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 私にとって両腕と呼べる存在は二人の妹だ。

 内政や外交のヤガミヒメ。軍事のワカヒルメだ。

 そんな私達三姉妹は幼い頃から大の仲良しで、私達は皇位継承権を懸けて戦わないと誓っていた。


 その絆は成人しても何一つ変わらなかった。


「皇太子殿下。本当に惑星ニビルに侵攻なさるのですか」

「くどい。何度も言わせるな、ヤガミヒメ。私の代で、この因縁に決着をつけ終止符をうつ」


 ヤガミヒメは敢えて戦争には反対の立場を取らせている。その方が何かと都合がいいからだ。


「私の成婚パレードが終わり次第、侵攻を開始する。いいか、私はいつまでも戦争を長く続けるつもりはない。短期間で終わらせる。そのつもりで貴様も準備しろ。分かったならばワカヒルメの様に速やかに取り掛かれ!」

「御意」


 こうしていれば勝手に虫がヤガミヒメに寄ってくる。損な役割だが、これは彼女から希望した事だった。


(一緒に住んでしまったら、あなたの役割に支障が出ない)

(いいえ。叛意なしと思われる為のもの。とでも言っておけばいいのです。同じ夫を持つのもその為だと)


 彼女は温厚で優しい。それは万人が認めるところだ。けれど、彼女の本質はそこじゃない。勝つ為に入念に策を練り、敵を欺く為なら徹底的に仮面をかぶる。

 私が寝首を掻かれるとしたら、ヤガミヒメ以外にはいないだろう。


 但し、私の真偽の魔眼を偽れるのならばの話だ。この魔眼については誰にも話してはいない。敬愛するお母様にさえも。


 きっと誰よりも傷つくことを恐れる、そんな臆病な私にだからこそ、宿ったものなのかもしれない。


 まぁ、全てのきっかけはお母様の言葉だと思う。


(最初に男の子が生まれてほっとしたの。皇帝としては失格なのかもしれない。けれど、私はあなたや、その次に生まれてくる子供達に、私のように姉妹で争って欲しくはないの)


 悲しそうな顔で私を膝に抱きながら、お母様はいつもそう話してくれた。

 だから私はお母様が悲しまないように、全力で努力してきた。

 一番上の妹が生まれた時に。その顔を見て、彼女を恐る恐る腕に抱いた時に、私は決意した。

 このかわいい妹とは争わない。私が全てを懸けて全力で守ると。

 それは二番目の妹が生まれた時も同じ気持ちだった。寧ろ、その想いが強くなった。


 ところが。そんな私の想いとは裏腹に、あの自由奔放なお兄様がやらかした。

 イザナミという名は、産まれた時の魔力量が決められた高い基準値を超えた者につけられる仮の名だ。

 お母様は末妹でその名を授かった事から悲劇が始まったと考えていて。今までお父様とともにその魔力を計測する装置を必ず基準値より下がるよう細工したものを使って私と二人の妹の魔力量を偽ってきた。それなのにお兄様は末妹の時に限って、そんな低くはないはずだなどと物言いをつけて、末妹の計測を装置を変えて再計測させた。

 たまたまその時、お父様は席を外していて、そして戻ってきた時にお兄様のしでかした事を知った時の、お父様の激怒した顔は今だに忘れられない。


 それからお父様は、お兄様をまるで虫ケラを見るような目で見るようになった。

 お母様もお兄様の愚行を知り、産後すぐに体調を崩した。そしてその後、見捨てたようにお兄様を突き放した。


 それはそうだろう。今まで必死に隠してきた事を。そんな言い掛かりをつけられる立場でもないのに半分暴れて再計測をさせたのだから。


 ちなみに私も、下の二人もその基準値は優に超えていた。寧ろ、一番下の妹が一番低くかった。


 あのお兄様のせいで何度計画が破綻されかけた事か。上手くいっていた裏工作を何度邪魔されたことか。思い出しただけで腹が立つ。

 何が俺が味方につくよ。ついて欲しくないわ! と、何度妹達と叫んだことか。

 それに私は半分お兄様に犯されたようなもので、あの時は後で本気で泣いた。

 コウタに真実は言えなかった。あのお兄様のこと、彼にきっと自分を過大に話す事が目に見えていたから。


 でも敢えてコウタに大袈裟に話を作って聞かせたのに、彼は軽蔑した目で私を見なかった。

 そして彼が、私に告げた言葉に嘘はなかった。


 彼と出会った瞬間から、私は恋に落ちていたのだけれど、ますます彼を大好きになった。


 羽ペンを動かす手が止まる。

 彼に会いたいと、少し顔をあげて外を眺める。

 そして私は小さく息を吐く。


「私、彼が星に戻った時、一人で耐えられるのかしら」


 私の頭の中で、そんな不安がよぎる。

 机の上にある小さな化粧箱を開ける。

 その中には私の髪の色と同じ色をしたリングが入っている。


「彼はこれを使って、私に会いに来てくれるのかな。会いに来てくれたら、いいな」


 そう祈りを込めて、化粧箱の蓋を閉めた。


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