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 外に出るとタイヤのない車のような物が止まっていて、銀髪のメイドさんが行儀良く待っていた。


「この国のメイドさんは、銀髪じゃないと駄目な決まりでもあるのか!」


 そんな事を言って驚いていると。お姉さんは愉快そうな感じで微笑み、こちらを見た。


「ふふふ、そんな決まりはありません。それに、私の前でそんなくだけた話し方をしたのは君が初めてです」

「それは申し訳ありません」

「謝らなくても結構よ。さあ、乗ってください」


 お姉さんが先に乗り物に乗り、その後に俺が乗る。

 内装は高級感に溢れていて、とても広い。

 そんな乗り物はふわっと浮くと、徐々に速度を上げて地面低く空を静かに駆ける。


 やばい。感動する。これだけでも連れ去られた甲斐があった。

 そして城のような建物の前でそれは止まり、なんの衝撃も伝わることもなく静かに地面に降りた。


 なぜだろうか。ずっと手を繋がれて移動しているのは。そんなに俺は迷子になりそうだと思われているのだろうか。やや、心外だ。


「ここが私の私室よ。さあ、そこに掛けて」


 言われるままに赤の長いソファに座る。

 あああ、これは本当に良い物だ。極上の座り心地だ。


「君、名前は」

「はい。速水洸太といいます」

「コウタ、ね。私はセオリツヒメというわ。もっとも、すぐに名が変わるので覚える必要はないわ」


 名が変わる。結婚でもするのだろうかと思っていると、また笑われた。


「皇帝になると誰しもアマテラーズという名を引き継ぐの。それは、コウタの国の女神の名の語源になったのよ」

「あああ、天照ですか。日本神話最高の女神様ですね。知ってます」

「そう。賢いのね」

「いえいえ、そんなぁ」


 褒められて気分良くなっていると、また彼女に笑われた。少し、恥ずかしい。


「コウタには英雄の血が引き継がれている。その血は失われたと思っていたのだけれど、こうして血が繋がっていた事を、とても嬉しく思うわ」

「え、そうなんですか。なんか呪われた、とか。忌々しい、とか言われましたけど」


 彼女の翡翠色の瞳が、まっすぐ俺を見つめる。


「私以外は、そう言うのでしょうね。時の皇帝の長子でありながら、青の星の人間の側に立って皇帝に叛逆したのだから。けれどね。私は違うと思うの。彼はか弱き人々がただ理不尽に殺されるのを嫌っただけなんじゃないかって。それって、とても勇気のいることで。とても心優しい人だと思うの」


 そういう事だったのか。

 俺のご先祖様はとても凄く尊敬できる人だったんだな。


「だから私は、今行われている青の星に対しての事には、とても嫌悪感を抱いているわ。本当は止めたかった。けれど、他の惑星からも青の星の人類を根絶やしにしようと、私たちより先に侵攻始めたわ。ここで私達が手を引いてしまったら更に状況は青の星にとって悪くなる。だってそうでしょう。彼等に勝てるのは私達だけなのだから」


 ああ、そういうことか。

 そっか。この人は本当に優しい人なんだ。


「そう言ってもらえるだけで嬉しいです。ありがとうございます」


 部屋の扉がノックされ、入室を許可された銀髪メイドが次々と料理を運んでくる。

 あれよこれよという間に、目の前には豪華な食事が並ぶ。


「あれ、僕達の料理と似てますね」

「私の好みよ。調べさせて作らせてるの。さあ、好きなだけ召し上がれ」


 そう言って、お姉さん自らが料理を取り分けてくれた。その美しい所作に見惚れる。

 何から何まで、とても繊細で美しい。そんな感じがする。


「あ、わざわざありがとうございます」

「どういたしまして。飲み物はどうしますか。お酒でも飲んでみますか」


 飲んでみたい。ここは日本ではないし捕まらない。興味はとてもある。


「あの。あったらでいいんですけど、ビールを飲んでみたいです」

「あるわよ。たぶん、コウタの国より美味しいわ。彼の分と私のをお願い」


 やや凍らせたグラスにビールは満たされて運ばれてくる。それを音も立てずに静かにテーブルに置かれた。

 彼女は品よくグラスを持ち上げて、二人の出会に、と言って乾杯した。


 とても美味しい。すごく美味しい。

 ビールも苦いけど、水なんかよりもとても料理に合う。気がする。

 たくさん食べて、いっぱい飲んでいた。

 そんな俺の姿を、お姉さんは微笑んで眺めていた。

 なんか、こっちに来てから一番ほっとする。

 なぜだろう。彼女がゆい姉に似ているからだろうか。


「コウタにはたくさんの愛人がいるのね」


 いきなりの言葉にビールを吹き出しそうになる。


「いやまぁ、そうなんですけど。俺の意思ではないんですよね」

「あら、嫌だと断らなかったの」

「なんか断りづらかったのもあります。それに嫌だ、嫌いだって言えなかったのもあって」

「それでイザナミとも」

「はい。初めて会った時に彼女から戦う意思を感じなくて、最初は話して友達になったら落ち着いてくれるのかなって。それが彼女とは思いが一致していなかったのか、友達ではなく恋人というか、そんな感じで」

「流されやすいというか。これを優しいというのかは、微妙なところね」


 少しうつむいて、小さく謝った。

 そん感じでシュンとしてると、お姉さんが俺の隣に座って、肩を優しく抱いてくれた。

 とても心が落ち着くような香りに包まれる。

 心が急速に癒される、そんな感じがした。


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