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「え、なに。君達は誰?」
知らない女の子達に、いつの間にか背後を取られて少し焦りながら考える。
あ、そっか。と、軽く手を叩いて結論を導き出した。
「外部生か。なら驚くよね。いつもの事だから気にしないで観てればいいよ」
「本校の生徒って、上官に逆らうのが当たり前なの。それに言葉遣いも軽いし」
最初に話しかけてきた、たぬき顔の女の子の後ろにいる、髪の長いクールビューティーな女の子が不満げに訊いてくる。
「アマテラス曰く。自由な環境こそが、より良い魔法使いになるんだってさ。だから、制服はあるけど服装や髪型。言葉遣いも身だしなみも全部自由。感性を豊かにする事こそが魔法使いに一番重要らしい」
ふーん。と、訊いて理解しようとしてはいるが、いまいち納得出来ないようだ。
そりゃあそうだろうな。仮にも軍の施設だし。
そう思いながら騒がしく元気に暴れているクラスメイト達に目を戻す。
舞姉を包囲しながらちゃんと連携を取って時間差で上下左右から攻めてはいるが、舞姉の間合いに入った途端に吹き飛ばされている。
「凄い。人ってあんなに素早く動けるものなの」
「敷島一佐、ただ立ってるようにしか見えないのに……」
まあ、仮にも元トップエースで最強と謳われるゆい姉をボコボコにした人だからなぁ。強いのは当たり前。でもやりようはある。
「惑わされるな! 舞姉は攻撃していない。障壁を張って跳ね返してるだけだ!」
魔力障壁はバトルメイガスにとっては出来て当たり前の初歩の初歩。けれど、障壁の強度や範囲で変わってはくるが魔力消費が激しいのがデメリットで、実戦で使用するにはきちんと自分の力量を把握し、魔力切れなどというみっともない事にならないように常に残存魔力には気を配らなくてはいけない。だからこそバトルメイガスのトップ戦力達は魔力の効率化に創意工夫を欠かさない。で、舞姉がしてる事はというと、全身を囲むように障壁を張り巡らせるのではなく、相手の攻撃に合わせてピンポイントで最小限の範囲と強度で展開しているのだ。
まあ、言うは易しってやつなのだが、これはかなり高度なテクニックが必要だ。勿論、相手の攻撃に瞬時に反応し行動できる素養も高く要求される。実戦で活躍しているメイガスでも、あれを出来る人は五人もいないと思う。本当に馬鹿げた強さだ。
そんな訳で、そんな化け物に挑む勇猛果敢なクラスメイト達に俺はアドバイスを送り加勢する事にした。
「いいか、こうするんだ!」
一足飛びに舞姉の前に出て、舞姉が繰り出してくる魔法障壁を打ち消すように拳で穿ち、ガラスを割るように障壁を破壊した。
「重要なのは速度と集束!」
「あはっ! さすが速水くん、やるぅー」
「こら、洸太! ネタバラシが早すぎるだろうが!」
舞姉はそう叫ぶと、ギアを一つ上げて魔力を纏った拳で目に見えない連打を雨霰のように俺の全身に浴びせる。その激しい連打を同じように拳や腕に魔力を纏い、迎撃して打ち落とすように凌ぐ。
舞姉の意識が俺に集中している、そんな好機をクラスメイト達が見逃す訳がなく、舞姉の左右後ろから飛び込むように襲いかかるが、その攻撃は届かない。けれどそれは俺も含めて全て囮だ。
「とった!」
クラスで一番隠密行動に優れた朧が背後から地を滑るように舞姉の足を払い体勢を崩す。そのままひっくり返るように倒れる舞姉を、俺は僅かに踏み込んで片手で受け止めた。
「油断しましたね。俺達の勝ちです」
一斉に勝利を喜ぶ声があがる。が、何故か競うように次々とクラスメイトが抱きついてくる。
「ご褒美!」
「ちょっ、私が先だから!」
「いたっ!」
一瞬で俺と舞姉はクラスメイト達に群がられ押しつぶされて下敷きとなる。重いし痛い。けれど、何故か悪い気はしなかった。
悪くない。とても良い匂いだ。生憎、視界は塞がれてはいるが、とても柔らかい素敵な感触を全身で感じる。
そんな風に思っていた矢先。突然宙を舞い、天井に全身を強打して床に落ちた。
「ふざけるのも大概にしろ!」
爆心地の真ん中に、鬼が立っていた。
敷島舞一佐がバトルメイガスだった頃の二つ名【氷の魔女】その象徴とも呼べる鮮やかな青いオーラが炎の様に揺らめき彼女を包んでいた。
そして、舞姉を中心にして教室の床が円形に広がりながら凍っていく。
その怒髪天な様子にクラスメイト達は皆死んだふりをしていた。
その後の事は語るまい。
ただ、凄惨な目にあった。と、だけ伝えておこう。
俺達は世の中には絶対に叛逆してはいけない人がいるのだと、きつく骨身に知らされた。
こうしてなんとか無事に入学式を終え、前途多難な新生活がスタートした。
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