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「夜の擦り合わせをしましょう」
「結菜様。それなら輝夜は関係ありませんので部屋に戻ります」
「待ちなさい輝夜ちゃん。既に証拠はあがってるの。あなた。洸太の初めてを奪ったわね」
輝夜は壊れた人形のようにカクカクと振り返る。
そして三姉妹はその事に驚いて輝夜の背を眺め、輝夜と視線を合わせる。
「奪ってません」
「白らを切るつもり。証拠の映像を私は入手してるわ。なんならこの場で火夜子に言って映しても良いのだけれど」
結菜は両肘をテーブルについて、顔の前で手を組んで不敵に笑っていた。
「嘘です。そんな物は存在しません」
輝夜は一か八か賭けた。大体それを輝夜以外に持っているのはアマテラスだけだ。彼女が絶対に秘匿したい映像を他の人に渡すはずがない。
そう踏んでの強気な否定。
しかし結菜は、静かに「そう」とだけ言うと指をパチンと鳴らした。
火夜子によって立体映像が投影される。
寝ている洸太の腰に跨り、あられもない姿を晒す輝夜を。
「なっ、そんなフェイクを用意してまで結菜様は輝夜に何をさせようとしているのです!」
「やっぱりですか。私の睨んだ通りでしたね」
「セオリツヒメ様違います。これはフェイク動画です!」
必死に輝夜は否定する。しかし誰一人それを信じる者はこの場にはいなかった。
「ああ、懐かしいな」
「マスター!」
輝夜はもうお終いだと心の中でつぶやく。しかし洸太の口から出た意外な言葉に口を抑える。
「それ、遊びで作ったんだよなぁ。リアルに合成するのも大変でさぁ。超輝夜に怒られながら編集してたのを思い出す」
「なに言ってるのコウタ。これはアマテラスから」
「そう、それ! 輝夜から俺の精子保存目的で無理やり命じられてるって言われて悲しそうな顔をしてたから、アマテラスに嫌がらせがてら作った訳。なっ、絶対に引っ掛るって言っただろ、輝夜」
洸太は輝夜に歩み寄ると。小柄な輝夜のその小さな頭を撫でた。
「 ……はい、マスター」
咲耶は誰にも気付かれないくらいに、ほんの一瞬だけ眉を顰めた。
「あのさ、ゆったん。俺、輝夜に用があってきたんだ。借りてもいいかな」
「うん」
「明日のママさん達が遊ぶやつを作るから、もしかしたら朝までかも。ごめんね、女子会の邪魔して」
「大丈夫。うん、がんばってね」
洸太は輝夜を連れて部屋を出ていった。
残された結菜は大きく息を吐いた。
「ごめん。嘘情報に騙されたみたい」
「いえいえ。結菜は悪くありませんわ」
座っていた椅子の背に仰け反るようにもたれ掛かる結菜を咲耶はじっと見つめる。
「あなたにしては簡単に騙されたものね。でも夜の擦り合わせで何故、輝夜ちゃんを」
「ん、ああ。アマテラスが言ってたんだよね。本物の人間になってから感情の揺れ幅が凄いって。だからさ、輝夜ちゃんもコウタを大好きな訳でしょ。無理して距離を取ってるだけで本当は私達みたいに抱かれたいんじゃないかなって。素直に心の内を晒す訳がないから策を用意したけど、駄目だったかあ」
結菜は額を手で押さえる。そして心を切り替えて、また話し始めた。
「ローテとしては一人、みんな、一人、みんな。みたいな感じで今後もそういきたいと考えているんだけど、どうかな」
軽く顎に手を当てて、三姉妹は考える。
そして全員がその案に同意した。
「ありがと。でも私、複数人との経験がないから上手くリードしてね」
「心配いりませんよ。私達だってそんなにありませんから大丈夫ですよ」
「あははは。そうなの。てっきり毎晩ハーレムしてるかと思ってた」
「してません! それに最近はお母様の目もありましたし、してません」
「そうですわ。それに複数で挑むとあの黒い蔦が。あれは駄目なの。もう戻れなくなりそうで」
急に三姉妹がモジモジしだした。
その様子に結菜は首を傾げる。
「黒い蔦?」
「金剛律子が禁呪指定した魔法です。ワカヒルメの話を聞いて、興味本位でしてみたの。そうしたらもうあまりの気持ち良さに心が壊れそうになって。恐ろしくてあれ以降してないわ」
ああ、と軽く手を叩く。
「あれいいよね。普段は私の方が上なのにさ。蔦に巻かれて吊るされたりして、あのくっ殺ろ的な感じがいいよね。うんうん、分かる。あれは確かに気持ち良い」
その楽しそうに話す結菜に、さすがの三姉妹もドン引きしていた。
「けれど私はそんな事で屈服なんてしない!」
うんうんうん。と三姉妹は食い入るように耳を傾ける。
「あの蔦から解放された私は逆に」
「逆に」
「私のこの長く繊細な指と極上な手触りの手を完全再現した腕を」
「腕を」
「いくつも出して洸太を逆に絡めあげたの」
「絡めあげた」
その光景を三姉妹達は頭の中で思い浮かべる。
「そこから逆襲よ。いくつもの手で洸太を攻めるの。そして言葉でもね。いわゆる、勇者ごっこよね。私が女勇者で、洸太が魔王的な感じのロールプレイ。あれは確かに気持ちいいし、とてもすっきりするよねぇ。」
「あなた達って凄いのね……」
「 ……凄すぎです」
「それですわ!今度私達勇者パーティで魔王に挑むの! あああ、想像しただけで濡れますわ!」
おそらくこの中で一番性欲の強いであろう、ヤガミヒメがとんでも発言を繰りだした。
それにはさすがの結菜も引いていた。
「ちい姉様は本当にエッチですよね」
「あなたには言われたくないわ。大量潮吹き女のあなたにだけは」
そんな二人の妹の口喧嘩に咲耶はこめかみに手を当てて、うつむきため息を吐いた。
「ねえ、アマテラスと律も呼んでいいかな」
「婚約者ですよね。構いませんけど、初めては二人きりにしてあげた方がいいんでは」
「そう。だからね。協力して」
「はい。私達で良ければ協力します」
その答えに結菜は満足げに何度もうなづいていた。
ただこれが騒がしいバカンスの始まりとなる。
永遠に、忘れらない夏が始まった。
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