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突然の輝夜ちゃんからのメール。
私に会いたい人がいるので此処に来てくれないか。みたいな。
その呼び出された場所が大問題だった。
行ったこともない高級老舗ホテルのレストラン。
取り敢えず一張羅のスーツを着て、そこへ向かった。
「ちょっとお尻がきつい。気がする。大丈夫、私は太ったりしない」
「結菜様。何お一人でブツブツ言っておられるのですか」
振り返ると輝夜ちゃんがいた。
どうやら私を待っていてくれたようだ。
「洸太も一緒なの」
「いえ。マスターは訓練疲れでダウンしています。それより服のサイズが少し会ってませんね」
輝夜ちゃんは私を化粧室に連れ込みスカートを脱がせた。そして慣れた手つきで、あっという間にスカートをお直ししてくれた。
「あ、これなら座っても大丈夫。破けたら嫌だと思って電車も立って来たんだよね」
「結菜様はお金持ちなんですから、新しいのを買えば良いのですよ。お金は使ってナンボだと輝夜は思います」
そんな会話をしながらエレベーターで上り、目的地のレストランに緊張しながら入ると貸切りだった。
「ねえ。こんな所を貸切り出来る人って……」
「会えば分かりますよ、結菜様」
給仕の人に案内されて、そこに居た人は四十手前くらいの男女。おそらく二人は夫婦でしかも偉い人だとすぐに分かった。
座る前に立ったまま二人と握手をして挨拶を交わす。
「はじめまして。私は惑星ティアマトの皇帝をしているナーシャよ。よろしくね。結菜さん」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「私は彼女の夫でナーヴだ。今夜はお忍びだから、君も楽にして欲しい。それと今君に名乗った名は私達の真名だから君だけの秘密にしてくれ」
それから席について、好きなもの頼んでくれと言われた。そしてもし良ければ、何も知らない私達にお勧めしてくれと頼まれる。
料理の名前は知ってる。手頃の値段のレストランでなら洸太と食べたことがある。
けれど、高いところのは色々と違うと聞いた。
「あの、私もあまりこういう処のは知らないんです。だから、お口に合うか分かりませんが頑張ってみます」
そう断りを入れると、馬鹿にしたり見下すような目は向けられなかった。逆に優しくしてくれた。
では君の気になるもので冒険してみようじゃないかと。楽しそうにそう言ってくれた。
私の頼んだ料理は気に入ってもらえた。
とても美味しそうに笑顔で二人は食べてくれた。その事がとても嬉しく思った。
食事の間、色々な事を話した。洸太のことや、私の仕事のこと。とても親身に隠すことなく話してくれた。
「最後にこれを君に渡したい」
小さな化粧箱に入ったナーシャさんの髪の色と同じリング。
「これは」
「想い人への指輪。もっともこれは私が作って、ナーシャが使っていた物だ。私達がまだ結ばれる前。彼女が皇位継承権を懸けていた頃に互いに同じ物を持って参加していた。これはね。そんな時に離れていても一瞬でその人に会いにいける指輪なんだ。私は彼女のことがとても心配でね。彼女がもし危険な目にあったらすぐに私のもとへ来れるようにと、彼女に贈った指輪だ。君が指輪にコウタに会いたいと願えば一瞬で彼のもとへ行ける。勿論、君の家に戻ることもできる。どうかな、私達は君にこれを持っていて欲しいんだ。受け取ってくれるかい」
「そんな大切なものを私にですか。どうして」
「私達家族はあなたから彼を横取りしたようなもの。けれど、彼が私達の息子になるのならば、この星で彼の妻である、あなたも私達の娘だと思っているわ。こんな事ではきっと償いにはならないでしょう。でも、これで私達も償いにしようとは考えてはいません。ただ純粋に、結菜さんに大好きなコウタくんに会える。そんな道具を贈りたかったの。私達夫婦は彼があなたのことを誰よりも愛しているのを知っています。それは私達の娘も。だからそんなあなたに、寂しい思いはさせたくないの」
ああ、優しい人達だ。洸太が懐くのも分かった気がする。
それに私も何故か二人には惹かれる。
「はい。有り難く頂戴いたします」
私は指輪を受け取った。
「あの。最後にお願いがあるの。私達のことをもし、もし良ければなんですが。コウタくんみたいにママさんとか、パパさんとか、呼んでくれないか、なって」
なんかかわいい人。こんな人が皇帝だなんて信じられないくらいに。
「はい、ママさん。これからも、よろしくお願いします!」
「私は呼んではくれないのか、な」
私とママさんの顔をキョロキョロ見て。パパさん、見た目とギャップがあって、マジウケる。
「パパさん。見た目がダンディなのに、そんな風にかわいくなるんですね。パパさん、よろしくお願いします」
その後は本当に笑って楽しく会話した。
そして別れの時、今まで黙っていた輝夜ちゃんが口をひらいた。
「結菜様。きっとマスターは、マスターの知らない間にハイヒューマンにされてしまうでしょう。そうなればマスターは長く生きることになります。マスターの為に、どうか結菜様もハイヒューマンになっては頂けませんか。この輝夜、一生に一度のお願いです!」
輝夜ちゃんが。あの洸太以外に誰にも媚びることもなく。頭など下げたりしない彼女が、私に深く腰を曲げて頭を下げた。
私はそんな彼女の体を起こす。
「あなたがそう思うなら、私はそれに応える。いつもそうしてきたじゃない」
私は彼女を初めて抱きしめた。
こんなに洸太を大切にしてくれた感謝と。私の彼女への大好きな気持ちを込めて。
「あなたが私の腰に手をまわしてくれなかったら断ってやろうと思ったのに。ざんねん」
「結菜様、それはひどいのですよ!」
そんな二人のやり取りをママさん達は微笑ましそうに眺めていてくれた。
そしてママさんが私の傍に来て、私の胸に手をかざした。
それは、とてもとても暖かくて優しい光。
そんな光に、私は身を委ねて癒されていた。
「しばらくは魔力制御に手間取るかもしれないから気をつけてください」
「はい、ありがとうございます」
「では帰ろうか」
「はい、今夜はありがとうございました」
「いや。結菜くん、君もだよ」
え、一緒……
「今、コウタは私達の家にいる。今なら娘達は誰もいないよ。別々に住んでいるからね」
「結菜さんの休暇は私達がもらっておきました。二泊くらいしか出来ませんが、私達の家へ来ませんか」
その気遣いが嬉しくて泣いてしまった。
ママさんに優しく肩を抱かれながら一緒に帰った。
そして洸太の寝顔をみて。私は泣きながら彼に抱きついた。
あああ、本当に幸せな三日間だった。
久々に私は心の底から笑った。
ママさんとパパさんには感謝しかない。
そして帰り際にママさんが私の耳元で囁いた。
「明日からバカンスに行くの。娘達もいるけれど、もし良ければ来てちょうだい。待ってるわ」
私はただうなづいた。
別れ際に洸太があまりにも泣くのでデコピンして気合いを入れてやった。
まったく世話の掛かるんだから。
洸太、元気でね。またね。
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