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美緒に顔がそっくりの男が凍てつくような冷たい目で俺を見下ろす。そして、ゆっくりと男の手が伸びる。
「させません!」
いきなり俺の前に現れた輝夜が男の手を払った。
そんな輝夜に男は一瞬だけ目を見開いて驚きの表情を見せた。
(人形、貴様などに用はない。そこを退いてろ)
「この輝夜を人形呼ばわりとは失礼ですね」
男が輝夜に向かって振り払った腕を、輝夜は腰を沈めて躱すと、そのまま一歩踏み込んで男の腹を殴って叩き飛ばした。
「マスターすみません。遅くなりました」
かなりの距離を吹き飛ばされて男は上半身だけを起こして輝夜を睨んだ。
そんな時、少し離れてみんなを甚振っていた女が輝夜目掛けて蹴りを放つ。それを輝夜は片手一本で掴んで止めた。そんな輝夜に女は驚きの表情を浮かべた。
「銀髪メイドって、この私、輝夜と丸かぶりなんですよ!」
そして目障りです。と叫んで、足を掴んだまま女を地面に叩きつけた。
しかしダメージもなんなその、女はすぐに跳ね起きて輝夜に向けて拳と蹴りを連続して素早く繰り出す。それを輝夜は半身のまま一歩も動くことなく全て払い落としていた。
女は両手を地面について態勢を低くすると、そのまま輝夜の脚を払うために回し蹴りをする。輝夜はその蹴りを避ける事はせず、向かってくる脚を上から勢いよく踏んで止めた。女の脚からは鈍い音がした。
(ああああああぁーー!)
(人形風情が、その脚をどけろ!)
女の脚をギリギリと踏み潰す輝夜に向かって、男から風の刃が放たれた。
それを軽く輝夜は手を払って打ち消した。
「何を驚いているのですか。さっき貴方達もしていたではありませんか。貴方達が出来て、この輝夜が出来ない訳なんてないんですよ!」
輝夜は女の顔を蹴り飛ばすと、一気に男へ向けて飛ぶように間合いを詰める、そのまま拳で男の顔を殴り地面に叩きつけた。その衝撃で地面が割れる。
「私の大切なマスターを」
輝夜は馬乗りになって男の顔を左右の拳で交互に何度も強打した。
(この悪魔め、彼から離れろ!)
向かってくる女に、輝夜は男の髪を鷲掴みにして起こすと女に向けて男を投げた。
女は男を受け止めるような形になるが、勢いを止められずにそのまま後ろへ吹き飛ばされた。
「そんな男、要りませんよ」
輝夜はわざとゆっくり二人に歩いていく。
そんな輝夜の横顔からは今までに見たこともない怒りの感情が溢れ出していた。
あと五歩も歩けば、というところで女は男を抱いたまま姿を消した。
「逃げられましたか」
「いや、わざと逃がしたでしょ!」
元気なことに、ゆい姉は地べたに這いつくばったまま叫ぶと、ゴロンと仰向けになった。
「ハイエリアヒール!」
両手を上げて輝夜は回復魔法を使った。
緑の輝きがそこら中で倒れている俺達の周囲を包むと徐々に痛みが消えていく。
救援のヘリの音が聞こえ近づいてくる。
第一小隊、クラスメイト達を含めた五十名以上が衛生兵によってヘリに運ばれた。
そして戦場となった静岡の一つの町が地図から消えた。
この日、メイガスの落日と云われる大被害を二人の神から齎さられ。その脅威に人々は慄き、深く悲しんだ。
そんな中で俺達を救った輝夜は、点滴に繋がれベッドで横たわる俺の胸にちょこんと座っている。
横にはゆい姉たちも同じように寝かされていた。
あまりにも負傷者が多く、全員が集団部屋に押し込められていた。
俺のベッドの脇では申し訳なそうに座っている美緒とアマテラスが座って並んでいる。
「ごめんね、コウタ」
「いや、美緒が謝ることじゃないよ」
「私もすみません。輝夜の調整に手間取りました」
「いやいや、アマテラスまで謝らないで」
お兄さんがこちら来た理由と意図が分からず、今回美緒が二人の前に出ていく事は控えてもらった。
さすがに全員が倒された時は出ようとしてアマテラスに止められていたそうで、止めていたアマテラスの腕を噛むくらいに興奮していたみたいだ。
「ねえ、アマテラス。今度輝夜を私の訓練相手として貸してよ」
ゆい姉がやや不貞腐れながら話す。
『輝夜はマスターの命令しか聞きません。アマテラスに確認取られても困ります』
「だそうです」
アマテラスが困り顔でそう答えた。
「じゃあ、貸してもらうね」
『なんでそうなるのですか。それにあの姿はマスターにも負担を強いるので断固拒否します』
「洸太なら私の頼みは断らないわ」
うーん。それはそうなんだけど、負担ってやつが気になってオーケーをだせない。
「ちなみに負担ってなんだ」
『回答を拒否します』
ん、この展開は本当にやばいやつだ。
「ゆい姉、今回はあきらめて」
「いやよ。殺さないように手加減されて甚振られたままでいられるほど、私は、」
「洸太さんがその生命を縮めてもですか」
アマテラスの口から恐ろしい言葉が飛び出した。
それにはさすがのゆい姉も困惑して口を閉ざした。
だが、ちょこんと座る輝夜はゆい姉に見えないように笑ってウィンクをした。
そんな行動にますます疑心暗鬼になる。
けれど、この件を追及するのはやめた。
恐ろしい真実が待っていたら嫌だから。
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