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 気を抜いてしまえば今にも倒れそうな戦いの最中に一瞬、洸太と目が合った。

 それが少しだけ嬉しくて少しだけ笑みが溢れた。


 けれどその時、同時に悪い予感もした。

 戦闘中なのに私は足を止め、手を止めてしまった。


 そんな私の横腹を敵が蹴りつけた。

 無防備だった私は無様に蹴り飛ばされて地面を転がる。それでも私は洸太から視線を外さなかった。


「なるほど。あやつの最後が気になるか」


 鳥頭の敵が洸太を見つめて、そう語った。


 洸太がまぶしく光り輝く。まるで生命を燃やすようにまばゆく光り輝いている。


「 ……だ、め。だめよ、洸太っ!」


「ほう。これは見事なものだ」


 私はよろけながらも立ち上がり、ふらふらと洸太の傍に行こうとするが、中々足がおぼつかない。

 ただ洸太に向けて手を伸ばすことしか出来なかった。



 洸太が女王の肩口を浅く斬ると、最後に満足そうに笑って宙から落ちる。それを女王が両手で彼を受け止めた。


 二人を隔絶していた結界が割れた。


「我はこの偉大なる戦士に敬意を示そう。皆の者、戦いはこの時を持って終わりとする。そして、この小さな偉大な戦士に哀悼の意を捧げよ」


 この場にいるニビルの戦士達が全員武器を地面に置いて片膝をつくと頭を下げた。



「嘘だ、嘘よ! 洸太は死んでなんかいない!」


 私は膝から崩れ落ちながらも洸太の死を否定した。そんなのは絶対に認められないし、認めたくない。


 女王が彼を手に抱きながら、ゆっくりこちらに向かって歩いてくる。

 そして私の前まで来ると、彼を丁寧に地面に寝かせた。


「誠に見事だった。この者の全てが」


 満足そうに微笑んだまま、洸太は息絶えていた。

 私は彼の身体を抱くと、目から止めどなく涙が溢れてくる。


 彼を強く抱いて、私は涙を流した。



「勝手に私達の伴侶を殺すな、イシュタル。彼の死が確定してしまうではないか」


 そんな声と共に周囲が白金の輝きに染まると、天から琥珀がゆっくりと降りてくる。


「なっ、あなた様自らがどうして!」


 琥珀はまばゆい光りを放ちながら、私達の頭上で宙にとどまっていた。


「コウタは私の伴侶だ。そう簡単には死なせぬさ。結菜、安心しろ。ちゃんと身代わりの石が彼を護った。じきに息を吹き返す」


 琥珀が洸太を指差した。その彼の胸元にある金色の宝石が二つに割れているのが目に映る。

 それはブリッジで御守りだと言って琥珀が渡したものだった。


「さて、イシュタルよ。貴様に問う。まだ捕食者で在り続けたいか」


 女王はその場で膝まづき、その問いに答えた。


「いえ。その御役目はもう必要ないかと」

「そうか。では、これからどう歩むつもりだ」

「今後は我が種族のためだけに歩みたいと」

「そのために、また多くの生命を奪うつもりか」

「いえ。戦が必要であればしますが、正直なところ戦には飽きました」


 何がどうなってるのか分からない。そんな事よりも洸太の方が重要なのに。

 私は洸太が早く生き返るように願いをこめて強く抱きしめた。


「お前達も、ティアマトも。欲望のままに争い。その争いの果てに滅ぶことはもうなかろう。捕食者としての役目、ここまでとする。長きに渡り、世界の為に尽くしてくれたことを感謝しよう」


「いえ。御身からの感謝など身に余ります。ただ一つ、御身への願いがあります」

「申してみよ」

「この男。彼の伴侶に我が娘を加えていただきたい」

「え、それは私からはなんとも言えぬな。勝手に決めて嫌われるのは嫌だしなぁ。うーん、どうしたものか」


 急に輝きが収まり、琥珀ちゃんに戻って私の傍に降り立った。

 そして腰を折って洸太を覗き込んで悩んでいた。


「ユイナ、どう思う」


 そんなの私に振られても困るんだけど。そう言いかけた時に背後に人の気配を感じて顔だけを振り向かせると、輝夜ちゃんと凛花、そしてセオ達姉妹が立っていた。その全員の目が赤い。きっとさっきまで泣いていたのだと思う。


「輝夜はどう思う」

「輝夜に内緒にして意地悪した琥珀とは当分口をききません」

「私達は親友じゃないか。そんなつれないことを」

「その親友を騙したのですよ」

「いや、あれはしょうがないの。あの身代わりの石は、コウタを大切に思う者達が、心から願わないと発動してくれないし、本来はこの人数では到底無理だったの。だから余計に教える訳にはいかなかったのよ」


 その琥珀ちゃんの話を聞いて皆が絶句していた。


「 ……え、一歩間違えればこのまま死んでいたってこと」

「そうなの。私だってヒヤヒヤしたんだから。何度、私が理を曲げて飛びだしそうになったことか」


「まあ、輝夜のマスターへの想いだけでそんなのは充分ですけどね。今回は十日間のおやつ抜きで許してあげますよ」

「私を殺すきか」

「そんなので死にませんよ」


 そんな馬鹿馬鹿しい会話に焦れたのか、セオが女王の傍にいった。


「はじめまして、女王イシュタル。私はセオリツヒメです。いい加減に戦闘形態は解いた方がよろしいかと」

「ティアマトの皇太子か。噂通りの傑物のようだな」


 話し終えた途端に女王が人の姿に変わると、次々と周りにいた戦士達も人の姿に変わっていく。


 女王はやや浅黒の肌で黒髪ロングの壮齢で色気たっぷりの綺麗な人だった。そしてその女王を若くした感じで豊かな胸をこれでもかと主張した美人さんがセオに歩み寄った。


「はじめまして。私はイシュナ、次の女王となる者よ」


 なんとも言えない空気が漂う。

 セオは突き出された豊かな胸に対し、自身の慎ましい胸を突き出した。


「喧嘩でもうってるの。違うなら、その下品な胸を隠しなさいよ」

「はあ。そっちこそみすぼらしい胸を隠したらどうなのよ」


 互いに顔を突きつけて睨みあった。


「二人ともやめなさい。創世の女神様の御前ですよ」

「いい。構わないよ。それに一度くらいやり合わないと和議も結べないだろうし」


 二人は先程まで洸太が戦っていた場所まで移動すると、何も言わずに闘いをはじめた。


「はぁ。馬鹿ものどもめ」


 女王はそうあきれたように口にした後に二人の周囲に結界を張った。


「お姉様と互角だなんて信じられませんわ」

「あっちは根っからの戦闘狂ですから」

「なに言ってるのか。お前達もそうだろうが」


 ひめワカコンビに琥珀ちゃんがあきれながら事実を指摘した。

 もう、この状況についていけない。

 私は洸太を横向きに抱いて立ち上がり、宇宙艦に戻ることにした。


「凛花、みんなの回復をお願い。私は洸太を連れて先に艦に戻るわ」


 私はみんなのことを凛花に任せて溜め息混じりで洸太を抱いて艦に戻った。


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