17
こちらに来て半年が過ぎようとしていた。
その間なにをしていたかといえば、咲耶と銀髪メイドのウズメさんを師とした厳しい。とても厳しい格闘訓練。そして咲耶の公務のお手伝いなど日々忙しい毎日を送っていた。
惑星ティアマト。
咲耶の公務のお手伝いをしていて、この星の名を知った。ちなみにティアマトと長年対立している爬虫類などの姿をした亜人達の星の名はニビルというらしい。
ここ半年でかなりの知識が増えた。
「はい。あーん」
苛烈なウズメさんの格闘訓練により体を動かせない俺は、咲耶に膝枕をされながら食事をしていた。
「姫様、そんなに甘やかしてはなりません。ただでさえ甘ったれの泣き虫男なんですから」
鬼の師匠は辛辣な言葉で訓練中はもとより、日常生活の中でまで俺の心を抉り破壊していく。
「たまにはいいでしょ」
「毎日ではありませんか!」
このやり取りももはや、お約束となってきた。
こんな感じで日々、あと半年後の婚礼パレードまでに、俺は咲耶に相応しい夫となる為に厳しく教育されていた。
「輝夜が全然なんだよ。やっぱりこの星では駄目なのかな」
最初の頃に少し話しただけで輝夜とはそれから話をしていない。ただ、フォームチェンジは出来る事から輝夜が俺のサポートをしてくれている事は確かだ。
「面白いから黙って見てたけど。それ、その子の自業自得だから。ね、輝夜ちゃん」
咲耶がブレスレットに触れると一度光を放った。
どうやら輝夜がそうだと返事をしたらしい。
「え、どういうこと?」
「輝夜ちゃんはコウタの観察記録収集癖のせいで動けなくなってるだけ」
ブレスレットが言わないでといわんばかりに激しく点滅した。
「彼女は最高のコウタの資料館。私も見せてもらったけど、とても良かったわ」
輝夜は観念したのかブレスレットの点滅は止まった。
「まあ、輝夜がしてそうなことだよね。うん。輝夜らしい自爆ぶりに安心した」
「あら、怒らないの」
「なんで? いつもの事じゃん。こんな事で怒っていたらキリがないよ。それに一生懸命サポートしてくれている輝夜にも、このくらいの特典があっても良いかなって思う」
咲耶とウズメさんからジト目が向けられる。
久々のジト目に少し興奮する。
「これを観てもそう言えるのかな」
咲耶が指をパチンと鳴らすと、目の前に俺の映像が投影された。それは幼少期から始まった。
「まあ! この頃はかわいかったのですね!」
ウズメさん。この頃はってひどいよ。
俺とゆい姉、りっちゃんと三人で手を繋ぎながら家に帰る夕暮れのシーン。とてもいいシーンではあるけれど、あの角度からどうやって撮っていたのだろうか。
なんとなく自慢げにブレスレットが光ったような気がする。
「あ、おまえ!」
映像にゆい姉との初体験シーンが流れ始めた。
そしてウズメさんが前のめりになる。
何げにエッチなんだよな、この人。
「このシーンを観た時は、さすがの私も驚いたわ」
初々しい様からケダモノへ変化していく俺。
その編集も完璧で、見事な迫力映像に絶句する。
「姫様、この大きな字幕にはなんと」
「激闘の本日スリーランドめ! 勝つのはどっちだっ!」
俺は咲耶に膝枕されたまま頭を抑えた。
穏やかで無邪気な日常シーンからのギャップが激しくてついていけない。
「な、なるほど。性行為は格闘だったのですね」
「ちがうよ!」「ちがいます!」
純でエッチなウズメさんの勘違いを二人で正した。
駄目だ。このままじゃ羞恥心で死にそうだ。
「輝夜! そうか、こういう映像記録でメモリ不足になったんだな!」
今、名探偵コウタによって事件の真相が暴かれた。
「正解!」
「ふっ。この名探偵コウタの手に掛かればこんな難解事件もすぐに解決さ」
膝枕されたままで額に手を当ててポーズを決める。
「でもね。輝夜ちゃんが一番凄くてかわいいところはコレなの!」
映像が切り替わり、ファンファーレが響き渡る。
マスター恋人ランキング!
そこには俺の趣味思考を反映させ、各項目毎に一人一人を詳細に紹介していく。まさに、TVショーだ。
熱中して観ているとついに一位が発表される。
ファンファーレが響き、その瞬間を待って息を呑む。
いきなり初登場での総ナメぶっちぎりの一位!
咲耶様、おめでとうございますっ!!
輝夜のその見事な司会ぶりで、つい三人でハイタッチをして大喜びした。
そして部屋に続々とお酒が運ばれて、三人での優勝祝賀会がいきなり始まった。
「さすがは姫様です。本当にウズメは嬉しくて嬉しくて……」
その快挙に泣いて喜ぶ。一方、優勝者の咲耶は。
「まあ、料理以外は自信がありました。ここまで快勝するとは思いませんでしたが、当然の結果です」
胸を張って誇っていた。
そんな二人を見て素に戻る。
なあ、輝夜。お前、暇な時にそんな事ばっかして遊んでんのか。
俺、マスターとして恥ずかしいよ。
次の日。輝夜は咲耶の手によって改造手術を受けていた。
長時間(一時間程)の改造手術の末、見事にパワーアップして輝夜は戻ってきた。
実体化も通常ミニタイプから、人間大の戦闘メイドタイプへと自由自在に変更可能。
また、情報処理速度も従来より二百パーセントアップして生まれ変わって戻ってきた。
だが一番進化したのは、輝夜は人と全く同じ身体を手に入れた事だ。どんな技術でそうなったのか分からないが、とにかく輝夜がパワーアップして、俺の前に戻ってきたことだけは確かだ。
「マスターの為に、最強を手に入れた輝夜に死角はありません!」
銀髪ミニメイドは宙に浮かび、胸を軽くポンと叩いて誇っていた。
その姿に懐かしさを覚える。
「ああ、これからもよろしくな」
俺はとても小さい輝夜の頭を優しくそっと撫でた。
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