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 なんちゃってをお楽しみくださいませ。

 心も体も疲れ果てて学園を出るとバイクに乗ったゆい姉が迎えに来てくれていた。


 赤城結菜、二十歳。

 魔導防衛軍三佐で、俺の婚約者だ。


「おつかれ」

「うん。本当に疲れた」

「じゃあ、夜ご飯は豪華にしよっか」

「え、マジで」

「うん。マジで」


 手渡されたヘルメットを被り、バイクの後ろに乗る。


「あれ、このバイク。昨日欲しいって言ってたやつだよね」


 そう。昨晩の食事後にタブレットで一緒に見ていたやつ。流線形フルエアロで真っ赤な新型バイク。とてもお高いやつだ。


「ふふふ、買っちゃった」

「そっか。買っちゃったか」


 嬉しそうに買ったと口にするゆい姉。そんな彼女に文句などある訳もなく、逆にこちらまでその笑顔で嬉しい気持ちになる。


「飛ばしていくよ! レッツゴー!」


 バイクのフロントが軽く浮く。いきなりのフルスロットだ。


 おまわりさーん、ここでーす。スピード違反の人がここにいまーす!


「捕まらなければ大丈夫」

「いや、無理でしょ。アマテラスの監視からは逃れられないから」


 そう。今の日本国内で犯罪を犯す方が難しい。

 張り巡らされた防犯監視システムと、サポートAI搭載ブレスレットの着用義務。この二つによって犯罪を瞬時に未然に防いでいる。


 現にフォログラムで浮かぶ、俺のサポートAIが大袈裟な身振り手振りで警告している。


「法令違反を確認。緊急停止します」


 バイクから発せられたその言葉とともに、ゆっくりとバイクは道の端に進んで止まった。


「もう、ケチなんだから」


 いや、ケチってのは違くない。


「はぁ、また罰金取られた」


 ゆい姉の妖精風のサポートAIから、そんな報告を受けているのだろう。だから言ったのに、無理だって。


「車にすれば良かった」

「いや、同じだから」

「どうしよう。二十日間の免停だって」

「しょうがないよね」


 俺とゆい姉がバイクから降りると、バイクが自動で家に戻っていく。そんな切ない光景を複雑な感情で見送った。


「バイクに見捨てられた気分になるね」

「買って二時間もしないのに」

「切ないね」

「今日の予定がパーだよ。バイクに乗って素敵な夜景を観るのも。あ、予約してるレストランに間に合うかな」


 予約?初耳なんだけど。

 もしかしてサプライズってやつか。


「着替えもしなきゃなのに。いっそ、飛ぶか」

「私用で変身したら駄目だって。また怒られるよ」

「だよねぇ。最近特にうるさいし」


 いやいや。度重なる交通違反と任務中の過剰攻撃とか。例をあげたらキリがないよね。総司令に怒られるのもしょうがないよね。


「降格しても知らないよ」

「好きで昇格したわけじゃないし、いいよ」

「給料減っちゃうよ」

「それはやだ」


 二つ名をわがまま姫に変えた方がいいんじゃないか。今度みんなに言ってみよう。


「舞さん担任なんでしょ。どうだった」

「やばかった。あの人には歯向かっちゃ駄目だ」

「初日からやり合うなんて元気だねぇ」

「なんなんだろうね。あの怖いもの知らずな感じ」

「洸太と一緒だからだよ。みんな、高みへ挑みたくなるんだろうね」


 それ迷惑だから。俺は安全に生きたいからね。


「そういえば、洸太のクラスは今までで最高だってアマテラスが言ってたよ」

「将来の就職先。その最高司令官様にそう言われて光栄であります」

「あはははは、確かに。でもさぁ。なんか洸太のこと贔屓してる気がする」

「気のせいだよ」


 日本の偉大なる頭脳であるアマテラスが、俺なんかにかまってる暇なんてないから。

 それに贔屓してくれてるなら、希望した支援科に進ませてくれてもよかったと思うし。


「今日、ステーキ?」

「洸太が大好きなやつだよ」

「ならステーキだね」

「吐くまで食べてもいいからね」

「え、やだよ。もったいないじゃん」


 笑いながら、たわいもない会話を楽しみ、駅を目指して二人でゆっくり歩いた。



 ◇


「敷島一佐、初日から教室破壊ですか」


 学園長に呼び出され、その室内にある大きなモニターに映るアマテラスから苦言を呈されていた。


「元気ですよね」

「敷島教官。元気とか、そういう事ではありませんよ。教室を全て凍らせて破壊したなんて前代未聞ですからね」


 心なしか疲れた様子で学園長までも苦言を呈する。


「全ての事象には必ず始まりはありますから。それに、私にそこまでさせた生徒達を褒めるべきです」


 まさか私が遅れを取るとは思わなかった。

 彼が参戦する前の生徒達の自然な連携。そして、彼が参戦してからの見事なまでの阿吽の呼吸。彼が一を述べれば十を瞬時に理解し実行する。皆初等部からの付き合いとはいえ、連携といった側面だけでいえば既に完成されている。これで個々がメイガスとしての力を十全に振るえるようになれば……


「あのクラスは特別です。故に貴方を導き手に選んだのです。やり方は任せると言いましたが、ここが学園だという事だけは忘れないでください。くれぐれも軍の訓練所だと勘違いしないように」

「はい。留意いたします」


 しかし相変わらず美しい。話し方も表情も全て自然で美しい。これがアンドロイドだというのだから本当に驚く。

 しかも噂によれば性行為も可能らしい。まあ、その点でいえば個人所有のサポートAIもアンドロイドタイプに切り替えれば可能なタイプも既にあるし、アマテラスもそうだとしても不思議ではない、か。


「それで、速水洸太はどうでしたか。支援科に進めなくて不満に思ってはいませんでしたか」

「洸太、ですか。突然すぎて質問の意味が理解できませんが」

「彼は毎年春。少し、ほんの少しだけ情緒不安になりがちなので、少し心配になっただけです。彼に何も問題がなければいいのです。今の質問は忘れてください」


 まるで保護者や家族のような口振り。以前から洸太をやけに気にかけているとは思っていたけど。


「彼に何かあるのですか。二年前から彼を見てきましたが、クラス編成や指導内容などのそれら全てが、彼を成長させる為だけに敷かれていることは明らかです。アマテラス、貴方は何を隠しているのですか」


「敷島教官! 総司令に向かって、呼び捨てするとはなんですか!」


 表情に怒りを隠す事もなく学園長は椅子から立ち上がり、こちらに歩み寄ってくる。そして私は頬を強く叩かれた。


「確かに貴方はバトルメイガスとして優秀です。けれど、だからといって上官を呼び捨てにしていい理由にはなりません。今の貴方は指導者です。規律やルールを。バトルメイガスとしての在り様を、生徒達の模範となって指導する立場なのです。それを忘れてはなりません」


 自分の礼を失した発言に気付かされ、その言動を恥じる。


「誠に申し訳ありません」


 私はやや俯き加減でそう謝罪を口にするのが精一杯だった。


「長門学園長、貴方も席に戻り落ち着いてください。そして敷島一佐。今後は言動には気を付けてください。貴方の不用意な言動で周りが不快に思わないように、ね」


 私はただ、はいとしか返事が出来なかった。

 今日は本当に最悪だ。

 洸太の担任になって少し浮かれていたのかもしれない。

 明日からは気を引き締めていこう。

 彼等に相応しい指導者として。




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