13
一日だけ、ゆい姉が目を覚ましていたのは一日だけだった。
先生や輝夜が言うには身体が回復状態に入っているだけだから問題ないという。寧ろ、一時的ではあるがあんなに早く意識を取り戻した事の方が奇跡だと言っていた。
ゆい姉が眠りについて五日が経った。
相変わらず俺は傍を離れることなく付き添いをしている。
「洸太。お前がここに居ても何も変わらん。いい加減に学園に来い」
今日も仕事帰りの舞さんから小言が飛ぶ。
毎日毎日、同じ事を言って飽きないのだろうか。
「ゆい姉が目を覚ました時に誰も傍にいなかったら悲しいじゃないですか。それに俺は学園なんかよりも、ゆい姉の方が大事ですから」
これも毎日繰り返しているセリフだ。そして最後は、なら学園を辞めます。と、言って終わりになる。
「そうか。なら、もう何も言わん。お前の好きにしろ。どうせ赤城が元に戻るまでは学園を休むつもりなのだろう。私が上手いことやっておくから安心しろ」
一瞬聞き間違いかと思ったが、舞さんは俺の頭をポンポンと軽く叩いて微笑んでいた。
気のせいだとは思うが、舞さんが女神かと思ったくらいだ。
「ありがとうございます」
「だが、バトルメイガスシステムのアップデートだけはしておけ。ほれ、これがパスだ」
システム用のカード型端末キーが手渡された。
「あの、これはどうやって」
「輝夜なら使い方がわかる。やつに聞け」
疑問に思ったが、輝夜ならわかっていてもおかしくはないと納得した。
「これは極秘事項だから何も聞くな。返事もするな。今から話すのはただの独り言だ」
俺の隣に座り、ゆい姉の顔を眺めながら舞さんは話し始めた。
「赤城達、第一小隊はドラゴンタイプの地球外生命体と交戦中に突如出現した巨大な黄金のゲートから現れた地球外知的生命体、仮称エンジェルと遭遇。そのエンジェルの圧倒的な力を前に、勝算はないと判断した赤城は、仲間達を逃がすために単独で敵と交戦した。
その仲間を逃がすための時間稼ぎは当初上手くいっていた。完璧というほどに見事に敵を引きつけ、その攻撃を凌いでいたのだから。
けれど最悪な状況に見舞われる。交戦域の海上に大型の漁船がいたのだ。彼等も必死にその場から離れようとはしていただろう。だが、彼等はエンジェルに捕捉され攻撃の対象とされた。エンジェルの高出力な魔法攻撃は人類が今まで経験したことのない程の強大な威力だった。それが漁船に向けて放たれた。咄嗟に赤城はその線状に飛び込み、信じられないことに赤城はその魔法攻撃を刀で両断して漁船を救った。だが、やつは狙っていたのだ。それを。全力を出した赤城の一瞬の隙を。やつが繰り出した白い蔦に赤城は魔力城壁を貫かれてそのまま自らも腹を貫かれる事になった。もはや致命傷だ。赤城も死を覚悟したのだろう。やつが放とうとした魔法攻撃を前に赤城は目を閉じた。そこにアマテラスが突然赤城の救出に現れた。そこからは分からん。一切記録がない。何が起きたのかは不明だが、アマテラスの手によって赤城は救われ。そしてエンジェルは倒された。以上が今回のあらましだ」
語られた内容に、ただただ絶句する。
何もかもが前代未聞の出来事で。嘗て無い、絶望の淵に自らが選択して、ゆい姉が立っていたということ。それも他人を守るためだけに。
「赤城を守りたいなら。強くなれ、洸太。あいつはそれが守る対象ならば赤の他人の為でも、平気で自らの命を差し出す愚か者だ」
はい。とだけ短く返した。
「けれど、私はそんな赤城が誇らしい。そして、自慢の後輩だ」
今までに見たことのない、優しい穏やかな目で舞さんはゆい姉を見ていた。
「ほんと、お前には憧れるよ」
そう言って身を乗り出し、ゆい姉のおでこを優しく撫でていた。
「そうだ洸太。お前一足先に赤城の隊に入隊しろと辞令が飛ぶぞ。まあ時期は赤城の復活と一緒だがな。心と体の準備はしておけよ」
「それって確定ですか」
「だな。長門学園長がそう話していたから間違いあるまい」
俺はそれを聞いて小さくガッツポーズをした。
「なんだ、珍しくやる気だな」
「はい。今度は俺がゆい姉を守る番ですから」
「まだまだ洸太に守られるほど、赤城は弱くないと思うぞ」
「わかっています。だから、必ず強くなります」
「私にもそう言ってくれても構わないぞ」
「それは遠慮します」
舞さんに頭を軽く叩かれた。
そして二人で笑い合った。
「あ、もしかしたら金剛も一緒に入隊するかもしれないぞ。そちらはテストの結果次第だがな」
「テスト、ですか。俺は受けなくていいんですか」
「お前は既に適合者と認定されているからな。テストなんてしない。金剛についてはその一歩手前だから受けてもらう」
適合者って、なんの適合者なんだ。
まさかアメリカの義体兵士みたいに人体改造とかされないよな。
それは嫌だ。かなり過酷で激痛を伴う手術後のリハビリをするらしいし、それだけは絶対に嫌だ。
「安心しろ。新型魔導武装の適合者だ」
俺はホッと胸を撫で下ろした。
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