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「マスター、ありがとうございます」
輝夜が俺の背中に体を寄せて頭をつけた。
「らしくないヘマして。たまたま悪い予感がして来てみればあれだからな。でも間に合ったみたいで良かったよ」
しばらく輝夜が落ち着くまでそのままこうしていた。
「マスター、ごめんなさい」
「どうして謝る。なんか悪いことでもしたのか」
「あんな姿。軽蔑しましたよね」
「別に。今更だろ」
輝夜が俺の腰に手をまわした。
「ごめんなさい」
泣いていた。あの輝夜が……
彼女が泣き止むまでこうしていた。
雨音が静かに響く。互いの鼓動の音のように、ただ静かに部屋に響く。
泣き止んで、そっと彼女は離れる。
俺は彼女に振り返り、まだ乾かない彼女の涙を指で拭う。
「どんな事があっても。何があっても俺は、輝夜を嫌いになったりなんかしないよ」
「マスター、輝夜もです」
「うん。わかってる」
「わかってるじゃないんですよ」
胸をポカポカと何度も両手で軽く叩いていた。
そんな輝夜がかわいくて、俺は彼女の後髪を撫でた。
「気が済んだら、明日の釣りの仕掛けをつくるぞ」
それから二人で人数分の仕掛けをつくる。
「こんな物まで日本で買ってくるとは。これ、多分めちゃめちゃ高いやつだろ」
たいして詳しくもない俺でも知ってる有名メーカーの海釣り用の竿とリールをみてボヤいた。
「パパさん、川でしか釣りをしたことがなくて。一度やってみたかったそうです」
「あれだよな。遅咲きの青春まっしぐら、みたいな感じ」
「嫌ですか」
「んにゃ。好感度アップだな。しかし釣りで思い出したけど。地球で食べてる動物や魚が似てるよな」
「こちらから食用で地球に連れていったそうです」
地球の牛や豚なんかのご先祖様ってことか。
なるほどなぁ。
「なぁ、エルフもこの星には居るんだよな」
「エルフなんて言ったら怒られますよ。長耳族です。小人族もドワーフなんて呼んだら叩かれますからね。気を付けてください」
まじかあー。意味わかんないけど気をつけよう。
まあ、うっかり言っても土下座すればなんとかなるだろうしな。うん、そうしよう。
「で、明日なに釣るの」
「聞いた感じではマグロに似たものです。ただ、角から」
「角から」
「雷撃を放ったりはしないそうです」
「地球でもしねぇよ! それに角があったらカジキマグロだろうが!」
俺の渾身のツッコミに輝夜はただ微笑んでいた。
もう少しリアクションが欲しいところではあるが、中々の笑顔なので良しとする。
「あ、もう人間になりましたからね。マスター好みに微修正できませんから悪しからず。です」
「微修正してたのかよ」
「もちのロンです。常にマスターご期待以上に応えるのが一流のメイドですから当然です」
ほんとかあ。ちっとも期待以上に応えられた覚えはないんだが。
「たまに見惚れる時はあるしな。あの白いワンピース姿とか。まあ、あれだ。見てくれだけは最高だよな」
「見てくれだけって。最低ですね、マスターは。ふん!」
顔は背けているが、どこか嬉しげだよな。
やっぱり褒めて欲しかったんだ。なら、もう少し上手い流れをつくればいいのに。褒めたくなくなるような事ばっか言うからな。ほんと下手くそなんだよ、輝夜はさ。
『本当に準備してますわ』
『期待はずれです』
『だから洸太はそんな真似しないって言ったでしょ』
『これは結菜の勝ちですね』
どうやら怪しんで見に来たようだ。
あれか。バカンスに来てからしてないからか。
もしかして欲求不満か!
マスター。と小さく彼女は囁いて、俺の頬にキスをした。
それを見た四人が部屋に流れ込んでくる。
けれど彼女の心意を察して、こう応える。
「はい。のぞき魔ホイホイご苦労さん」
「私達はのぞき魔じゃなんかじゃありません!」
「のぞいてたじゃないですか」
「やられたわ。輝夜ちゃん、腕をあげたわね!」
何故かゆったんは勝ち誇ったように輝夜を指差した。
それがなんかおかしくて輝夜と一緒に吹き出して笑った。
「な、なによ!」
ゆったんに二人まとめて上から頭を叩かれた。
けど、叩いたゆったんの顔は赤い。恥ずかしさからの逆ギレなんだとすぐに分かった。
「そんなに暇なら手伝って欲しいんだけど」
俺のそんな一言でゆったん達が手伝ってくれる事になった。
ただ人数は増えたのに進まない。
作り方を教えたりしながらというのもあるが、一番の理由は無駄話が増えたことだ。
しかし、もしかしたらなのかもしれないけれど。目のやり場に困った俺の集中力不足が一番の原因なのかもしれない。みんな、まる見え過ぎるよ。
流れというのもあるが、目の前で一番見えている咲耶に俺は最初に襲いかかった。
「始まりましたわ。女勇者パーティープレイが!」
ゆったんの手によって輝夜が無理やり脱がされている。その光景が俺を一層滾らせた。
魔王とその眷属VS女勇者パーティー
この戦いは激しく朝まで続いた。
激闘の末に共倒れになるまで。
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