやく。

 俺は何も答えずにただ言葉の続きを待った。


「私の両手は血に塗れて汚れているわ。多くの姉妹達を、多くの敵を自ら殺めてきた。たとえそれが自分の意思にそぐわなくても。ねえ。そんな私があなた達の子を腕に抱く資格なんてあるのかしら」


 これ以上言葉にさせたら駄目だと思って言葉を遮り、思いの丈を叫ぶ。


「あります! あるに決まってます! ママさんが嫌だって言っても無理やり抱っこしてもらいますから!」


「コウタくん……」


「自分の立場から誰よりも厳しくあろうとして。それでも誰よりも優しくて傷つきやすくて。だから甘やかしてしまった。だから、間違ってしまったのかもしれないけれど。僕はそんなママさんが大好きです。そんなママさんを尊敬しています。僕の素敵な母だと誇っています! だから僕はお母さん達に、ずっと側にいて欲しいです」


 また泣いてしまった。かっこ悪くてうつむいてしまう。

 けれど、そんな僕をお母さんは優しく抱きしめてくれた。


「ええ。ずっと側にいるわ」

「お母さん……」


 いろんな感情がごちゃ混ぜになって、いつまでも涙が止まらない。

 そんな僕の心を落ち着かせるように、お母さんはあたたかく優しく抱きしめてくれる。

 そして母親の腕に抱かれることが、こんなにもあたたかくて安心するものだと初めて知った。


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