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 透き渡る空。そして波穏やかな青い海。

 波で揺れる船が揺籠のようだ。俺の目の前にある釣竿はなにも反応を示さない。

 船に波が打ちつける音と波で揺れる船が眠りへと誘う。


「起きなさい。落ちるわよ」


 微睡の領域に踏み込んだ俺をゆったんが引き戻す。


「ああ、ごめん。つい」

「コウタ。これでも飲んで。きっと目が覚めるわ」


 咲耶に手渡された深緑の飲み物を眠気のせいか何も確かめずに一気に飲んだ。飲んでから込み上げてくる草の香り。そして強烈な渋さと苦味が頭を強制的に覚醒させた。


「ぐえっ、おえっ!」


 きっとじゃないから。確実に目が覚めるっつうの!

 鼻まで突き抜けてくる青臭い臭いが一層気分を不快にさせる。

 そっと輝夜に手渡された水でうがいをして海に吐き出す。それを解消するまで繰り返した。


「なに。あれなの。負けた嫌がらせなの。仕返しならベッドの上だけにしてくれよな!」


「あら、コウタくん。昨日はお盛んだったのかしら」

「若くても程々にな」

「でもこの調子なら早いうちに孫の顔が見られるかもしれませんね」

「そうだな。おっと、きたっ! これは大物だ!」


 ほんとオープンな家族だ。


「思い出した。洸太、なんで輝夜ちゃんを襲わなかったのよ」

「だって輝夜は俺の眷属なんだろ。味方を攻めるのはおかしいじゃん」


 ゆったんが自分達で設定したことを、きっちり守った俺に対して理不尽なクレームをつけてきた。


「ユイナ。あの輝夜ちゃんの肩を抱いて、不敵に笑いながらコウタに辱められたあの光景は永遠に私の記憶に残り続けるわ。まさに魔王。エロちん大魔王の姿が!」

「私もです、お姉様。あれは恐怖そのものでした」


 咲耶とワカたんが酷いことを言う。

 ロールプレイって言ってたのに、どうしてその通りにしたら文句を言われなきゃいけないんだよ。

 すぐ横を見なよ。ひめたんなんか何一つクレームつけてこないのに酷いよ!


「コウタもお姉様達もユイナも輝夜ちゃんも、一体何してるんですか! もっと慎しみを持ってください!」

「ふっ、これだから小娘は」

「ヤガミヒメお姉様!」

「あなたの世界が小さいだけなの。出直してきなさい」


 うん。駄目だよ、美緒。ひめたんの色欲は天井知らずだからね。反論するだけ無駄だよ。


「しかし釣れないなぁ。パパさんはあんなに大漁なのに」

「やはりママの応援のおかげのかしら」

「それじゃあまるで私達が悪いみたいじゃないの」

「だから輝夜は言ったのです。大物狙いはやめろと」


 あのさ。応援はいいから釣りしなよ。

 せっかくみんなの分の仕掛けも用意したのに使わないなんて勿体無いだろ。


「あっ、これは。きたぁーー!」


 釣竿が一気にしなる。釣竿を前後に動かしながらリールを巻く。もの凄い引きだ!

 その力強い引きに負けないようにブルワークを足場に踏ん張るけれど。


「洸太、負けるな!」


 ゆい姉が後ろから俺を支えてくれた。


「ゆい姉、ありがとう!」

「ゆったんよ!」


 船から二十メートル先くらいで獲物が跳ねた。その姿に慄く。


 胴体はサメ、顔がオーガ。

 何よりも怖いのは二本の腕がついている……


「オーガシャーク!」

「な、なに。あのテカテカぬめっとした顔。気持ち悪いよ、洸太! なんてものつってんのよ!」


 ゆったんに耳元で大きな声で怒られる。

 ひどい。釣りたくて釣った訳じゃないのに。

 オーガシャークは逃げる為に海上を跳ねる。

 そこのタイミングを狙って、ゆったんのファイヤーランスが放たれ、オーガシャークの横っ腹を貫いた。


 低くて不気味な断末魔をあげた。


「やったのか」

「夢にでそう」

「あれは無理。生理的に無理」


 リールを巻くか悩む。あんなの近くで見たくない。

 そんな事を悩んでいると輝夜がハサミで釣り糸を切った。


「さようなら。そして深く沈め。二度とその姿を現すことのないように」


 輝夜は風で揺れる髪を片手で抑え、哀愁たっぷりに少し遠くの海を見つめた。


「かっこつけんなよ」

「 ……私の素敵なレクイエムシーンを邪魔しないでください」


 そんな輝夜を美緒が真似る。


「あなたの死が、永遠の闇で覆われますように」


 怖いこと言ってるけど、聖職者的なオーラを感じさせる。


「はい、カット!」

「うん、いいラストだ!」


 ママさんはメガホンを片手に。パパさんは構えていたカメラを下げて、そんな感想を口にした。


「なに遊んでるんですか」

「そりゃあ、あんな珍しいものがヒットしたら撮影するだろ」

「良い家族ムービーになりそうですね」


 ママさんはとても嬉しそうにパパさんの腕に抱きついて喜んでいた。


「輝夜って承認欲求が強いんだな」

「違います! ラストの哀愁ヒロインが好きなだけです」


 輝夜にあきれて、美緒に視線を移す。


「私も違いますから! 聖女が好きなだけですからね!」


「ずるい。撮影してるの知ってたら私も参加したのに!」


 ワカたんが地団駄を踏む。


「大丈夫よ。みんながコウタくんの為に、こっそり魔法を撃とうとしていたシーンは逃していないわ。ちゃんとパパがカメラに収めたから、完成を期待していて」


 三姉妹はとても喜んでいる。

 一方で俺とゆったんはイマイチ納得いってなかった。

 なぜだろう。ヤラセ感を覚えてしまうのは。


 人面魚といい、オーガシャークといい。変にトラウマになりそうで怖い。

 この星のモンスターは気持ち悪いのだらけなのだろうか。であれば遭遇しないことを祈ろう。ゆい姉に。

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