特殊防衛第一学園
今日と明日は一日5話投稿しますので、よろしくお願いします。
春、俺は自分の意志とは関係なく無事に高等部へ進学した。そして入学式での学園長と生徒会長の長いながーいお話も終わり、教室に戻り初等部の頃から教室やクラスメイトが変わっても、常に定位置として決めている窓際の一番後ろの席に座る。
肘を机について頬杖をしながらぼんやりと窓越しに外を眺める。
暖かで穏やかな春の日差しは眠りを誘う。
「今日も平和だな。まさに春は曙。世は情け。無限の夢も夢のまた夢」
「ねえ、色々と違うよねっ!なんか変に良い感じに混ざってるし!」
多分、微かに。ほんの微かに窓に映る幼馴染の姿は両拳を激しく振りながら俺につっこんでいた。
「絵里。世の中はパズルなんだよ。上手く組み合わせたもん勝ちだ」
「くっ、なんか妙に説得力がある……」
「無駄だ、絵里。洸太がこうなったら、ゆい姉にしか直せない」
こうなったらとはどういことだよ。
「おい。俺を見捨てて支援科に行ったお前達がなんでメイガス科にいるんだよ。さっさと自分達の教室に戻れ」
振り向く事もせず、窓越しに外を眺めたまま左手を軽く上下に払って彼等を追い立てた。
「見捨ててないよね!違うよね!こうちゃんが自分で決めたんだよね!」
「自分で決めた?なに言ってんだ。支援科に行くのを認めなかったのは学園だからな。誤解されるような事は言うな」
「あん。学園は認めてたよな。ただ、支援科なら学費援助が認められないから行かないって決めたのは洸太だよな!」
さすが幼馴染。的確に急所を突いてくる。
だってしょうがないじゃないか。両親を事故で無くした苦学生なんだから。国からの学費援助が無ければ学校に行けないんだよ。
「ふん。お前達金持ちには苦学生の苦難や苦悩なんて分かりもしないんだろうな。ほら、苦学生の俺なんかにかまわないで、さっさとクラスに戻ってイチャイチャしてろ」
ふん。二人が付き合ってる事も内緒にしてるくせによ。俺が鈍感男だと思うなよ。
「私達はお金持ちじゃないよね。どっちかといったら、ゆい姉のヒモになってるこうちゃんの方が良い暮らししてるよね。それに最近だと敷島一佐からもお世話してもらってるよね!」
「そうだそうだ!甘やかされてんのはお前の方だ!」
絵里のとんでも爆弾発言のせいでクラス中の視線が一気に俺に集まった。驚きの表情の中に非難の感情が伺える。
「え、速水くん。敷島一佐と?なにそれ、聞いてないんだけど!」
クラス全員から内緒にしていた事を責められるが、ここで動揺した姿を見せるのは悪手だ。男子たるものドーンと構えるべきだ。
「あ、舞姉はただの居候だから」
「い、居候!」
「え、なに。速水くんと敷島一佐って一緒に住んでるの!」
「しかも舞姉って呼んでるし!」
やばい、言葉を間違えた。非常にまずいこの展開を俺はどう打破すればいいんだ。
「なら私達も寮じゃなくて、速水くんと一緒に住んでもいいよね!」
な、なんでそうなる!
「速水くんは私達のリーダーだし、連携を深める意味でもそうした方がいいよね!」
「「「 賛成!!! 」」」
もの凄くまずい。それにいつ、俺がリーダーになったんだ!
「み、みんな、落ち着いて。な、とにかく落ち着こうよ。よーく考えてくれ。おれんちに二十人も住めないからね。うち、普通の一軒家だからね」
「こうちゃん、その言い訳は通用しないよ。みんな知ってるよ。こうちゃんちが大きいって」
「だっあああああ! なんでそんな事言うのかなあぁ。なんで大きいって知ってるの! 俺の個人情報は保護されてないわけ。アマテラスは俺だけに嫌がらせしてんのかよ!」
つい席を立ってつっこんでしまった。
なんでだよ。なんでいつもこうなるんだよ。なんでクラス全員から揶揄われなきゃならないんだよ。
「余裕余裕。余裕しょ」
「へーきへーき。みんなで住めるって」
「うん、楽しそうだね!」
駄目だ。俺にはこの流れを止められない……
「なにを騒いでる!ホームルームを始めるからさっさと席に戻れ。それに、そこの支援科の二人も早くクラスに戻れ、この馬鹿ども!」
珍しく白い軍服姿の舞姉が教室に入ってくるなり、威圧を込めた言葉と目で皆を一喝した。
絵里と晃はスゴスゴと静かに教室から出ていく。だが、クラスのみんなは席に戻りながらも抵抗の構えと反抗の言葉を放つ。
「敷島一佐。速水くんちに居候してるって本当ですか」
「しかも、葉山くんには赤城先輩という素敵な許婚がいると思うんですけどぉ。まさか略奪愛なんて狙ってませんよね」
「一佐ってぇ、アラサーですよね。少しは年齢差を考えたらいかがですか」
そのクラスみんなの発言に舞姉は怒りで肩を震わせている。
ねえ、なんでみんなはライオンに抗おうとするの。
ねえ、僕達はまだ、か弱き子羊なんだよ。そんなに死に急いでどうするの。
「ほほう。お前達はこの私にそんなふざけた口をきくのか。どうやら貴様らには上下関係をきっちり仕込まないと駄目なようだな」
怒りを押し殺すようにそう話した後、突然教壇の机が真っ二つに割れる。舞姉はただ教壇の机に片手をついているだけなのに。
「あ、もうこれは駄目だ。うん。あきらめよう」
「あ、あのう、速水さん。みなさんを止めなくてもいいのですか」
背後からそう問われて振り向くと小柄でたぬき顔の可愛らしい知らない女の子が焦った様子で少しキャドりながら胸の前で両手を結んでいた。さらにその子の後ろにもあきれた様子で反抗するクラスメイトを眺める知らない女の子が二人いた。
「え、なに。君達誰?」
知らない人に声をかけられ。しかもいつの間にか背後に居た彼女達に、俺はそう訊き返すのがやっとだった。
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