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初めて知った。いま知った。
この世界には魔物。モンスターがいるらしい。
(コウタくーん。輝夜ちゃーん、あまり沖にいくとモンスターに襲われるわよーー!)
調子に乗って泳いでいると浜辺からママさんが叫んで教えてくれた。
「はーい!気をつけまーす!」
海からママさんに手を振って返事をした。
そんな手を振った先のママさんは今日もセレブだ。ん、ママさん達は毎日セレブ。本物のセレブか。
立ち泳ぎしながらそんな事を考えていた。すると突然、足が海の底へ引っ張られる。
ジタバタして顔を半分沈めながらもがく。
「ぶわっ、うぷっ、やばっ」
このままでは確実に溺れる。必死に周りを見て輝夜を探すも、その姿は見つからない。
もしかして先に輝夜が狙われたのか!
とうとう海の中に引き込まれた。
半目で足先を見ると、俺の足首を掴んでいたのは輝夜だった。しかも浅い。輝夜は海底に横たわるように足を引っ張っていた。
自分のマヌケさと、輝夜の笑いを我慢してる顔が面白くて吹き出すと気泡が海面にゆらゆらと登っていく。
「ぷはっ!輝夜、何すんだよ!」
「輝夜はマスターのリクエストに応えたまでです」
「そんなリクエストしてねぇよ!」
輝夜は俺の言葉を否定する。ポカポカと何度も頭を叩きながら。
うーん、確かそれってアニメのシーンだよな。引っ張ったのは男だけど。
「あんまり暴れて水着がポロリ。そんで水着が波に攫われても知らないぞ」
今日の輝夜の水着は白いビキニだった。
ちなみに輝夜も咲耶達三姉妹も毎日違う水着を着ている。まぁ、まだ四日目なんですけど。
「イテッ!」
腰に何かが体当たりしてきた。それもかなりの勢いで。俺はそのまま押されるように輝夜に抱きついた。
「マスターだいっ。何こんな時に硬いのを押し付けてるんですか!変態ですかっ!」
「お前そんなことを」
俺の顔目掛けて、海面から飛び跳ねてきたその正体に驚く。
「じ、人面魚!」
しかもでかい。それに気持ち悪い!
思わず拳がでる。
目を瞑って繰り出した拳は偶然人面魚の顔面にクリーンヒットした。
「ナイスです。マスター!」
目を開けてみると人面魚はクルクルと宙を舞って海に落ちた。
「輝夜、逃げるぞ!」
「はい!」
必死に逃げて波打ち際で荒くなった息を整えていると咲耶達が笑ってタオルを差し出してきた。
「お母様が忠告したのに」
俺と輝夜はタオルで顔を拭いてから首にタオルを掛けた。
「気持ち悪かったです。あれはトラウマになりそうです」
「ああ。あれはマジでやばい」
腰を曲げて両膝に手をつきながら、いまだに整うことのない荒くなった息を吐き続けていた。
「でもお二人とも食べられなくて良かったですね」
ひめたんのその言葉に二人で顔をあげる。
「普通はガブっとされてますからね」
ひめたんの隣にいるワカたんが、なんでもないように話す。
「そんな危ないやつに襲われたのに笑ってんだよ!」
「いやぁ、偶然放った拳でまさか撃退するとは思わなくて。あはははは」
「ワカヒルメ様、笑い過ぎです!
腹を抱えて笑うワカたんに俺と輝夜はジト目を向ける。まさか他人にジト目を向ける日がこようとは思ってもいなかった。
「コウタも輝夜ちゃんもそんなに怒らないで」
咲耶が両手を差し出すが、その表情はどう見ても笑いを堪えているようにしか見えなかった。
二人揃ってその手を軽く叩き払う。
そのままスタスタと拗ねるように歩いて、ママさん達のいるパラソルへ向かった。
「ったく、人の不幸を」
「そうですよ。あんな気持ち悪いのに襲われたのに。しかもマスターは硬いの押し付けるし。ほんと最悪ですよ」
ん、なんだ。
輝夜に全然手を出さないから怒っているのか。
あああ、あれか。嫌よ嫌よも好きなうちってやつだな。
「違いますよ!」
ビシッと肩を平手された。たぶんこれは手形が残るだろう。あとで記念に写真でも撮っておこう。
輝夜が拗ねた証拠ですって、ゆったんに見せないとな。
「拗ねてません!」
いたっ! やっぱり輝夜は読心スキル持ちか。
「あなた達はあきれるくらいに仲が良いわね」
「コウタは輝夜ちゃんを正妻にした方が上手くいくんじゃないか。私達もその方が色々と助かるしな」
「なんたって輝夜ちゃんは働き者ですからね」
ん、輝夜は違うな。
どちらかというとお姉さんだな。
「誠に不本意ですが。今回はマスターに同意します。それと。お姉さんではなく、お姉様と正しく言ってください。輝夜は普段、マスターがいやらしい目で見ている近所のお姉さん達じゃないんですよ」
そんな目で見てねぇよ!
誤解されるようなこと言うな!
やれやれといった感じで。俺はうつ伏せに倒れるように椅子に寝転んだ。
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