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咲耶の私室で俺は土下座をしていた。あの有名なジャパニーズ土下座だ。
「お姉様、私もうお嫁にいけません」
「いや、あなた。彼のお嫁さんよね」
「 ……でも、汚されて辱められましたっ!」
最初にやったのはワカヒルメの方だろうが。
「でも、輝夜ちゃんから送られてきた映像によると襲いかかったのはあなたですよね」
輝夜は最初に襲い掛かられた時の映像だけを咲耶にリアルタイムで送っていた。
本当に気の利くやつだ。
「そうです。私とお姉様があの時どんなに感情を揺さぶられたのか分かっていますか。お母様とお父様に、どれだけ叱られたと思っているのですか」
そしてワカヒルメも、俺と並んで土下座した。
「コウタ。ワカヒルメに使ったあの魔法は、金剛律子というあなたの婚約者によって封じられた禁忌の魔法だったのですよね。何故、その禁を破り使用したのですか」
「身の危険を感じたからです」
「お姉様。私はコウタ様の正当防衛を主張します」
そうヤガミヒメが主張すると、後ろに並んで座っている皇帝陛下とその旦那様の方に咲耶は振り返り、二人に意見を求めた。
俺達とは違い。皇帝陛下とその旦那様は愉快そうにこちらを見ている。
「うむ。私はヤガミヒメの主張を支持する」
「そんな、お父様!!」
「黙りなさい、ワカヒルメ! 誰があなたに発言を許可しましたか」
どうやらこれは巷で聞く。家族裁判とかいうやつなのだろう。初めての経験だが、なんとなく暖かく感じる。それに愛も。
「確かにワカヒルメから犯行に及んだのは事実です。けれども、これを過剰に防衛したのも事実。あなた。どうでしょう。ここは喧嘩両成敗で二人に罰を与えるのは」
あれ、皇帝陛下ってこんなに優しい顔する人なんだ。初めて会った、あの時とはかなりのギャップがある。
「それもそうだな。君がそう言うなら間違いないのだろう。ただ、罰とは」
「そうですねぇ。私達もここしばらく休暇も取っていませんし。あの避暑地で私達の相手と世話をさせるのは如何ですか」
「それはいいな。うむ、賛成だ」
「ちょっとお待ちください! あの私達は」
その咲耶の質問に。皇帝陛下とその旦那様は顔を見合わせて笑った。
「セオリツヒメもヤガミヒメも、忙しいのではありませんか。今回の後処理もありますからね。ああ、とても残念です」
「そうだな。久々に家族水入らずで、と思っていたのだが。そうだよな。忙しいなら諦める他ないか」
愉快そうに二人に向けて話す。
しかし、当の二人は必死に説得の言葉を探しているようだった。
「私達も連れていってください。お願いします!」
二人は同時に叫び。そして同時に土下座した。
「まあこんなに素直に、かわいい娘達にお願いされたら断れないよな」
「はい。あなた」
こうして咲耶達は一週間後の長期休暇に向けて、馬車馬のように働いていた。
その一方、俺はというと。
咲耶達と離れ。皇帝陛下の住む宮殿で生活していた。またその際、輝夜も人間大の大きさでいるように厳命された。その為、輝夜が嫌がるかと思っていたが素直に従い。しかも楽しそうに俺と皇帝陛下夫婦と団欒できるようサポートしてくれていた。
「家族と一緒に過ごすと。こんなにも気持ちが暖かくなるんだな。両親の記憶はないけど、今でも両親が生きていたら、こんな感じだったのかな」
「そうだと思います。お二人が本当に良くしてくれて良かったですね」
ベッドの中で隣にいる輝夜がそう穏やかに話す。
「なあ、輝夜。俺もあんな風に家族をつくれるかな」
「そうなるよう。輝夜が全身全霊を懸けて、マスターをしっかりサポートいたします」
「なら安心だな」
温もりの感じる輝夜の肌。
俺の理想を叶えた彼女は実際、とても綺麗だ。
誰よりも長くいて、側にいてくれたのは輝夜だ。
もちろん、それはサポートAIなら当たり前のことで。ゆい姉とかと比べる事ではない。
「マスター。今、輝夜はとても幸せです」
「そっか。なら、輝夜がずっとそう思えるよう頑張るよ」
輝夜の言う通り。俺はやはり他の人より性欲も強くて、その子種の量も多いのだろうか。
ふとそんな疑問が頭に浮かぶ。
輝夜は言った。
私を愛さなくてもいいと。
私がマスターを愛するだけだと。
(輝夜は、マスターの最高のサポート。銀髪メイドですから)
だから私の事はお構いなく。
そう言って。俺が泣いてばかりいた子供の時のように優しく微笑んでくれた。
まぁ、いつまでも輝夜が、俺ファーストでいてもらえるように努力しよう。
きっと、それが輝夜にとっての一番だと思うから。
「それは違います。輝夜の一番は、マスターの幸せです。そこは絶対に間違えないでください」
「そんな事が本当に」
「昔から何度も言いますが。輝夜はマスターが幸せそうに、穏やかに笑っている姿が一番好きなのです。その為に輝夜はずっと努力してきたのですよ。何度も言いませんから、しっかり覚えてください。輝夜の一番はマスターの幸せです!」
そう言って背中を向けられた。
なので、背筋を撫でてイタズラをする。
「ひゃっあぁ! いきなり何するんですか! 今の私は人と変わらない超敏感輝夜なんですよ!」
振り返り様に頬を叩かれた。そしてまた背を向けられる。
おやすみ。と輝夜に言って目を閉じた。
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