22
夢のような夜だった。
お蔭で、模擬格闘戦の見学を遅れていくハメになった。
寝不足のまま、重たく感じる瞼を必死に開く。
しかし、そんなのはすぐに解消された。
目の前で激しく繰り広げられるバトル。
ロボットバトルさながらの熱い戦いがそこにはあった。
砲撃を放ちながら縦横無尽に飛びまわるその光景に心が熱くなる。
「凄い迫力だ。何あれ、ビームか、ビームなのか!」
主に距離を取っての闘いなのだが、時折り接近しての激突が凄い。
蹴りやパンチ。またはレーザーブレイドとかいう武器での格闘が手に汗握る。
「マスター、興奮し過ぎです。恥ずかしいです」
拳を振り上げて大声で叫びながら応援していた俺に輝夜が苦言を呈した。
ふと周りを見ると、咲耶は微笑み、二人の妹さん達は苦笑い。ウズメさんに関しては呆れていた。
「すみません」
「コウタ、謝ることはないわ。私はそこまで気に入ってくれた事が嬉しい」
微笑みながら咲耶は頬にキスをしてくれた。
それを見た二人の妹達があっけに取られていた。
「あのお姉様が人前で」
「信じられませんわ」
「いつもの事ですよ」
ウズメさんだけが、やれやれといった感じでため息を吐いていた。
まぁいいか。と思いながら、また模擬格闘戦に意識と視線を戻す。
背中に付いている四角いパーツから五発のミサイルのような物が放たれた。
一度上空に上がり弧を描いて前方に向けてそのミサイルは飛んでいく。
相手も避けようと横に逃れるが、ミサイルはそれを追尾していく。
だが、相手は急に立ち止まるとニヤリと笑ったような、そんな気がした。実際は顔が隠れているので分からないけれど。
迫り来るミサイル五発。けれど最初とは違い四方八方から迫り来るのではなく、まとまって一直線に並んで向かってくる。それをギリギリで跳ねて躱しながら両手に持ったレーザーブレイドでミサイルを切ると、しばらく先に進んでミサイルは爆発した。
「ふぇー、こういう方法もあるのか。凄いなぁ、とても勉強になる」
そうだよなぁ。まとまってきたら叩く。これなら破壊しやすくなるよな。簡単な事ではないけど、とても参考になる。追尾型の魔法攻撃にも使える手だよね。
「ですね。マスターはかっこつけてその場で動くことなく斬りたがりますからね」
「それしか手がないと思ってだけだから」
そんな話をしているうちに、ミサイルを華麗に躱した人が勝利を収めていた。
「このユニットって巨人族の人達だけなの」
「私達用のもあります。ただ、巨人族の方達の方が身体的に強いので主力としています」
ワカヒルメさんが胸を張って説明してくれた。
なぜ彼女が誇るのか分からないが。
「そうなんだ。まあ、大きい方が力が強いよね」
「そうなんですよ。これは肉体的にどうしようもない差ですからね」
こうして満足して見学を終えた。
俺と咲耶が帰ろうと乗り物に乗ると、なぜか二人も笑顔で乗ってきた。
「あなた達、どうしたの」
「一緒に帰ろうかと思いまして。駄目でしたか」
「いえ。ただ、帰る先が違いますよね。それにヤガミヒメは別として、ワカヒルメは仕事もまだ残っているのでしょう」
「え、今日から一緒に、と思っていたのですが」
「はい。なので休暇を取ったのですが、いけませんでしたか」
もう。咲耶は驚く事もなかった。
それはもう。ああ、はいはい。といった感じで流していた。
きっと昔から三人はこんな感じなのだろう。
咲耶は書き物をする時は必ず羽ペンを使用する。
やはりどんなに文明のレベルが上がっても、好みというのは大切にされるのだろう。
それに咲耶が羽ペン使っている様はとても素敵だ。つい俺も真似をしたくなる。
「本当にマスターは影響されやすいですよね」
食事とトイレ以外に大きくなる事がない輝夜が珍しく大きくなって俺の横に立っていた。
「あ、ここ間違ってます。スペルも違いますし、単語が前後逆です」
そんな輝夜はメガネを掛けている。
本人曰く、セクシー家庭教師らしい。
もっともそんな職は、今ではもう無いけれど。
「お前って教え方は昔から上手いけど、あれだよな」
「あれとはなんですか。いくら輝夜でも、あれとか。これとかで分かってあげる程の、お人好しではありません」
うん。ロールプレイ中の輝夜に何を言っても無駄だな。
「私が一時間も掛からずに覚えたものを、なんでマスターは出来ないのですか! 輝夜が悪いのですか。それなら輝夜は悲しくなります。およよよ」
うざっ。
「ですから、そこ! なんで何度も何度も同じ間違いをするのですか!」
俺は頭を叩かれた。
おい。教師の体罰は禁止されてんぞ!
「輝夜は教師ではありません。家庭教師です。そんなくだらない事を言ってないで学習を続けなさい!」
痛っ、また頭を叩かれた。
こいつ、ストレスでも溜まってんのか。
「輝夜、覚えてろよ」
「集中なさい!」
繰り返される体罰に、俺は口を閉ざす。
絶対にやり返してやると心に誓いながら。
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