10 惑星ティアマト
「ほわぁ、これはすごい。それにあの大きな木も」
自然の地形をなるべくそのままに、石造りの低い家屋があまり密集することもなく美しい街並みをつくっている。遠くにはとても大きな木。俺達の世界でいう世界樹がその存在感を誇示するに立っている。
「なに立ち止まっている。さっさと歩け」
窓と呼べば良いのか分からないが、外が見える大きな枠。そこから景色を眺めているとお兄さんに怒られてまた引き摺られていく。
本当のこれがドナドナってやつか。
「よくそんなに落ち着いてられるわね。馬鹿なの」
輝夜と丸被りの銀髪メイドお姉さんが、あほの子を見るような目で引き摺られている俺を見下ろす。
今居る場所は周りの建物より大きくて高い。なんとなく例えるならば神殿のような感じのつくりだ。
中も一見石造りの感じそのままだけれど、見た感じ超高性能な匂いがする。また、家具や調度品はあれだ。エジプトなんかを舞台にした映画のセットのようだ。たぶん。
そんな大きな部屋に、ここで待ってろと放り投げられた。
「おおお、広いベッド。それに上に幕がついてる。スゲェ、マジハンパねぇ」
『もう少し気の利いた例えが出来ないのですか』
「お、輝夜。お前無事だったか。でもな。高校一年生にそんなちゃんとした例えを求めるな。詳しかったら逆に頭がおかしいだろ」
『まあ、そうかもしれません。輝夜は少し納得できませんけど』
「まあまあ。とにかく輝夜が居るなら安心だな。寝て、お兄さんが来るのを待つか」
『大気に魔力が満ち溢れてますから、なんとか稼働できました。これなら一度スリープして消費エネルギーを抑える必要はなかったですね。ただ、演算に関しては中央演算装置と繋がってませんので、やや性能が落ちます。申し訳ありません、マスター』
実体化する事なく、輝夜の声はブレスレットから聞こえる。
「謝るなよ。輝夜がいるだけで心強い」
『ありがとうございます、マスター。それと実体化は難しいかもしれませんので先に謝罪しておきます』
ほう。それはあれだな。まあいいか。
『ちょっとリソースが足りないので。でもでもですよ。武器形態には変化出来ますし、マスターをメイガスにする事は可能です。危険な時は速やかにフォームチェンジしてください』
「リソースが足りないって。まあ、メインに繋がってないから、しゃあないよな」
『まあそれもありますけど、メモリー不足というか、大切なものをクラウドだけに、というか。そんな感じです』
なんか頭が悪くなってないか。それに話し方もいつもと少し違う。
「なんで足りないんだ。確かすげぇ容量あるって昔自慢してなかったか」
『回答を拒否します』
「はーん、俺に話せないほど後ろめたい事があると」
『その質問に対しても回答を拒否します』
確定。輝夜、黒!
「まあ、今はどうでもいいよ。それよりベッドがふかふかで眠くなってきた」
『マスターって、本当に図太い神経してますよね』
「お褒めにいただき光栄です。ちょっと寝るから何かあったら起こしてくれ」
『かしこまりました。マスター』
「おい、起きろ。なんでこいつはこんなに平然としてるんだ。馬鹿なのか、それともあほうなのか」
また襟首を掴まれてドナドナされて、服を全部脱がされ、カプセルのような物に放り込められた。
銀髪メイドお姉さんに服を脱がされた時、少しの間俺の股間を見つめていたが、あれは一体なんだったのだろうか。
そんな事を考えていたら、どんどん中が液体で満たされ、一瞬溺れ死ぬかと死を覚悟したが不思議な事に息が苦しくなる事はなかった。
さすが神の国。高度文明恐るべし。
しばらく、たぶん三十分後くらいに液体が排出されて、プシューという音と共に上のフタが開いた。
そして応接室みたいな部屋に連れて行かれた。
「貴様の事は分かった。言っていた事は真実だったようだな。まあ、妹を保護してくれたことは感謝しよう」
「あ、どういたしまして。でも、なんで美緒を一緒に連れ帰らなかったんですか」
「貴様は馬鹿か。訳も聞かずに無理やり連れて帰るような真似をしたら嫌われるだろうが。それにあの場では貴様の言葉は誠か嘘かしか判別できん。妹に危険が及ぶような迂闊なことは出来ないだろうに」
仰る通りであります。
案外まともな人なのかもしれない。
「それでこれから俺はどうなるんですか」
「あああ、貴様は返してやる。そして妹だけを連れて帰る」
やっぱりそんな感じですか。
「お兄様。それは駄目です。彼を私に渡してもらいます」
「セオリツヒメ! なんでお前がここに」
「嫌ですわ、お兄様。あまり私を甘く見ないでくださいね。それに、継承者争いはほぼ決着がつきましたから。私、案外暇なのです」
水色の髪。そして翡翠色の澄んだ瞳。
「うわっ、ゆい姉がコスプレしてるのかと思った!」
『マスター、どちらにも殺されますよ。発言には気をつけてください』
部屋に入ってきた。たぶん美緒のお姉さんは興味深そうに、俺とブレスレットを見ていた。
「さあ、君。私について来なさい」
俺は彼女に手を掴まれて立たされた。
「待て。いくらお前でも」
「お前でも。なんなのですか、お兄様」
ヒューと、とても冷たい風が吹いたような感じだった。彼女の視線はとても冷たく。お兄さんを見る目ではなかった。まるで虫ケラを見るような、そんな冷たい、凍るような目だった。
「君、行きますよ」
彼女に手を引かれて部屋を出た。
引き摺られるよりは高待遇だ。なんとなく、その時はなんとかなるかと思っていた。
そう、思っていた。思っていたのに……
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